「クソ、なんで俺まで!?」
「乗りかかった船が良いだけよ」
とらの背中に私と蒼月君に無理やり乗せられたヤクザのおじさん──徳野信二と名乗ってくれた彼は咳き込みながらも残り僅かな弾丸を確認している。
破魔の矢。巫女の使う伝統的な弓術を用いた妖怪の退魔法ではあるけれど。私は弓矢を使うのは少しばかり不得手、使えるものも親戚筋の彼女だけだ。
刹那、私達の身体は何かに引きずり落とされた。
「ぐっ、ぬおぉおおぉおおおっ!!?」
「おじさんっ!私に掴まって!」
「馬鹿野郎、強いからって女がこの高さからの落下を庇おうとするんじゃねえ!」
手を伸ばす私を逆に抱き寄せ、巨大な岩石に激突する衝撃から守ろうとしてくれた徳野さんに驚きながら、クスリと笑みがこぼれてしまう。
蒼月君とととらと旅をしてきて、どんどん私の知っている男の人達とは違う人に出会える。やっぱり、こうして守って貰えるのも良いわね。
でも、私は四百年続く大名家「糸色」の当主だ。
「蛮竜、風を!!」
私の言葉に呼応するように脈動し、蛮竜は熱風を巻き起こして、私と徳野さん、蒼月君の三人を守ってくれたものの、とらは巨大な岩石に激突し、ミシリとその身体を岩肌をめり込まされている。
「ちっ、ちくしょお…!こんなとこに冥界の門があるなんざ聞いてねえぞ?!」
「めいかいのもん?なんだよ、それ」
「この国のあっちこっちにある別の世界への入り口さ。元々は犬の野郎と殺り合ってた死神鬼って野郎の業の名残とも言われとるが、人の魂も妖怪も吸い込んじまう真っ暗な穴だ。京都んとかいうとこの穴っぽこにゃあ、藻掻き苦しんで引きずり込まれた爪痕が残ってやがる」
ミシミシと岩の中に身体をめり込ませていくとらの言葉に蒼月君と徳野さんは「そんなものがあるのか」と冷や汗を流している。
いや、それよりもとらは「ししんき」と呼んだ。
「二人とも先ずは降りるよ」
「お、おお」
「お妙さん、とらはどうするのさ!?」
「大丈夫。獣の槍と蛮竜でとらを吸う力を断てば必ず助け出せるわ」
そう言って蛮竜を見据え、とらを見上げる。
「とら!ししんきって死神に鬼と書く名前よね!」
「それがどうかしたかァ!……ま、まさかお前?!」
嫌そうに顔を歪めるとらに笑みを向ける。
「私の蛮竜にも在るわよ、冥道残月破!」
「やっぱり、蛮竜なんざ大っ嫌いだぁ!!!」
ドクンッ……!
鈍い鉄色の刀身が真っ黒に染まり、蒼月君に視線を向けると同時に彼は髪を伸ばしながら、素早く岩を駆け上がってとらのめり込んだ岩の側面を切り落とした瞬間、彼らを引き寄せるために私は蛮竜を振り抜く。
「冥道ぉ……残月破ぁ!!」
ゴウゥ─────ッ!!!
真上に向かって切り上げた蛮竜は三日月状の小さな冥道を切り裂き、十数秒ほど周囲の物を吸い上げるも直ぐに閉じてしまった。
やっぱり、まだ使いこなせないわね。