「婢妖が身体を乗っ取っていた?」
「えぇ、心の隙を突かれて妖怪が乗り移ることは多いと聞いたことがある。あの杜綱悟って人も何か隙を生むものを使われた可能性があるわね」
私の言葉に不安げに顔を俯かせる杜綱悟の妹、杜綱純に「大丈夫よ。貴女のお兄さんは強いんでしょう?」と言えば「あ、当たり前よ…!」と顔を上げ、私の言葉にハッキリと目を見て言い返してきた。
しかし、蒼月君が私に隠れて雲外鏡のおんじと話していたというのは少しだけショックだ。私は隠し事は多いけど、君と居るときは何も偽っていないのに。
なんてことを冗談めかして思っていると月明かりを遮るように雲が、いや、雲のように巨大な妖怪に乗った杜綱悟が私達の目の前に現れた。
「お兄ちゃん…!」
「純、妙ちゃんも追うなと言っただろう…っ…」
ボコボコと身体の内側で蠢く婢妖を押さえ付けるように身体を抱き締める彼に駆け出す純を止められず、彼女の後ろ姿を見詰めていたその時だった。
「邪魔だ!」
「きゃあっ!?」
杜綱悟の顔が冷徹な笑みに変わった。
「いとしきぃ…!御方様を惑わす醜女がぁ!」
「誰がブスですってぇ!?」
少なくとも私は自分が美人だと自覚しているんだけれど!と叫びつつ、彼の身体を操っている婢妖の繰り出す方術を粉砕し、私に続くようにとらが雷撃を放つために、蒼月君が獣の槍を構えた瞬間、長数珠が彼らの身体を締め上げ、私の持つ蛮竜にも同じ数珠が絡み付く。
「柳月派不動縛咒。如何に槍と大鉾が強くとも貴様ら人間が生身で御方様に賜った我らが力を弾くことは不可能と知れ!」
「あっそ。なら、此方で行くわ!」
「蛮竜を手放しッ!?」
「ブスって言ったから一回やり返すから!」
「ガハッ!?」
ご高説を垂れる婢妖の言葉を無視するように蛮竜を手放して両袖に仕込んでいた二本の手槍を同時に繰り出し、狩衣の袖を突き刺し、槍を捻り込み、腕を締め上げると同時に杜綱悟の胴を蹴って押し倒す。
ふと何か昔にも似たことがあったとデジャヴを感じる。
「お、おのれ、我らを足蹴にするとはやはり御方様が見初めるには相手として相応しくない!さっさと退かぬか、このっ!!」
「うわっ、口からも婢妖出せるんだ」
あまりにも怪奇的な光景にビックリしながら刀身を縛られて宙に浮く蛮竜の柄を掴み、力任せに長数珠の封印を吹き飛ばして構える。
「あんの雑魚妖怪がァ…!」
「糸色、大丈夫か?」
「私は平気だけど。純のほうが危ういわよ」
さっきの平手打ちで兄に対する困惑と取り憑かれた彼の変わった顔つきに不安を抱いてしまっている。どうにかしてあげないと大変な事になるわ。