ふと蛮竜が何かを訴えるように鳴り、視線を洞の方へと向けると蒼月君ととらが出てくるのがうっすらと見えた。ああ、良かった。怪我はしてあるけど、二人とも何事も無く出てきてくれた。
「流兄ちゃん、杜綱さんもいる!」
「潮、儂には挨拶はなしか?」
「オヤジ?オヤジぃ!?」
ワイワイと楽しそうに騒ぐ男の人達を遠目に眺めているととらが「お前は行かねえのかよ」と言ってくれた。でも、今だけは女の私より彼らの言葉の方が伝わる。
「けっ。おめえもめんどうくせえな」
「あら、とらだって私を心配して来てくれたのに?」
「ばっ、ちげえよ!!」
「ハハハ、ウソだよ。ありがとう」
「……フン。おめえは儂の家来だからな」
「そうだねえ」
にっこりと私は笑ってとらと一緒に話を終えた蒼月君達の元に近付き、これからどうするのかを蒼月君に聞く。このまま東京に帰るなら、私も一度長野県の信州市に戻って糸色本家に帰ろうかな。
「その前に一度光覇明宗の本山へ向かうと良い」
「蒼月君のお父さん?」
「お役目様も待っているだろう」
「……御角お婆様が私を待っている、ね。しとりお婆様と仲良くしていたのは知っているけど、私は話さずに遠目に眺めていただけよ」
「だからこそ糸色殿は会う必要がある」
そう言うと蒼月紫暮は私を見据えた。
どうやら冗談や気休めの言葉ではなく、本当に私は光覇明宗の総本山へ赴き、彼女と話して何かを知らなければいけないようだ。
元々そう決まっていたのか、あるいは……。
「本山ならオレが送ってやろうか?」
「それも楽しそうだけど、私はまだ蒼月君ととらの事を見守っていようと思うから流君とは行けないかな。でも、今度また誘ってくれたら着いていってあげる」
「おう。楽しみにしてる」
杜綱悟は何処か決意したように私を見据えると一礼し、流君と一緒に私達から離れるように歩きだし、私達も彼らを追い掛けるように歩き始める。
「お妙さんは洞に入って来なかったけど。やっぱり糸色家の関係で入れなかったの?」
「うーん、どうだろう。なんとなく私は洞の中へ入るべきじゃないと思ったのもあるけど。私、実は白面の者を怖いと思ったことがないんだ」
「へえ、そうなんだ。とらみたいに色んな妖怪と戦っていたのも影響してるのかな?」
「じゃあ私に怖いものなんてないんだろうね。でもね、怖いものが無い人より、怖いものがある人の方が強いんだよ。怖いものを知っている分、誰かのために強くなることが出来るからね」
そう言って蒼月君の頭を優しく撫でてあげる。