蒼月君を食べようとするとらを止めて、私達は結界の中心部に集まっていたしとりお婆様や御角お婆様に手を振り、流君に詰め寄っている強羅と杜綱悟の二人にクスリと笑みを向ける。
「妙ちゃん、抜け駆けしたって本当なのか!」
「お前、流石にズルはダメだろ」
「だから、俺の勝ちなんだってば」
そう言って口論を繰り返す三人に近づいていたその時、ふと白面の者───ううん、私の中に宿った巓の事をどう伝えようかと首を傾げる。
まあ、頃合いを見よう。
それに妖怪達がいないのも不思議だ。さっきまで白面の者討伐に大歓声を上げていたのに、みんな何処に行ったのかしらね?
石柱の上を飛び降りる人影に目を見開き、慌て出す蒼月君に「大丈夫。よう向かいに行ってるわよ」と空に向かって舞う金色の化生を私達は見上げる。
ゆっくりと井上のお嬢さんを抱き締めるとらは嬉しそうに笑っている。本条家の人に和風男溺泉を貸して貰えるか聞いておこう。
「とらちゃん、おかえり!!」
「言ったろ。百年も二百年も待たせねえって」
「あら、大胆なのね」
「とらが、真由子と!?」
やっぱり混乱する蒼月君を連れて、石柱の上に蛮竜で飛び上がると彼を出迎えるように蒼月君のお父さんとお母さんが揃っていた。
私もしとりお婆様達の方へ向かい、糸色本家の当主としての役目を全うした事を伝える。しとりお婆様は優しげな目を細め、ゆっくりと私の頭を撫でてくれた。
「ん。よく頑張りました」
「はい。やるべき事は糸色景に教えて貰いました」
「……そう、お母様が貴女を導いてくれたの。ん、やっぱり母ちゃんはすごいわね」
ほんの一瞬、しとりお婆様が子供に見えた。
「た、妙、何とかしてくれ」
「妙ちゃん、今からでも遅くないよ」
「そうだぞ。オジキもお前なら」
「あー、その事なんだけど…」
私達の会話する声が大きかったのか。
みんなの視線が自然と集まってしまう。でも、こうして全員が揃う機会なんてこれを逃したら無くなるかも知れないし、言えるときに言うのが吉よね。
スリスリとお腹を擦って流君を見上げる。
「デキちゃった♪︎」
「は?」
「絶対に逃がさないゾ♥」
にっこりと微笑んであげる。
私の言葉に大絶叫の合唱を上げる男性陣と打って代わり、蒼月君のお母さんやしとりお婆様、御角お婆様は嬉しそうに笑い、お祝いの言葉をくれる最中、日輪が白目を剥いて倒れてしまった。
日輪、貴女が私を慕ってくれていたのは純に聞いて納得していたけど。まさか、そんな風になるぐらい私の事が大好きだったのね。
「流、とりあえず殴らせろ」
「俺にも殴る権利はある!」
まあ、それで許してくれるなら安いものね。