意気揚々と蛮竜に願った筈なのに、私は海の上ではなく家屋の中庭にタイムスリップしていた。マジで、タイミングも何もかも最高だった筈なんだけど。
そう思いながら蛮竜を担いで中庭を歩いていると既視感を覚え始める。私はこの場所を知っている。いや、知っているのは当たり前だ。
此処は、糸色本家の中庭だ。
「……でも、私の時代じゃないわね」
そう呟きながら砂利の上を歩いていると眼鏡を掛けた綺麗な女の人が木陰に椅子を置き、イーゼルにキャンバスを置いて絵を描いている。
すごく静かで安心できる匂いだ。
「あの、少し良い……ですか?」
「はい?」
ゆっくりと此方に振り返った彼女の顔を見て誰なのかを思い出した。糸色景。この世の改革・変革の明治時代に生きていた糸色家の女性だ。
じゃあ、戦国時代から明治時代にタイムスリップしてきたってことで良いのかしら?と思いつつ、私を見上げる彼女に少しだけ近付いてしまった。
「蛮竜……そう、貴女も私の子孫なんですね」
「えと、そう、なります」
おずおずと私は頷きつつ、蛮竜を地面に置いて敵対するつもりも傷付けるつもりも無いことを伝える。何年なのかは知らないけど、彼女は酷く薄命な人だった事は糸色本家の本にも載っている。
「フフ、怖がらなくてもいいですよ」
「糸色景……さん、よね?」
「今は相楽景ですけど。そちらで覚えているなら、どちらも正解です。貴女が来たのは蛮竜を使うために左之助さん……私の夫と戦うためですか?」
「違うわ。私は今も未来で白面の者と戦っている大事な人達を助けるために帰りたいだけ」
「白面の者と戦っているの?」
私の言葉に少しだけ目を見開き、直ぐに彼女は微笑んで私の頬に優しく触れた。糸色景の小さな手のひらに暖かさを感じ、お母様に抱き締めて貰っていた時の事を思い出す。
「貴女は頑張り屋さんですね。いつも誰かのために動ける、今も未来に居るお友達を心配している。でも、憎しみや怒りでは白面の者は倒せないんです」
「……分かっているわ。でも、どうすれば?」
「その答えはもう貴女も知っていますよ」
「私が?」
その言葉に戸惑うけれど。確かに、私は生まれたときから、白面の者と対峙したときも、何となく私は自分のやるべき事は分かっていた。
「誰にもわからない様に隠し味をつけるのは楽しい。だけど、それを見つけるのはもっと楽しいことです。貴女ならきっと白面の者も助けてあげられる、そんな正解が見つけられますよ」
「……オーライ。纏めて助けてあげるわ」
「フフ、良い子ですねえ」
「当然よ、貴女の子孫だもの。それじゃあ、もう行くわね、景お婆様」
そう言って私は蛮竜を担ぎ上げ、笑った。
「そういえば貴女のお名前は?」
「私の名前は糸色妙よ、景お婆様」
「それじゃあ妙さんも気をつけてね」
「問題ないわ。だって、私は糸色妙だもの!」