氷上を駆け抜ける私を踏み潰すために四肢を使い始める白面の者の身体の下を滑り抜ける最中に蛮竜を横薙ぎに振り抜き、ひび割れていく白面の者の指を切り落とし、一鬼と戦っている奈落を睨み付ける。
認めよう……
お前達の輝きは我に届き得る存在だ
しかし、我に誤り無し。我が有利の戦局を覆したのは貴様だろう。糸色、うしお、とら、お前達さえ完全に砕いてしまえば後は塵芥よ…!
ピシ、ピシリ、身体が砕け始める白面の者の言葉に嫌な予感を感じ、距離を置くために氷の上を駆け抜けようとしたその時、地面を突き抜けて現れた奈落によって私の足は絡め取られ、強烈な突風と身体に痛みを受ける。
「ゴフッ、げぶえ゛ぇ゛…!?」
ビチャアッ……!と胃の中からせり上がってきたものを堪えきれず、両膝を地面に落としながら吐き出してしまったものを見て目を疑う。
これは、私の血だ。
私は黒く濁った血の塊を吐き出してしまった。
じゃあ、この霧みたいに立ち込めているのは毒の霧?とハンカチを口許に添えて、ヒューッ、ヒューッ、と掠れた呼吸を繰り返しながら、私は目の前に現れた身体の半分が崩れて尚も笑う奈落を睨む。
「くくくっ。白面のヤツを取り込むつもりだったが、思わぬ誤算だ。糸色、その毒気に侵された身体で儂を相手に戦えるか?」
「…ッ、うぐ…」
ズリと足に力が入らずに蛮竜を持ち上げる力も抜け、自分の勝利を確信しているのか。奈落わざと緩やかに触手を私に向かって伸ばしてくる。
クソ、流石に不味いッ。
「寄るな…!」
辛うじて持てる手槍を伸ばし、触手を払うも容易く受け止められた挙げ句、柄の部分をへし折られてしまう。こいつ、わざと痛め付けるつもりだ。
白面の者と戦っている蒼月君ととらを呼ぶわけにも行かず、もう私の右足を掴んでいる奈落の触手に顔を歪めながら受け入れがたい現実に目を瞑る。
「……助けて、流君…!」
思わず、自分の口にした言葉に困惑する。
「儂を前にまた別の男の名か」
「バーカ。別の男じゃねえよ、彼氏様だ」
聞きたかった声が、聴こえると同時に私の四方を囲うように独鈷が氷上を貫き、白面の者の毒気を防ぐ結界に私は包み込まれる。
「よう。助けに来たぜ、妙」
「……フフ、ありがとう。流君」
そう言って鉄製のマスクを着けた流君の姿に、ほうっと安心してしまい、ゆっくりと腰を沈めて、私は彼の後ろ姿を静かに眺める。
「悪心を抱くものが、糸色を娶るだと?」
「悪心ねえ?こいつは俺なりに妙に向ける愛情だと思うぜ、奈落」
その言葉を皮切りに二人の法力と妖気が猛る。