蒼月君が男子トイレに行ってから、かれこれ十五分ほど経過してしまい、随分と遅いように思いながらも缶コーヒーを飲んで待っていると美男美女に遭遇した。
へえ、綺麗に人間に変化しているわね。
今までに出会った妖怪やホムンクルスは利己的な連中ばかりで、よく面倒事に巻き込まれて嫌な気持ちになることが多かった気がする。
「もし、そこの女」
「私に話し掛けるのはいいけど。バカみたいに妖怪を見下す僧侶だったらどうするつもりなのよ」
「貴女の纏う清浄な気配は他の人間とは比較することすら烏滸がましく存じ上げます。況してや貴方の纏う妖気、それは紛れもなく蛮竜のものです」
最後の言葉に思わず怪訝そうに一組の男女を見つめる。どちらも妖怪としてはそこそこ、更に年月と戦闘を重ねれば強い妖怪になるだろう。
私が真剣に戦うべきかを悩んでいると暗い表情で戻ってきた蒼月君とアクビを噛み殺すとらに視線を僅かに向けて、目の前の妖怪にも意識を集中させる。
「お妙さん、どうしよ…って、ナンパかよ」
「アホ、コイツらは妖怪だぜ」
その一言に蒼月君の表情が変わるもペットボトルを差し出して、彼の意識を落ち着かせてあげる。こんな公の場で獣の槍を使えば大変な事になっていた。
「話があるなら蒼月君が決めていいよ」
「良いのかよ、お妙さん」
「まあね」
妖怪の頼み事を引き受けるか引き受けないかは蒼月君に委ねるとして、蒼月君が何に落ち込んでいたのか。あとで聞いておかないといけないわね。
とらは退屈そうにアクビを噛み殺して、蒼月君の頭に乗って二人の事を観察し、見つめている。何かしら気になることでもあったのか。
「ありがとう!お三方、こちらへ!」
「ちぇっ。結局、こうなるのか」
「何怒ってるんだよ、とら。お妙さんもごめんな。でも困ってるみたいだからさ」
「気にしないよ。それはきっと良いことだから」
クシャリと蒼月君の頭を優しく撫でてあげると嬉しそうに笑い、私達は美男美女に着いていくように歩き出す最中に何で落ち込んでいたのかを聞く。
「えっ、お金を落としちゃったの?」
「そぉなんだよおぉ…!」
流石にビックリして蒼月君ととらを交互に見つめ、冗談ではなく本当にお金を落としてしまったことに苦笑いしながら「あとで交番に行ってみようか。ひょっとしたら見つかるかもよ。ま、もしものときは大丈夫だよ」と言い、フンスと胸を張ってドンと胸を叩く。
一瞬、視線を感じた。
やはり私を見つめる視線は多い気がする。