「(霧が濃くなってきた?)」
まだ冬の夜とはいえこんな時間に濃い霧が出来る外の様子に違和感を抱くものの、おばさん達と仲良く話している蒼月君は気付いていない。
獣の槍の赤い布の一部を千切って以降、やはり蒼月君の身体は獣の槍の強大すぎる力を受け止めるには足りないのか。いや、そもそも獣の槍は蛮竜のように遣い手を選り好みするタイプじゃない。
何かしら理由があるのは間違いない。
「蛇行運転なんて何を考えてるのよ」
そうバスの前に割り込んできた車に文句を言いつつ、吐き気を催す車の振動を誤魔化すために目を瞑り、静かにしていたその時、急ブレーキの衝撃で前の座席に頭をぶつけ、私は目尻に涙を溜める。
「いっ、たあぁ…」
「わ、悪いな。大丈夫かい?」
運転手のおじさんの言葉に「大丈夫。血も出てないよ」と返事を返して、道路の真ん中に車を停止させている血色の悪い男をフロントガラス越しに見下ろす。
随分と窶れた顔付きだけど。
さっきの蛇行運転する車に煽られたのかしら?
「おじさん、顔色悪いわよ?」
「ゴホッ…うるせえよ」
「心配してくれてるのに何て言い草だい!」
「落ち着きなよ、相手はヤーサンなんだから」
やーさん?と首を傾げる私に蒼月君が「ヤクザだよ。極道って呼ばれたりするらしいけど」と教えてくれた。へえ、ヤクザって言うんだ、初めて見たわね。
そう一人で納得していると蒼月君の頭を掴むようにバスの上から降りてきたとらが「やべえヤツが来やがった。うしお、さっさと逃げるぞっ!」と叫ぶ。
一体、何が?と思ったその時、ジャンパーが腐食したように崩れ落ち、慌ててジャンパーを脱ぎ捨てると袖に仕込んでいた仕込み槍が粉々に崩れる。
かなりの名槍だったのに!?とショックを受けながらもヤクザのおじさんを抱き上げ、触れたら危なそうな霧を避けて後ろに飛び退く。
「おおぉ~~~っ、大量の人間だあ~~~っ。はらいっぱい食べてやるぞおぉ~~ッ」
間延びした声で喋る顔が濃霧に浮かび上がる。
「な、なんだ、コイツはッ!?」
「チッ。ありゃあシュムナという
「……とら、たまに他の妖怪もお妙さんの蛮竜を見てその名前を恐ろしげに言うけど。戦骨ってそんなに強い侍だったのかよ?」
「ああ、武蔵国に生まれた侍だ。合戦に出りゃ敵陣に一人で突っ込み、妖怪と出会えば死ぬまで追い回す。命乞いも騙し討ちも不意討ちも真っ向で叩き潰す。儂も狙われたが二度と戦いたくないヤツさ」
「二人ともそれは今話すことじゃないわよ!!」
二人に注意しながらシュムナと呼ばれた妖怪の霧を防ぐために地面に蛮竜を突き立て、バスを出発させるぐらいには時間を稼げる結界を作り出す。