「顔を見せてくれないと分からないんだけど」
「私の顔を見ても分からないわよッ」
そう言うと黒いライダースーツの彼女はヘルメットを掴み、ゆっくりと顔を隠していたヘルメットを脱ぎ捨て、悔しそうに私を睨み付けてくる。
でも、やっぱり知らない相手だった。逆恨み、嫉妬、利用、嫌がらせ、他の分家に頼まれたのかとも思ったけれど。私の記憶には少女なんて残っていない。
染めた可能性もあるけど。
いきなり髪を染めて私を責める理由がある。
「あなた、蛮竜が欲しいとか言ってたわね」
「えぇ、その大鉾は貴女に相応しくない!」
「じゃあ、蛮竜の出自を知っている?」
私の言葉に成り行きを見守っていたとらや蒼月君、流君、そして三人を襲っていた彼女の仲間達までもが私に視線を向けてきた。
やっぱり、コイツらは何にも知らないんだな。
「───凡そ五百年前、武蔵国に『戦骨』という豪傑無双の武士が現れた。彼は君主を決めず、彼方此方の戦場を歩き渡り、とある土地で『比古清十郎』という武士に出会う。全ての始まりは、この二人だ」
「待って…そんな…五百年前の記録があるわけ」
「残っているわよ、糸色本家にね」
彼女の足はふらつき、僅かに後退った。
きっと上面だけの言葉を聞いて、詳しく調べもせずに彼女は蛮竜を奪えば自由に使えると思っているみたいだけど。そう簡単に終わらせるわけにはいかない。
「そもそも蛮竜は糸色家の人間にしか使えないのは、蛮竜を作ったとき、蛮竜の素材に糸色家の女性が血を分け与えたのが切っ掛けだったのよ?」
「とら、そうなのか?」
「あん?確かに戦骨の蛮竜にゃあ家来に似た血の匂いは混じってたが、そこまで気にするこたあねえだろ?蛮竜なんざ刀々斎の爺と灰刃坊の作ったもんだぜ?普通の人間に扱えるわけねえだろ」
事も無げに蒼月君の質問に答えるとらに今度は視線が集まり、彼女達は何かを言おうと口を開けるも言葉が見つからないのか。右往左往と視線を動かし、何かを考え込んでしまっている。
「……全く、仕方ないわね。ほら」
ゆっくりと蛮竜を地面に突き立て、柄の部分をノックするようにコンコンと叩いて、使えるなら使ってみなさいと蛮竜を触るチャンスを与える。
「こ、ここは我らが!蛮竜よ、その力を示せ!」
大それた物言いで蛮竜を掴むも雷撃を受け、次々と吹き飛ばされていく度、彼女の顔色は悪くなっていく。本当にやめて欲しいのよね。
「光覇明宗も他の組織も勘違いしているみたいだけど。私達、糸色はあくまで交易や農業、化粧品、お菓子、物書きで存命する名家なだけで、予言の一族や世界の命運を操ったりするなんて事は出来ないのよ」
「じゃあ、なんで貴女はそんなに強いの?」
「お婆ちゃんが言っていたわ。強さにゴールはない。私が強くなりたいと願う限り、私は常に強くなり続けることが出来るのよ」
そう言って彼女に背中を向け、蒼月君達に「ごめんね。巻き込んじゃったよね」と謝りながら、とらの背中を借りて私達は移動を再開する。