戦国最強の兇鬼・戦骨────。
その名前は幾度となく妖怪達の悲鳴と恐れ、少しの憧憬が混じった声で呼ばれていた。圧倒的な強さを誇り、誰よりも何よりも強く兇気を宿した現人鬼。
「地念児手製の薬草だ。直ぐに癒える」
「……ありがとう」
ただ、気になるのは私の名前に気付いた事だ。
ここは五百年前の戦国時代。私の血筋は五百年続く大名家ということもあり、血筋の始まりは戦国時代だと何となく分かっていたけど。
ご先祖様は知り合いって世間は狭いわね。
「糸色、お前はどうする?」
「一先ず、、未来に帰りたいわ。向こうで私の友達も家族もみんなが死に物狂いで白面の者と戦っている。どうにかして未来に帰る方法を探したい」
「まあ、そうなるか。その手の事に詳しいヤツが仲間にいるんだが、生憎と出払ってんだ」
戦骨の仲間ということは戦国時代に生きていた巫女か侍ぐらいしか思い付かないわね。いや、ひょっとしたら妖怪を従えている可能性もある。
「しかし、あの糸色の子孫とは思えないアグレッシブさだな。ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ……!俺も白面の者と戦いたかった!絶対に強いだろ!もういっそのこと泳いで襲いに行ってやろうかな!!」
「そんなことしたら殴るわよ」
「俺は弱いヤツと喧嘩するつもりはない」
「……これでも当代最強なんだけど」
「俺の蛮竜をへし折られたヤツが何言ってやがる。けどまあ、運が良いぜ。まだ蛮竜が諦めてねえなら、俺の鍛冶屋に頼んでやるよ」
私の苦言は正論で跳ね返された。
その言葉に本家に住み着いている妖怪の刀鍛冶を思い出して、先代あたりがいるのだろうと納得し、私は三角巾代わりに着物の中に仕舞っている右腕と右肩を擦り、痛みに顔を僅かにしかめる。
「(妖怪の刀鍛冶なら蛮竜を直せるかも知れないけど。そう簡単に直してくれるのかも怪しい。片腕か、下手したら魂要求されそう)」
私はなんとも陳腐な取引の条件を思い浮かべつつ、漁村の中を歩いていると無駄に視線が集まっている。いきなり、知らないのが現れたら警戒するわよね。
私だって警戒するもの。
「糸色、手ぇ貸すか?」
「必要ないわ、あと彼氏持ちだから」
「ほう?」
牽制のつもりで言った言葉に戦骨は面白そうに笑みを見せ、そのまま私に背中を向けて歩き始めた。コイツ、苦手なタイプかもしれない。