湖の上を巡るという観光船に乗り込んでいく四人を見送り、私はベンチに座って挽きたてコーヒー豆をブレンドして作ったというコーヒーを飲みつつ、観光船に乗っている蒼月君達の事を見つめる。
「(私も乗り物酔いが無ければ一緒に乗るんだけど。とらはポヨンポヨンになったお腹を直すために飛んでいるし、久しぶりに一人きりだな)」
ゆっくりと紙コップを口許に近づけ、コーヒーを飲んでいると水面を切り裂く巨大な羽根にも見える刃を何枚も生やした巨大な生き物が湖を切り裂いて現れた。
観光船よりも大きな空飛ぶ生き物に暫し戸惑いながらコーヒーを飲み干し、空になった紙コップをゴミ箱に捨てて蛮竜を呼び寄せる。
「人様の迷惑を考えなさい!!」
蛮竜の巻き起こす熱風を推進力に観光船に飛び掛かる巨大な生き物の頭を斬り付ける。だが、蛮竜の刀身を叩き付けた瞬間、強烈な衝撃波を受け、逆に私の身体が弾き飛ばされてしまった。
体勢を立て直して観光船に着地したものの、思った以上の揺れに吐きそうになりながら口許を押さえ、片手で蛮竜を構えたまま再び飛び上がる。
「お妙さん、その羽根と斬り合っちゃダメだ!」
「蒼月君?!」
いきなり名指しで飛び込んできた彼の言葉を信じ、仰け反るように羽根を躱して、酔い止め薬を飲んで観光船の手摺に着地し、船内に残っている観光客の中に片山君と香上君と伏戸さんがいないことに気付く。
食べられた。
いや、それなら血の臭いがする筈だけど。
むしろ清浄な気配を湖の底に感じる。
それに、ここは洞爺湖だ。それなら北海道に居を構える糸色家の重要な場所、ウチの奉っている神様が三人の事を助けてくれる。
「とら!行くぞ!」
「チッ。しょうがねえなあっ!!」
蒼月君の言葉に応えて、とらはポヨンポヨンとしたお腹を揺らしながら飛び上がるものの、予想以上に食べ過ぎていたせいか。
いつもの軽やかな動きが遅くなっている。
船の揺れが止まった瞬間、私も手摺を蹴る。
そのまま蛮竜の熱風を利用して私も飛び上がり、身体の両端に巨大な一つ目を持つ生き物の身体を切り裂き、蛮竜の刀身が突き刺さるも分厚い皮に挟まれた穂先が引き抜けず、空を引きずり回される。
「まだ、衾でも言うこと聴いていたわよッ?!」
そう悪態を吐きつつ蛮竜の青白い雷撃を放つも全身に駆け巡る前に粘性の高い皮膚が雷撃を弾く。それならばと蛮竜の柄を媒介に二重の極みを叩き込むも身体を跳ね上げるだけでダメージを与えている感じはしない。
蒼月君ととらはどうなっている?と下に視線を向けた瞬間、とらの身体が真っ二つに切り裂かれる光景が私の視界を支配した。