【完結】風薫る日陰に寄り添う妙花   作:SUN'S

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静かな園で 序

暗闇の森を駆け抜けていく最中に見える獣の槍ととらの爪、十郎君の鎌がぶつかり合う金属の火花を頼りに疾風の如く走る二人の鎌鼬の後を追いかける。

 

月明かりに照らされた三人の間に蛮竜を放り投げ、身軽になった身体の屈め、地面ギリギリの低さを滑り込むように跳び、十郎君の胴に向かって両足を揃えての低空式ドロップキックを見舞う。

 

「くばあっ!?糸色ぃッ……!!」

 

「服の件はそれでチャラにしてあげる。蒼月君、さっきは助けてくれてありがとう。とっても格好良くて素敵だったわよ♪︎」

 

そう言って蛮竜を地面から引き抜き、ゆっくりと私の事を警戒する背中と両足を鎌に変化させ、木々を切り裂いて高速で駆け回り始める。

 

木々の死角を駆けて、私の隙を狙っている。

 

次々と変わる位置に目視で捉える事を止め、蛮竜を蛮竜を刀のように上段に構えて、両目を閉じて木々を断つ鎌の音に意識を集中させた次の瞬間、背後や左右ではなく真っ直ぐに突撃してきた十郎君に笑みを向ける。

 

「死ねえぇっ!!」

 

「死なないわ。だって、私は糸色妙だから!」

 

私は真っ直ぐに飛び込んできた十郎君の身体を袈裟に斬り、蒼月君ととら、二人の鎌鼬が見守る最中の極限の一瞬に勝利し、蛮竜を地面に突き立てて血を流して倒れる私とそう背丈の変わらない巨大なイタチに近付く。

 

「クソ、人間がッ…オレは負けねえ!雷信兄さんとかがりと住んでいた居場所を奪ったお前達に負けるわけにはいかないんだあぁッ!!!」

 

血涙と血を吐いて叫ぶ十郎君の姿に、私の歩みは止まってしまった。哀れみや悲しみで止まった訳じゃない、彼の気迫に思わず気圧されてしまったのだ。

 

いや、それほどまでに彼らを追い詰めてしまったのは私達なのだろう。彼の怒りには正当性があり、その怒りを私達にぶつける権利もある。

 

「お妙さん、もうやめようよ…」

 

「蒼月君、それがどういうことか分かって」

 

「分かるよ。……コイツらと比べれば大したことないかもしれないけど。公園のすみに錆びてボロボロのジャングルジムがオレの特等席だったんだ。それなのに、どっかの子供が怪我したからって勝手に壊して……オレの好きなものを持ってっちまう」

 

その独白に嫌な記憶が甦る。

 

私にも覚えはある「あなた様は当主になるために、こんはものは必要ないなのですから」という理由で私の宝物のピアノのオモチャを勝手に捨てた女中の人だ。

 

あとで分かったけど。アレは分家のヤツが送り込んできたスパイで私の行動を抑圧して、行動を支配して手駒にしようとしていたらしい。

 

「わるかったなあ…つらかったろうなあ……」

 

「…オレは、それでも……」

 

蒼月君は獣の槍を落として十郎君を抱き締めていた。とらも雷信君、かがりさんもその姿に争うことも言葉を掛けることも止めていた。

 

「お前は全く使えぬヤツだ」

 

「────そこを、退けえぇッ!!」

 

しかし、その光景は一瞬で破壊された。

 

 

 

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