獣の槍によって紫色の血潮を撒き散らし、怒りや悦に入った笑みではなく苦悶の表情を浮かべる白面の者に向かって蛮竜を振り抜き、鎬の部位で無理やり白面の者の顎をカチ上げる。
「雷撃よ!」
「とら、此方も雷だ!」
「言わんでも分かってらァ!!」
ぎィッ…効くものか。我は白面ぞ
たかが雷ごときに怯む我ではない
白面の者は私達の放つ霊気と妖気の雷撃を受けて尚も怯むどころか逆に怒りを糧に強さを増し、突撃と火炎を吐いて私達の事を攻撃し、手酷くやられた鬱憤を張らすように暴れる。
「ゴホッ…ゲホッ…!滅茶苦茶すぎるわね」
「オイ!止まってる暇はねえぞ!」
「分かってるわよ、大将さん!」
毒気を防ぐマスクを着けているけど。獣の槍で強化されていない私の身体じゃそろそろ限界を迎える。蛮竜の纏わせてくれている雷撃ももうすぐ解ける。
そうなったら確実に私は戦線を抜けることになるけど。それだけは絶対に避けたいし、やらなきゃいけないことも終わっていない。
我は不死、とらの生きる限り。我は永遠に死なぬ。憎しみを向けよ、怒りを向けよ、それは我が糧と成る
「今更お前を恨んじゃいねえよ。憎しみは何も実らさねえのさ……」
「あら、良い言葉ね」
とらの言葉に感心しながら蛮竜の刀身を金剛石に変化させると同時に霊気を込める。即興で最速の威力は無いけれど。牽制には使える。
「金剛槍破っ!!」
その業は見飽きた。もはや通じぬ!
「それならコイツは効くかァ!」
私の金剛槍破を防ぐために尾を集中させた隙を狙い、蒼月君の繰り出した獣の槍は白面の者の首筋に突き刺さり、白面の者はけたたましく怨嗟の様な声を上げる。
「お妙さん、コイツは獣の槍と蛮竜にずっと視線を合わせてる。怖いんだ、オレ達の持つ
「成る程、道理で私の動きを先読み出来る訳だ」
「けっ。そんなおっかねえ物、儂だって好きじゃねえよ」
……認めよう。我はその二振りを恐れた
ならば、我の全てを知らす目など要らぬわ!!
私達の会話を聞いていた白面の者は一切の躊躇もなく自らの目に尾を突き刺し、視界によって攻撃を悟る方法を完全に封じた、
確かに目を潰してしまえば私と蒼月君の持っている最強の器物に視界を囚われることはないだろうけど。いや、白面の者には私達の位置が分かる。
「蛮竜ッ!!」
とらの片足を掴みながら最大範囲の結界を展開し、辛うじて二人の事を守ることは出来たものの、こんなに速く動ける相手にどうやって攻撃を与える?
「ったく。しゃあねえか」
「とら?」
ポツリととらがそう呟いた次の瞬間、私の顔に紫色の血が滴り落ちてきた。とらが、獣の槍を自分の背中に突き刺している。
「なん、で…!」
「バカとら、なにやってんだよ!」
「とんま!勝手に抜くんじゃねえよッ!!」
け、獣の槍の気配が消えた!?どこだ、どこに隠れたああああああっ!!
「────ッ、蛮竜の気配でバレるわね」
とらに目配せしながら結界を解き、私はわざと蛮竜の纏う妖気を全開で放出して、とらと蒼月君にトドメを任せるために二人の傍を離れる。
「白面、私は此処に居るわよ!」
糸色、せめてお前だけでもぉ!!
がむしゃらに突撃を繰り返す白面の者の巨体を躱し、直撃は避けているものの、氷の礫を背中や足に受け、痛みに倒れそうになる身体でなんとか踏ん張っていた。
───そのときだった。
蒼月君ととらが妖気を滾らせ、天を翔ける。
「「勝負だ、白面ッッ!!!」」
そこか獣の槍ぃ!シャガクシャアァ!!
その咆哮と共に白面の者は吶喊し、蒼月君ととらに向かっていき、二人の身体は白面の者の口内に呑まれていった刹那、白面の者の身体がひび割れ、砕けていく。
ばかな、ばかな!我は不死の筈。我は無敵の筈。我を憎むお前が在る限り、我は永遠に生き続ける!
「あいにくだったな。儂はもうお前を憎んでも恨んでもいねえのさ、真っ赤なお天道様が二つも儂を照らしてくれたからよぉ…かわいそうだぜ、白面」
砕け、散り、白面の者が終わる。
ゆっくりと熱風を使って、蒼月君ととらのところまで吹き上がり、とらの身体に手を置き、しっかりと消えかけ、無くなっていく白面の者を見つめる。
……だれか、名付けよ、我が名を……
断末魔からの叫びでも、哀惜の慟哭からでもなく、
静かなる言葉で誰か我を呼んでくれ
我が名は、白面にあらじ。
そう言葉をこぼす白面の者に近づいて私は抱きついていた。
「私が名を付けてあげる。
…………ああ、あたたかいなあ……
穏やかに笑い、私の中に消える白面の者。
ゆっくりと地面に降りて、私の事を不安げに見つめる蒼月君と気難しい顔で見つめるとらに「どうしたの?」と首を傾げる。
「オイ。良いのかよ、下手すりゃ儂みたいに」
「問題ないわよ。だって、私は糸色妙だもの。それと大丈夫じゃないのはとらでしょう!全く、背中に獣の槍を突き刺すなんて何考えてるのよ。ほら、此方に来なさい」
「お、おう」
私の剣幕に押されて近づいてきたとらの身体に手のひらを翳す。もしものときを想定して類に一回分の『癒やしの力』を貰っていたおかげだ。
「真由子さんに誓ったんでしょう。こんなところで消えたら地獄まで追いかけるわよ?」
「ち、誓うってどういう事だよ!?」
「けっ。これだから色恋に疎いヤツはよ」
蒼月君は困ったように首を傾げていると、キィィィッ……!と獣の槍は鳴り、粉々に砕け散るとジエメイさんと彼女に雰囲気の似た男の人が現れた。
この人が、獣の槍だった人か。
「ギリョウさん、ジエメイさんも!」
『
『そうすればお前は獣にならずに済むだろう。どうか我らをお前の温かい魂の内で休ませてくれ』
するりと二人は蒼月君の身体の中に入っていった。
「二人ともお疲れ様、ゆっくり休んでくれ…」
ぎゅうっと右手を左胸に当てて静かに目を瞑る蒼月君に何かを思い出したように「……するってえと、もううしおにゃ獣の槍は無いわけか」と、とらが呟いた。
「喰わせろ、うしおーっ!!」
「誰が喰わせるかぁ!!」
「……フフ、本当に変わらないわねえ…」
二人のやり取りに自然と笑みが零れる。