「とらぁっ!!」
「ダメよ!くっ付けて!」
身体を真っ二つにされたとらに手を伸ばすも私と蒼月君の手は空を切り、ばしゃんっ!と水面に重いものが落ちた音が耳の奥に張り付く。
どうして、こうなったの?とらは最強の妖怪の一体の筈なのに、それがどうしてこんな空飛ぶ魚みたいな妖怪に真っ二つにされているの?
『馬鹿者、前を見よ!!』
「こんのおぉッ!!!」
いきなり頭の中に響くような怒声を受け、妖怪の身体に突き刺さったまま抜けない蛮竜を足場代わりにして、服の中に隠していた伸縮式の槍を伸ばし、妖怪の突撃を受け止め、無理やり弾き上げて軌道を変える。
観光船に落ちた蒼月君は大丈夫だろうけど。
蛮竜の一撃を使えない今私に出来るのは妖怪の意識を集めて、蒼月君と……必ず復活してくれるとらが戦えるようにコイツを食い止めること。
「臭う、臭うぞぉ…そこかぁ!」
「がぼっ!?」
何かを感じ取ったのか。
流暢に喋り始めた妖怪は水面を突き破り、水の底へとその巨大な身体を押し込めていく中、私は急激な水圧の変化に身体中の骨が軋み、酸素も無くなる感覚に焦りながら蛮竜を握り締めたまま空間の壁を越えた。
「ゲホッ!ゴホッ?!」
飲んでしまった湖の水を吐き出しながら蛮竜を引き抜いて地面に転がり、ギョロリとした気持ち悪さを感じる一つ目を睨み付ける。
「お妙ちゃん!」
「ああ、顔に傷が出来てるよ!大丈夫か!?」
「お妙、大丈夫!?」
「みんな、無事だったんだね。それなら」
ホテルのお姉さんもいることにはビックリしたけど。三人とも無事なら安心して風の傷も金剛槍破も使って倒すことが出来る。
「ははははははっ!!とうとうみつけたあっ!!サンピタラカムイ、どうやら貴様の頼みの綱の大鉾も遣い手が鈍くては使い物にならんなっ。五百年前、儂を切り刻んだアヤツもおらん!」
『オヤウカムイ、確かにあれ程の傑物はもはや今の世にはおらぬ。───だが、この人間達の強さは体に非ず、人間の強さは心だ!』
その言葉に思わず、笑みが浮かぶ。
「確かに、心は強さね。お婆ちゃんが言っていた。この世に不味い飯屋と悪が栄えたことはない。どんなに偉そうに言ったところで悪は討たれるものよ!」
「けっ。なら儂が腹一杯になるにゃ当分掛かるな」
「……フフ、そうでもないかもよ?」
そう言って蛮竜の矛先を突きつけた瞬間、真っ二つに切り裂かれたはずのとらの半身が砕けた穴から現れ、雷撃が巨大な妖怪の身体を押し退けると。
ゆっくりと御猪口を見据える。
「わ、私が飲みます。あのヘビを倒してくれるなら、この神酒くらい」
「仁礼さん!?」
片山君と香上君の二人は顔を見合わせ、私に顔を向けると天を仰ぎ見て、とらの飲んだ神酒と同じものが入った御猪口を半分ずつ飲んだ。
「や、やってやらぁ!」
「こうなりゃ自棄だ!」
鎌や鉈を構える二人にクスクスと笑いながら「期待しているわよ、二人とも!」と叫び、半身を取り戻しに向かったとらを追うように巨大な妖怪───オヤウカムイの身体を蛮竜で空間の外に叩き出した瞬間、私は水面を突き破って空を舞う。
「行くわよ!」
「こなくそおぉ!!」
「死んだら化けてやるぅ!」
情けないことを叫ぶものの、私を庇うように斧を投げつけ、矢を放り投げ、鉈でオヤウカムイの身体を切り裂く片山君と香上君の二人。
「しゃらくさいわぁ!」
「しゃらくさいのはアンタよ、風の傷ッ!!」
オヤウカムイの纏う強大な妖気と蛮竜の妖気の衝突する裂け目を切り裂き、風の傷がオヤウカムイの顔の一部を粉々に破壊する。
しかし、決定打には届いていない。
金剛槍破を撃つには溜めがいる。なにより空中で風の傷ほど正確に相手の身体を狙えるほど精度は良くない。そんなことを考えながら熱風を起こし、舞い上がったその時だった。
強烈な殺意と衝撃波を伴って蒼月君がオヤウカムイの羽根を切り落とし、その隙を狙うように二人が矢を射り、両端の目玉を撃ち抜く。
「よくも儂を真っ二つにしやがったなぁ!!お前も真っ二つにされる気持ちを味わいやがれぇ!!」
水面を昇って現れたとらが蒼月君をぶん投げ、オヤウカムイの身体を真っ二つに斬り、意趣返しの攻撃がヤツの身体を消し炭に変えていく。
流石は蒼月君ととらだね。