蒼月君と交流を始めて一週間ほど経った。
彼は疑うことを知らないのか、はたまた私の事を信頼しているのかは分からないけど。随分と親しげに私を見つけると話し掛けてくれる。
みかど市の宿泊宿に滞在する私のところに遊びに来ることもある。が、とらは蛮竜と獣の槍が同じ部屋にあることに心底辛そうで笑ってしまう。
「お妙さん、こんにちは!」
「こんにちは、蒼月君」
のんびりと妖怪やホムンクルスの動向を探りつつ、本家からの連絡も無ければお婆ちゃんと親しくしていたという黄金の羽を持つ孤高の極蝶が現れることは無い。獣の槍にも依然として変化は起こっていない。
バス停近くのベンチに座り、自動販売機に硬貨を入れて「どれが飲みたい?」と訊ねると「じゃあ、ぶどうジュース」と蒼月君は答えてくれ、私はいつものように缶コーヒーのボタンを押す。
「はい、どうぞ。蒼月君は学校帰り?」
「ありがとう。違うよ、部活中」
「部活か。懐かしいね、運動部?」
「美術部だよ。今は野外スケッチの場所探し」
へえ、蒼月君は美術部なんだ。
獣の槍に選ばれた人達も好戦的なヤツや穏和なヤツもいたなんていう話は光覇明宗のお坊さんに聞いたことあるけど。蒼月君は芸術に生きる男って訳だね。
「お妙さんもオレの絵見る?」
「見せてくれるの?」
「うん」
そう言うと蒼月君は画材を地面に置き、スケッチブックを見せてくれた。抽象画や風景画、動植物など真剣に書き込まれたスケッチブックの絵を眺める。
一枚一枚絵に向けられた真摯さと熱意が込められた作品を見つめ、ゆっくりとスケッチブックのページを捲る度に彼の芸術に捧げる想いに笑みが溢れる。
「ハハハ、凄くハイカラだね。私は好きだよ、こういう素敵な絵を見るのはさ」
「ほ、本当!?そっか、嬉しいなぁ」
「嘘は言わないよ」
空になった缶コーヒーをゴミ箱に入れ。スケッチブックを眺めながら「蒼月君、これ欲しいって言ったらくれる?」と思ったことを伝える。
「欲しいってオレの絵が?」
「そうだよ。君の絵、好きになっちゃった」
「……ごめん。そう言って貰えるのは嬉しいけど。まだまだ、そのスケッチブックに描いていきたいものは沢山あるから、全部のページが埋まったらお妙さんにプレゼントするよ」
「……フフ、じゃあ約束ね」
────思わず、私は蒼月君の言葉に笑ってしまいながら、小指を差し出すと指切りをしてスケッチブックの全てのページが絵で埋まったらプレゼントして貰える約束を交わした。