緩やかに地上に降りた私を出迎えるように数多の妖怪が列を成し、じろりと私の身体を吟味するように見つめ、蛮竜を構えても怯え竦む事はなかった。むしろ懐かしむように見つめる者が多い?
『この者達は皆、しとりに救われた者達』
「しとりお婆様に?」
救われた。
あの人は人だけじゃなくて妖怪も助けていたのかと驚きながらも何処か納得し、私も蛮竜を握り締める手を緩め、地面に突き立てて彼ら彼女らを見上げる。
大きく猛々しく恐ろしく傷付いて尚も美しい姿だ。
ふと数多の妖怪達をすり抜けて、遠野の森で出会ったスネコスリの親分君が私の胸の中に飛び込んできた。温かくて安心する、しとりお婆様の匂いがする。
『皆々様、糸色妙殿に御助力をお頼み申し上げる』
「我らは構わぬ。げぇむの捨てゴマや雑魚のように扱われる日々に囚われていた我らを救ってくれた子の子孫ならば如何様に扱ってくれて構わぬのだ」
一人が喋り始めた事を皮切りに、口々にしとりお婆様に対する感謝の言葉を私に伝えてくれる。それがどうしようもなく嬉しくて、自然と笑みがこぼれてしまう。
「此方こそしとりお婆様と共に歩んでくれて、ありがとう。あなた達のおかげで、しとりお婆様は今も健やかに生きている事が出来ています」
ゆっくりとお辞儀すると楽しそうに笑う声が聴こえ、その笑い声の鳴り止む頃には妖怪達もジエメイの眼差しも真剣なものに変わり、私も真っ直ぐ彼らを見つめる。
この後に起こることは知らない。
『皆々様、獣の槍に魂を吸われようとしている子のため、しとりの曾孫のために、今一度だけ御助力をお頼み申し上げる』
「その問いの答えは決まっている」
「そうとも」「決まっている」「然り」「我らは時逆殿に聞いているのだ」「あの時、我らは太陽のごとき笑顔に魅せられてしまったのだ」「故に」「そう、故に」「我らの身は汝のためにある」
そう言うと数多の妖怪達は列を成し、渦を巻くように私の周りを走り始める。何をするつもりなのかと彼らを見ていたとき、ジエメイに「蛮竜を突き上げ、掲げてなさい」と言われ、親分君を地面に下ろして蛮竜の柄を掴み、私はゆっくりと突き上げるように構えた。
───その時だった。
しとりお婆様と共に歩み、戦った筈の妖怪達は蛮竜目掛けて突進し、獣の槍によって傷つけられた傷痕に吸い込まれるように消えていく。
「待って、ねえ何してるのよ!?」
「我らの願いは一つ、また彼女の笑顔を見たいのだ」
揺らめく炎が笑いながら最後に蛮竜に入り、あれほど深く刻まれていた蛮竜の傷が完全に塞がり、妖怪の全てを取り込んだ蛮竜を見上げる。
「みんな、一緒に戦ってくれるのよね」
ドクンッ……!
私の問い掛けに答えるように蛮竜は鳴動し、私は蛮竜を肩に担ぎ、さっきよりも強く強く蛮竜の放つ力を感じながら、熱風を巻き起こして月の照らす空に舞い上がる。
「それなら、みんなで一緒に行くわよ!」