「ガフッ!」
「お兄ちゃん!」
「みんな、手伝って!彼を押さえていないと中に入り込んでいる婢妖がまた杜綱悟の身体を使って、どこかに逃げようとするわよ!」
バタバタと手足を動かして暴れ狂う意識のない身体を押さえつけ、流君と純の真剣な眼差しが未だに目覚める気配のない彼の顔に向く。
二人の事も心配だけど。
私はまだ私の事を「妙ちゃん」と親しく呼んだ理由も聞いていない。もしかしたら、子供の頃に会っているのかも知れないと考えたものの、あまり杜綱悟も杜綱純の事も私の記憶にら残っていない。
「ぐッ…くあっ?!」
「やめてっ、お兄ちゃん!」
純の押さえていた筈の左手が私の首を掴み、ミシミシと首の骨をへし折るために力を込め、気管を潰されて空気も吸えず、ジワリと意識が遠退く。
「悟!てめえ、死ぬ間際に道連れする気か!」
「ダメッ!お妙ちゃんまで居なくなるなんて!」
私の首にめり込んでいく指を外そうと躍起になる全員に押さえつけることを優先するように告げる。それに、彼が味わった痛みと苦しさに比べれば、この程度の窒息しそうになる程度じゃ問題ない。
『おい。蛮竜と黒い女っ、目玉に気力を撃ちな!あんまり頼りたかねえが、お前らの力でコイツん中に潜んでやがる親玉を外に弾き出す!!』
とらの声が杜綱悟の口から聞こえることに驚きながらも意識が刈り取られる前に一か八か試す他ないと純の肩を掴み、一緒に杜綱悟の目を見据えた瞬間、目映い光が彼の瞳孔に吸い込まれていく。
法力、いや、気力を吸われた?
そう考える間もなく飛び出してきたのは蒼月君でもとらでも二人を導いた小さなキツネでもなく、腹の背に蜘蛛の痣を持つ小さな生き物が私達の間を飛び跳ね、ぐねり、ぐねり、と身体を震わせる。
「ケホッ、ゴホゴホッ…!」
杜綱悟の緩んだ手を急いで外し、空気を吸い込みながら形を成していくソレを私達は見つめる。白い、汚れを知らぬ無垢な白が其処に佇んでいた。
「全く手荒な真似をする」
声変わりもしていない声が暗闇の中に響く。
「まさか、奈落?」
「ホウ。流石は糸色の家系だな。儂を覚えているか…いや、奈落の横恋慕に付き合わされていた分、儂に対する怒りは相当の物だろうが赦せ」
ゆっくりと浮かび上がった真っ白な少年は「さて、儂の薙刀を返して貰うとするか」と呟き、何処かに行ってしまった。結局、杜綱悟の身体の中で何が起こっているのかも全く分からないままだ。
「な、なんだったんだ?」
私達が困惑する最中にもまた杜綱悟の身体が跳ね上がった刹那、蒼月君の握り締める獣の槍が一つ目の妖怪の身体を貫きながら飛び出してきた。
良かった、今度こそ成功したのね。