私と杜綱悟の記憶に全く残っていない約束の事で面倒臭いことになっていたそのとき、私達の背後から強烈な威圧感と殺気を感じ、地面に突き立てていた蛮竜を地面から引き抜いて構える。
「……蒼月、くん…?…」
「馬鹿野郎!離れろ、そいつはッ!!」
ガタガタと危険を伝えるために鳴動を繰り返す蛮竜に視線を僅かに向けた刹那、私の身体を貫くように放たれた獣の槍の矛先を蛮竜が防いだ瞬間、刀身に大きな傷が刻まれ、私の身体は吹き飛ばされる。
こ、これが獣の槍の本来の力、全身が痛みで痺れてまともに動かないっ。止めなきゃいけないのに、心臓が弾けたみたいに痛いッ……!
「うしお、てめえ儂の家来を殺す気だったなあっ!!そっちがその気なら儂だってお前を喰ってやらァ!!おい、なんとか言いやがれ!」
「長飛丸、そいつはもう蒼月潮じゃねえ!手加減してるとマジで消し飛ばされるぞ!」
キツネ君の叫び声に漸く事態を把握した流君や杜綱悟、純、他の光覇明宗の僧侶達も駆け出し、蒼月君に向かって方術を使い始める。
───けれど。
その方術の悉くを獣の槍は間合いに僅かでも入った瞬間に斬り伏せ、斬り砕き、真っ直ぐ一直線に私の元へと走り向かって来る。
ボタボタと口から溢れる血をジャンパーの袖で拭い、斜め一文字に傷を刻まれた蛮竜を構えて、ほんの数秒前まで蒼月君だった「獣」に蛮竜を振るう。
「ぐうぅっ…重ったいなあ!」
「ギィイィイイイーーーッ!!!」
超重量の蛮竜を力だけで押し返してきた蒼月君の持つ獣の槍の柄を掴み、力任せに地面に叩き伏せる。が、蒼月君はけたたましく咆哮を上げ、両足を狂ったように暴れさせながら私のお腹を蹴り潰した。
ミシッ、バキリッ…!と鈍く嫌な音が響いた。
「ゴブッ…おえ゛ぇ゛っ…」
べちゃり、どちゃっ、と内臓がたった一回の蹴りで傷付き、血を吐きながらも蒼月君の持つ獣の槍に手を伸ばす。しかし、大きく裂けた蒼月君の口に生えたイビツな牙が私の肩に食い込み、血が噴き出す。
血脂を使って抜け出した蒼月君を追い掛けようとしたものの、彼は森の中に飛び込んでいき、獣の咆哮と恐ろしい程に強烈な威圧感を放ち続けていた。
「……クソ、そういうことだったのね」
道理で糸色本家にいる分家の奴らは私が蒼月君ととらに会いに行くことを止めないわけだ。こうなることをアイツらは分かっていて、わざと私の精神を揺さぶるために、この光景を見せたかったんだ。
そりゃあ「うしおととら」の続きを隠すわけだ。
本当にムカつくわね、あの耄碌したゴミが。