無事に北海道までやって来れた私達は函館にいる。明治時代に巻き起こった
当時は日露戦争の後だって聞いている。
少なくともしとりお婆様や剣路お爺様の二人も黄金争奪戦に参戦していたというのも頷ける時代だけど。あの穏やかで優しいしとりお婆様が、本当にそんな血生臭い場所に居たのかと思うと不思議な気持ちになる。
「……鏢のおじさん?」
蒼月君達の楽しい笑い声を聞いていたとき、ふと剣呑な気配を纏う人を見掛け、思わず彼の字を呼んでしまうが、彼は振り返ることはなかった。
何かを探しているように見えたけど。彼の探す仇の妖怪は北海道にいるのだろうかと想像し、彼に近付こうとした刹那、小さなナイフが私の真横の電柱に突き刺さる。
ご丁寧に手紙も付いている。
『仕事だ。手出し無用』
なんとも簡潔的な言葉だと苦笑し、手紙をジャンパーのポケットに仕舞ってワイヤーと繋がったナイフが彼の手元に戻るところを見届け、私は蒼月君達を追い掛ける。
「鏢の野郎か」
「とら、お肉買ってあげるから駄目よ?」
「なら、あの焼かれてる肉だな!」
そう言ってとらの指差す方にあるのは見事な焼き目の付いた肉柱のケバブがあった。人間を食べるより、こういう食道楽を楽しんでくれれば私も嬉しい限りだ。
「ケバブを」
「はいよ。一人前かい?」
「いえ、全部」
「おう!ん?え?お、おう!」
困惑して断ろうとする店主に札束を手渡すと戸惑いながらも素直に受け取り、とらは鉄のポールにお肉を一枚一枚巻き付けて作ったケバブに齧りつき、美味しそうに食べ始めている。
人目はあるけど。あまり気付かれていない。
それどころか何人かはとらの事を認識して騒ぐどころか、むしろ当たり前の光景のように受け入れ、とらの事を微笑ましそうに見守っている。
……そういえば糸色景もしとりお婆様も一時期は北海道に居たっていう話もある。妖怪や幽霊、ホムンクルスに関連するものを知っているのは当然かも知れない。
「ぷふぅーっ、生のところもあって美味かったぜ」
「そこはレアかミディアムレアのところだね」
「みでぃ?まあ、知らんが美味かったぜ」
ぽいっと投げ渡されたポールを手に取って、未だに困惑しているケバブ屋の店主に「ありがとう。美味しかったって」と伝えて、お饅頭を食べている蒼月君に悪戯をしているとらにクスリと笑ってしまう。
本当に仲良くて羨ましいね。
「お妙さんも食べよう!」
「ありがとう。蒼月君」
彼の差し出すお饅頭を受け取る。
あ、これつぶ餡だ。つぶ餡好き。
「(缶コーヒーと一緒に食べたいな)」
そう思いながら自動販売機に百円を二枚入れ、缶コーヒーのスイッチを押し、取り出し口から受け取って直ぐにプルタブを開け、二日ぶりに飲めた缶コーヒーの味とお饅頭を楽しむ。