戦骨の後を追って二時間か三時間ほど歩いていたとき、瘴気や邪気の溢れた沼地に辿り着いた。こんな汚ないところに人が住めるのかと思いつつ、戦骨にいきなり抱き上げられ、沼地の奥に見える小屋まで駆け抜ける。
「っと、到着したぜ」
「……ありがと」
なんか釈然としないと思いながら地面に降りた瞬間、強烈な殺意を感じて虎翼を左手で振り抜き、重々しい剣を弾き上げ、穂先を突き構える。
しかし、その警戒は無意味に終わった。
「戦骨、蛮竜を壊しやがったなァ!!」
「俺じゃねえよ。壊したのは糸色だ」
「いとしきぃ?馬鹿言うな、アイツはもちっと淑やかに振る舞うだろう。ましてやアイツが儂のところまで足を運ぶわけがねえ」
そう言うと禿げた頭の鬼は私を見上げる。吟味や品定めの眼差しに不満を抱きつつ、虎翼を戻して着物の内側に仕舞う。先に攻撃してきたのは禿げ鬼だけど。
蛮竜を壊したのは私だ。
背負っていた蛮竜の柄を差し出す。辛うじて大鉾の柄部分に残っている、ごく僅かな刀身に彼は号泣し、オイオイと鼻水を滴しながら泣き叫ぶ。
「儂の蛮竜がこんな無惨な姿になるなんてぇ…!お前、何と戦ったらこんなのになるんだ!!」
「白面の者と戦っていたとき、竜鱗の力を使って攻撃を吸収しようとした瞬間に砕かれたのよ。もう一度打ち直して貰えないかしら?」
「……微かにあの女の臭いがする。嘘じゃねえな。だが、儂の蛮竜があの白面の者に負けるとは思えねえ粗末に扱ってないだろうな?」
「してないわよ。家宝よ?」
蛮竜の柄を持っていく禿げ鬼に言い返しながら小屋の中に入り、座敷の縁に座って砕かれた蛮竜を見つめる禿げ鬼を眺める。刀々斎にしては雰囲気が違うし、やっぱり先代みたいだな。
「直せる?」
「儂なら直せる。だが、蛮竜の穂先はお前の中だ」
「どういうことだよ、灰刃坊」
かいじんぼう。
全然、刀々斎じゃなかった。
いや、それよりも私の身体の中に蛮竜の穂先が入っているという禿げ鬼の言葉に首を傾げる。確かに、砕けて飛び散る蛮竜の欠片は幾つか受けたけど。
それのことだろうか?
「打ってやる。お前は黙って見てれば良い」
「……分かった」
「戦骨、お前も手伝ってやれ」
「蛮竜との出来事を思い出しとけば問題ない」
二人の言葉に悩ましげに溜め息を吐き、ゆっくりと砕かれた蛮竜を熱し始める禿げ鬼に目線を向け、目を瞑って蛮竜の事を考える。
カァン、カァン、と────。
鉄を打つ音が聴こえる。
強い。強い。ずっと私を支えてくれた蛮竜にまた息吹を与える音色を聴いて、静かに意識が身体の中に向かっていく。熱くまだ戦えると吼える声が聴こえる。