「雷信、かがり、まさかお前達が人間の手を借りるとはな。それに女の方は奈落の言っていた糸色の女だろう?どういうつもりで引き込んだ」
「この女が、奈落の!?」
奈落。
どこかで聞いたことがあるけど。でも、一体どこで聞いたのかは思い出せない。兎に角、嫌な気持ちになったことだけは覚えている。
それ以外は全く覚えていない。薄く袈裟を斬られた傷口と破れたシャツの裾を縛り、変化を遂げた蒼月君ととらが私を庇うように構える。
「お妙さん、大丈夫だよな!?」
「死んだらメシが喰えねえから死ぬなよ!」
「ハハハ、掠り傷だから安心して。それよりも奈落の言っていたっていうのが気になるわね。十郎君だっけ、お姉さんに教えて貰える?」
蛮竜を呼び寄せるタイミングと奈落という言葉に対して何かを知らなければいけないというお持ちが沸き上がり、髪の毛を鎌に変えて佇む鎌鼬の十郎君に問う。
しかし、彼の顔付きは怒りに変わった。
「何がお姉さんだ、人間。オレは五百年の歳月を生きてきた鎌鼬、貴様ごときに、況してや奈落の求める女の戯れ言を聞く気は毛頭無い!!」
「させるかぁっ!!」
「アホうしおがッ、ソイツの鎌は女の槍を切り裂いたのを忘れたのかよッ!」
蒼月君が獣の槍を振るって迫り来る鎌鼬の斬撃に対抗し、強烈な金属の衝突する嫌な音が響き渡る刹那、頭から血を流す蒼月君が見えた。
「蒼月君っ!?」
「へ、へへ、止めてやったもんね!」
ポタポタと額に傷を作りながらも蒼月君は獣の槍の穂先で十郎君の鎌を止め、ギリギリッ…!と鈍く重たい音を出して力比べをするように鍔迫り合いを始める。
「オレの鎌を止めやがったなッ」
「衾の時も凶羅の時も守られたんだ。今度は、オレが女の人のお妙さんを守らねえといけないんだ!!とら、いっくぜぇ!!」
「オオッ!任せとけぇ!」
そう叫んだ蒼月君が屋敷の外に十郎君を押し出し、とらと一緒に裸足のまま追いかけてしまった。しかし、どうしよう、不覚にも中学生にドキドキしちゃった。
いや、落ち着こう。
あれは蒼月君なりに恩を返そうとしているだけよ。
「妖怪を惹き付ける香りはしないけど。雷信兄さん、あまりあの女には近付かないでちょうだい」
「ムッ、そういうことを本人の前で言うものではないぞ。かがり、獣の槍の使い手殿は恩義を感じてああ言っているだけだろう」
「……貴方達も追いかけるわよ!」
熱い顔を冷ますために蒼月君の履いていたスニーカーを持って、三人の事を追いかける。全く子供にあんなことを言われるなんてビックリしたわ。
ちょっとだけ嬉しかったけどね。