白い毛皮を被った人、あるいは妖怪の横槍によって蒼月君と十郎君の分かり合える瞬間は邪魔されたけれど、十郎君は蒼月君の事を助けてくれた。
「糸色妙。背丈や顔はヤツに似ているが、その安らぎを与える気配は受け継がれているな」
「奈落、どういうつもりだッ!」
「こいつが、奈落?」
十郎君の怒りの混じった叫びに私は釣られて骨の仮面と白い毛皮を被った男を見据える。妖気は感じるけど、とらや十郎君達に比べると弱々しい。
「てめぇ、傀儡か?」
「くぐつ?」
「土くれと毛や爪を混ぜて作る人形のこったよ。戦国時代やよっと前の時代にそれを使って悪さする法師やら妖怪なんざごまんと居たぜ」
蒼月君の呟きにとらが応えた瞬間、なんとなく思い出してきた。奈落、かつて明治時代に「時渡りの方法」を見つけ出した糸色景が見初め、彼女の事を執着的に狙うようになった妖怪の名前だ。
───でも、奈落は巫女と半妖の少年が討った筈だ。
「儂の事を知っている様で嬉しく思うぞ」
ゾワリとした感覚に背筋が凍りつき、蛮竜を引き抜くと同時に熱風を繰り出す。だが、私の放った熱風は結界に阻まれて奈落の身体に傷をひとつも負わせることすら出来ていなかった。
僅かに仮面の奥の目が視線を変えた。
「雷信兄さん、かがり、離れろ!」
「十郎!?」
十郎君は雷信君とかがりさんを突き飛ばし、両足を鎌に変えて地面から飛び出してきた肉々しくブヨブヨとした肉塊の柱を切り裂き、空に舞い上がる。
「この土くれ風情が、儂の獲物を奪うんじゃえね!」
「その風貌、覚えがある。長飛丸か?」
「へっ。儂は貴様なんぞ知らねえなあッ!」
「いきなり出てきて、なにするんだ!!」
「お前達に興味はない」
とらは十郎君を狙う肉塊の柱を殴り砕き、獣の槍を振るって奈落に文句を言う蒼月君の二人の間を抜け、私を狙ってきた肉塊を蛮竜で弾き、青白い雷撃を放って肉塊を消し炭にして睨み付ける。
「私だってお前に興味ないわよ」
「くくっ。そう言っていられるのも時間の問題だ。糸色妙、お前ならば良い母になるだろう」
その言葉に空気が凍り付いた。
「下衆がッ!」
「蛮竜の人、あたしの後ろに!」
「貴様、血迷ったか!」
「お妙さんに何する気だ!」
「儂の家来に色目を使いやがったなぁ!」
鎌鼬の三兄弟と蒼月君ととらが私を庇うように立って、私は突然の出来事に困惑していた意識が戻り、奈落の発言の意味を理解して、より気持ち悪くなった。
こいつは、変態だ。
それも超弩級の変態だ。