「…んん……んッ…」
窓から射し込む陽射しに照らされ、もぞりと布団の中で身体を縮め、ぼんやりとした頭のまま上半身を起こし、乱れた髪を手櫛で少しだけ整えて、パジャマのまま旅荘の洗面台を目指していると流君が駐車場の端を借りて、稽古に励んでいる姿が見えた。
あの飄々とした態度の裏側では、いつも努力を怠っていないというのは好感を持てる。そう私は思いながら歯磨きと洗顔を終え、ドライヤーを借りて髪の毛を整えて、借りていた部屋に戻る途中、まだお腹の出ているとらと擦れ違う。
また、どこかで盗み食いしたのかしら?
ジーンズとシャツに着替える途中、蒼月君のアクビをする大きな声が聴こえてきて、クスクスと笑いながらヘアゴムで髪の毛をポニーテールに纏め上げる。
「おはよう、蒼月君、とら」
「お、おはよーっ!」
「けっ。今日も身体中に槍を仕込んでるのかよ」
「護身用の武具は必要だからね」
そう話しながら一階の食堂に向かい、女将さんに朝御飯をよそって貰う。うん、朝食はやっぱり温かくて美味しい白米の方が好きだな。
「おっ。美味しそうなの食べてるな」
「あ、昨日の……えと」
「秋葉流だ、宜しくな」
「うん!よろしく」
汗をタオルで拭う流君の事を座敷に座ったまま見上げていると「どうしたんだ。そんなに見つめてよ、オレにキスでもしたくなったか?」と顔を近付けられ、「ち、違うわよ!?」と慌てて頭を振って否定する。
そんなやり取りを朝御飯を食べている蒼月君は何だか不思議なものを見るように、じーーっと私と流君の事を見つめている。
「どうかしたの?蒼月君」
「いや、お妙さんなんか兄ちゃんと話してるとよく笑うんだなあって思ってさ」
「……私、笑ってた?」
蒼月君に言われて自分の頬を触ってみる。
口角が少しだけ上がっているようにも感じるけど、よく笑っているのかと言われるとどうだろうかと考える程度には変わっていない気がする。
「い、いや、違うんじゃないかな。私はこんな如何にもプレイボーイみたいな男の人にトキメキを感じるような安い女じゃないんだけどな」
「酷い言い草だな。あんなに抱き付いていたろ?」
「それはバイクでの話でしょうに!?」
あー、ダメだわ。
この人といると自分のペースも隠している事も引き出されそうになる。まあ、たまにそういう人はいるし。落ち着いて考えれば問題ないわね。
そう自分自身に言い聞かせながら、私は蒼月君ととら、流君と一緒に朝御飯を食べ進めていき、昨晩の出来事が嘘だったかのように穏やかな朝を迎えられた。