だんだんと次第に走行速度を上げ始めるバスに悲鳴を上げる乗客とバスの揺れに気分を悪くしながら、何度もブレーキを踏みつける。
だが、やはりブレーキを作動しない。
「ひひひっ。無駄だ、この乗り物は既に我らの身体の一部、獣の槍と蛮竜諸ともお前達を粉々に破壊してやろうぞ!」
「悪趣味な妖怪もいるものね…」
「白面の御方様はお主を求めておるのに、見向きもせぬ矮小な人間が囀るなっ。彼の御方に見初められた事、努々忘れぬことだ…!」
「へえ、やっぱり糸色はそういう血筋なのね?」
私とバスに取り憑いた妖怪の会話に蒼月君は戸惑っているけれど。今は話すことは出来ない、私と蒼月君がやることはバスを止めることだ。
「蒼月君、外に飛べる?」
「いや、150キロ出てるのに無理だよ!」
「ハハハ、冗談だよ。やるなら私がやるし」
蛮竜を引き寄せるにしても乗客が多すぎて、蛮竜で傷付けてしまう可能性もある。仕込み槍を取り出して、床に突き立てるも直ぐに修復と再生を繰り返し、バキバキと鈍く嫌な音を奏でながら穂先の霊槍を圧殺されしまう。
ゆっくりと柄の部分だけ残った槍を引き抜き、蒼月君に破壊された窓枠に柄をつっかえ棒のように引っ掛け、身体を最高速度で走るバスの側面に付け、荷物置きに向かって右手を翳す。
「蛮竜、来なさい!」
私の言葉に応えるように蛮竜は蛮竜の側面を破壊し、私の手の中に現れ、纏わり付いていた妖怪の群れを熱風で焼き焦がし、粉砕する。
「糸色っ!」
「女あっ!」
「とら、バイクの兄ちゃんも!?」
傷だらけの流君ととらに叫ぶ蒼月君にバスの中に引き込まれ、蛮竜を振るおうとした瞬間、両手両足、首に婢妖の群れが絡み付き、身動きが出来なくなる。
「ぐッ…!」
「このままへし折ってくれる!」
ミシミシと嫌な音が聴こえる最中、無理やり指先を使って蛮竜を振り回し、身体を締め付けていた妖怪を薙ぎ払い、バスの床に片膝を落とす。
「ゲホッ、ゴホッ…!」
「お妙さん、バスの真ん中に…!」
「え、えぇ」
喉の痛みを堪えながら通路の真ん中に乗った刹那、バスの前後が切り裂かれ、私の身体は宙を舞い、車道の上に着地し、後ろに振り返ると蒼月君がバスを突き刺し、強引にバスを停車させているのが見えた。
「止ぉまれえぇえええええっ!!!」
いや、あれだけじゃ止まらない!
蛮竜を地面に突き立て、突撃してきたバスに手を叩き付けて力任せに押さえつけるように踏ん張り、ガリガリと地面を砕きながらも、辛うじて受け止めることに成功した。
「ハ、ハハハハッ、強羅の言ってた怪力ゴリラってのはどうやら本当みたいだな」
「そこ、うるさいわよ!」
私のやったことに大笑いする流君に文句を言いつつ、蒼月君の無事を確かめようとしたものの。いつの間にか消えてしまっており、また置いてきぼりかと血まみれを揺らして小さく困ったように溜め息をこぼす。