真新しい物に興味津々なとらの巻き起こす騒動に蒼月君と私は困りながら次々とお店を周り、なんとか格安のホテルにチェックインすることが出来た。
「ありがとう。お妙さん、多分お妙さんが居なかったらマジでオレは野宿することになってたと思うんだ。だから、本当にありがとう」
「これくらい普通の事よ。それに初めての旅行なら尚更緊張して失敗もしてしまうものだから蒼月君の反応は誰も彼もが通る当たり前だから、ね?」
グシグシと目尻に溜まった涙を袖で拭おうとする蒼月君にハンカチを渡してあげ、ベンチの傍でウマカバーガーのご当地メニューを食べているとらにキャップを外したお茶を差し出そうとした、そのときだった。
強烈な殺気を背中に感じて後ろに振り返る間もなく頭を掴まれ、夕焼けの綺麗な街の見える柵に顔をめり込ませ、鈍い痛みに鼻血を噴き出す。
「がぁっ?!」
「お妙さん!」
「クソ坊主が追い付いて来やがったか!」
「オレは凶羅、槍と鉾を貰い受けに来た。ついでにそっちにいる妖怪の魂もな」
私の頭を掴んだままそう言って話し始める強面の男───凶羅の脇腹に二重の極みを肘で撃ち込み、小指を踏みつけて鼻を押さえながら蒼月君ととらの近くまで飛び退き、ボタボタと垂れる鼻血を拭き取る。
乙女の顔を何だと思っているのよ。
そう文句を言いつつ足と脇腹に淀んで狂気の混ざった深淵の闇を感じさせる目をやり、ニタァ…!と狂気的な笑みを浮かべて私を見つめてきた。
「……そうか。これが糸色家の長のみに許された万物必壊と謡われた破壊の極意『二重の極み』だな。オレの身体を突き抜ける妖怪のゴミみてえな攻撃を遥かに上回っている衝撃、骨身に効いてくらァ…!」
「蒼月君、鼻の骨を治すまでお願いできる?」
「おう!」
ペキ、パキッ、と嫌な音のする鼻を摘まんで空気の通りを確認しながらコンパクトを開いて鼻の位置を調整し、スウゥーーーッ!と空気を吸い込み、口の中に溜まった血を吐いてハンカチを口許に宛がう。
「よう。元気そうだな」
「貴方のオジサン酷すぎるわよ。おかげで鼻が赤くなって腫れたじゃない、骨の位置は治したけど。全く、女の子を何だと思っているのかしら?」
伸縮式の槍「虎翼」を横に振り抜いて引き伸ばし、とらと一緒に凶羅と戦っている蒼月君の真横を抜け、石突きで凶羅の鳩尾を突き、柄の部分を振るって顔を叩きつけ、柵の鉄柱に顔面を叩き落とす。
「あら、ごめんあそばせ」
「こんのクソアマ、やり返したァ…小生意気な!」
「生意気で結構よ、蒼月君!」
「カッ飛べええぇ!!」
そう言って独鈷を振りかぶる腕を虎翼の穂先で弾き、僅かに開いた凶羅の胴に蒼月君の振るった獣の槍が叩き込まれ、彼の身体を柵の外側に弾き飛ばした。