片山君と香上君、伏戸さんの三人と別れて最初のように三人の旅路に戻った私達は旭川まで、あともう少しだけという距離までやって来ているけれど。
ジメジメとした変な空気を感じる。
オヤウカムイ並みに強い妖怪は流石にもう出てくることはないだろうけど。蒼月君は獣の槍の赤い布の一部を引き千切ってから気だるげだ。
サンピタラカムイ様は獣の槍の赤い布は封印であり、無闇に千切ってしまえば寿命を削り、蒼月君の魂を喰われてしまう可能性もあるも忠告を受けた。
「きゃあーっ!?」
「ちょっと、大丈夫かい?!」
甲高い悲鳴で我に返り、振り返ると蒼月君が倒れているのが見え、慌てて蒼月君に駆け寄り、揺さぶらずに顔を弱い力で叩き、呼び掛ける。
「お、お兄ちゃん、死んじゃったの?」
「ううん、死んでないよ。睡眠不足と疲労困憊で気を失っているだけみたい。蒼月君のこと心配してくれて、ありがとうね」
そう言って男の子の頭を優しく撫でてあげる。
「アンタ達、姉弟かい?息子の風船取ってくれたのにごめんねえ…良かったらウチのバスに乗っていくかい?」
「えっ、でも」
「なぁーに、みんな優しいから気にしないの!ほら、登別までならちょうど通るし、私らに風船を取ってくれたお礼ぐらいさせておくれよ」
おばさんの矢継ぎ早に放たれる言葉の多さに私は戸惑いつつ、ゆっくりと頷いて蒼月君ととらと一緒におばさん達の乗っていたバスに乗せて貰い、一番後ろの長椅子タイプの後部座席に蒼月君を寝かせ、太股に頭を乗せる。
獣の槍に触れても私の髪は伸びず、蒼月君の様に妖気を纏う事もない。獣の槍を使える人間は心身を鍛えた者、そう光覇明宗の僧侶は言っていたけれど。
蒼月君の様に勇気も必要だと思う。
それに憎悪するだけじゃ連鎖は永遠と結ばれ、二度と解ける事の無い封印に成り果ててしまう。そうなってしまえば人間も妖怪もお互いに負の感情は廻り続け、白面の者さえも闇の中に囚われることになる。
「んっ、うぅ……」
「おはよう、蒼月君」
「…おわあっ!?お、お妙さんか、ビックリした」
私の顔を見るなり跳ね起きた蒼月君にバス内に笑い声が響き、彼を中心に笑顔と笑い声が広がり始める。バスの屋根に座っていたとらも「へっ。バカうしおがよ」と悪態を吐きつつ、静かに笑っている。
…やっぱり、まだ身体は完全に定着していないのか。私の持っていた包帯で巻き付けてもまだ縦に残った傷跡は痛ましく、登別に着いたらご飯をあげないといけない。
ペット扱いしているわけじゃないけど。
とらの食べ方を見ていると何だか元気が出る。