蛮竜が砕けた。
その光景に幾千回と戦骨に襲われていた東西諸国の妖怪達は騒然と銀閃の欠片を散らして海面に沈んでいく妙の姿を見詰めていた。
五百年続く大名家・糸色家の当主を務める年若き女が血を纏い、まるで小虫を払い落とすが如く大妖怪の振るう尾に身を潰され、敗れ去った。
ほんの数瞬前まで破邪の霊槍「獣の槍」を振るう蒼月潮と並び、人間最強の一人だった
かつては妙の曾祖母・
「白面ッ、貴様ああああああっ!!!!」
がなる雄叫びに呆然としていた東西諸国の妖怪、自衛隊の人々、光覇明宗の法力僧達、そして、うしおととらは怒りに支配され、結界を張る者の中から攻撃に転じるものが現れ始める。
………人を守り、死ぬか……。
…愚かなり。やはり、糸色は愚かな血脈だ……
「お前がお妙さんを馬鹿にするんじゃねえ!!」
キイィィィィ……!
獣の槍もうしおの怒りに呼応するように鳴り、その攻撃により一層の力を与える。しかし、そんな彼らの姿を嘲るように白面の者が尾の一つを軽く振るった。
たった、それだけで白面の者に群がり、攻撃を仕掛けていた妖怪達の身体は殴り潰され、無造作に払われ、無慈悲に身体を裂かれ、空気が歪に割ける。
「どら゛あぁっ!!」
「グガッ、ギィッ……!言わんでも分かってらァ…!よくも儂の家来をブッ殺しやがったなあっ!!」
その中に紛れていたうしおは纏う鎧を砕かれ、とらは深く濃い紫色の血を噴き出し、血反吐を吐いて尚も怒りのままに火炎を吐き、雷撃を繰り出す。だが、それでも白面の者を滅するには届かない。
牙を剥いたとらが咆哮を上げ、バチバチと雷撃を迸らせ、獣の槍を起点に無差別に拡散・拡大していく雷撃によって白面の者の身体は青白い雷光に包まれ、白雷が荒々しく吼える。
「よくも、よくもッ、
吼えるとらの脳裏に覚えの無い笑顔が重なる。
人ではない筈の自分が知り得ないはずの人としての暖かい情景がとらの精神を蝕み、朧気に見える妙と彼女の笑顔がそっくりだった事を思い出す。