鷹取家の崩壊後。
オマモリサマと呼ばれる幸福を呼び込む妖怪の解放する瞬間に立ち会うことが出来たけれど。座敷童子の去った家は衰退し、不幸に見舞われるという話は私でも知っている程に有名な物語だ。
しかし、随分と鷹取家の娘と仲良くなっていた。
それにしても私が露天風呂を楽しんでいる間に雲外鏡という妖怪と話していたらしいけど。一体、何を話していたのかしら?
「なあーっ、うしお、いいじゃねえかよぉ」
「むぐぐっ。……分かったよ、今回だけな」
そう考えているとバスに乗ってみたいと珍しく駄々を捏ねるとらに根負けし、蒼月君はちょうどタイミング良くやって来たバスに乗車する。
「うべっ…気持ち悪い…」
「お妙さん、バスもダメなのか?」
「酔い止めを飲めば平気よ、平気」
常備している錠剤タイプの酔い止め薬をケースからに取り出して口に含み、ゴクンと飲み込む。缶コーヒーを飲みたいけど、バス内での飲食はルール的にダメだ。
子供が真似したら大変だから特にね。
「……おい。うしお、来るぞ」
「来るって何が───ッ!?」
とらの言葉に蒼月君が疑問を返した瞬間、獣の槍は力強く鳴り響いた、その時だった。
バスのフロントガラスを突き破って現れたムササビのような妖怪を躱し、私は頭を撥ね飛ばされた運転手の握るハンドルに駆け出し、無理やり壁に向かって軌道を変えてバスを岩肌に衝突させる。
凄まじい衝撃と揺れに乗客の何人かが転ぶ最中、だんだんと大きく増える妖怪の気配に気付き、蒼月君ととらに「外の妖怪をお願い!」と叫びながら、乗客に降りて逃げるように伝える。
「蒼月潮を殺せ!」「獣の槍を壊してしまえ」「憎き女の息子だ」「喰ろうてしまおうぞ」「逃げるな、逃げるなぁ!」
「なにこれ、大合唱じゃない」
思わず、妖怪の群れの声に困惑する。
「この女もそうだ」「殺してしまおうぞ!」
私にも向かってきた妖怪に応戦しようと鞘袋を着けていた蛮竜を構えたその時、妖怪達の動きがピタリと止まって私の持つ蛮竜に視線が注がれる。
「ひぃいああああぁああぁぁあっ!!」「蛮竜だ!蛮竜を持っているぞ!!」「恐ろしや!またも現れたか戦骨の化け物がっ!」「嗤うな!我らを見て嗤いながら来るなぁ!!」「戦えぬ!もう己は戦えぬのだ!やめてくれ!追わないでくれえぇえ!」「死なぬ侍など知らぬうぅう!」「殺さんでくれえぇ!殺さんでくれえぇ!!」「蛮竜が、青き雷光が我を焼き焦がしていくうぅ?!!」「許してくれぇ!人はもう襲わない、襲わぬからぁ!」「長飛丸様ぁ!一鬼さまあ!お助けをっ、お助けをおぉおお!!」「獣の槍と揃っているなど知らなんだ!」「やめてくれえぇ!」
戦国時代に生きていた戦骨っていう侍は、どうやら妖怪に相当なトラウマを植え付けてしまう程に暴れまわっていた人だったと再確認し、どれだけ蛮竜が妖怪に恐れられているのかを認識できた。
「ねえ、ちょっと」
そう言って話し掛けようとした瞬間、私の近くにいた妖怪達は蒼月君を追いかけるように逃げていき、釈然としない気持ちになりながら私も蒼月君を追いかける。