蝙蝠や黒犬に身体を変える赤い目の男。
如何に世間の物事に疎い私でも分かる、この男は映画や小説の題材になる程に有名な西洋妖怪の吸血鬼だ。それもとらや鏢の攻撃を受けて尚も瞬時に再生し、反撃を行えるほどに強い吸血鬼だ。
その強力な西洋妖怪に奈落も加わり、かなり戦況は悪い事になっている。コイツは自分の勝てる可能性が極めて高いタイミングでやって来たのだろう。
一番の問題は決め手に欠ける事だ。
八寸の削り抉る突撃は何度も使えるものじゃない。何度も繰り返して使えば槍を捻るタイミングを見切り、カウンターを受ける事もあり得る。
「邪怪禁呪、悪業を成す精魅!天地万物の理をもちて微塵と成す。────禁!!」
「ギィッ!?この殺し屋風情がァ!!」
「アホが、儂を忘れやがったなぁ!?」
七つのナイフを突き刺された状態で「禁」を受け、身体を焼き焦がす吸血鬼は下半身を黒犬に変えて突撃するが、とらの鋭く伸びた爪が黒犬を四つに切り裂く。
「しつこい男は嫌われるわよ、奈落!」
私は狒々の毛皮を被って攻撃してきた奈落の肉柱を抉り、破壊しながら、土くれで出来たヤツの身体を縦に斬るも斬った断面図から大量の肉の芽が発芽し、私の身体を取り込もうと手足に巻き付いてくる。
「き、気持ち悪いわねぇ!!」
北落師門を力任せに回転させ、肉柱を粉砕してとらの背中に蒼月君と同じように着地し、クックックッと楽しそうに嗤う奈落の胴体に北落師門を放り投げ、北落師門を引き戻して奈落の身体を更に細かく突いて崩す。
「無駄だ。核を壊さねば儂は消えぬぞ」
「ぐっ。本当に鬱陶しい」
「糸色、後ろに跳べ!」
「儂のだって言ってんだろうが!!」
鏢のオジサンの呼び掛けに応じ、後ろに飛び退いたその時、とらの顔が突き出るように現れ、奈落の下半身を噛み砕き、残った上半身をオジサンのナイフが貫き、僅かに露出した木片に狙いを定め、牛角十文字槍を高速で回転させ、木片を抉り削ぐ必殺の突き───八寸を放つ。
「迷惑料、今回は貴方の命で許してあげる」
髪の毛の絡み付いた木片の欠片を更に北落師門で破壊し、崩れ落ちる土くれの伸ばしてきた肉柱を二重の極みで殴り砕き、奈落の事を無視して北落師門を夜空に薙げる。
役目を終えた北落師門は北海道に居を構える糸色家の屋敷に戻っていく。小回りは効くし、槍術の技を使える分、蛮竜より使いやすいけど。
一番手に馴染むのは蛮竜だけね。
そう私は思いながら母娘に張られた結界に文句を言うとらと傷だらけの鏢のオジサンを見比べ、またやっているのかと小さく溜め息をこぼす。