「吹雪が止んだわね」
「蒼月が雪女を倒したのか?」
「蒼月君は女の子に弱いから違うんじゃない?」
「けっ。何が女に弱いだ、儂が酷い目にあっただけじゃねえかよ。家来、なんか美味いもんくれ。うしおの前に味直しだ」
イズナ君と話しているとき、いきなり現れたとらは嬉しそうに私に何か食べるものを渡すように言ってきた。今手持ちにあるものなら購買で買った、北海道産の牛乳を使ったチョコレートかな。
「甘いものだけど、食べる?」
ラベルや銀紙を剥いてチョコレートを差し出すととらは鼻を鳴らすようにチョコレートを嗅ぎ、一口でチョコレートを飲み込んでしまった。
やっぱり男って口大きいわよね。
「うしおを喰う前の腹ごなしには足りねえか。もっとドンと腹に来るもんが喰いてんだけどよぉ、なんか此処等に有ったりするか?」
電車が来るまで時間もあるし。
とらとイズナ君を連れて何か美味しいものを食べ歩くのも良いわね、蒼月君も誘いたいけど。蒼月紫暮とラーメン屋台に入っているのが見える。
蒼月君を誘うのはまた今度にしよう。
「とらは何が食べたいの?」
「そりゃあ、人間よぉ!」
「それなら海鮮丼にしましょうか」
「儂の話聞いてねえのかァ!?」
「ハハハ、聞いているわよ。とらの食べたい人間は蒼月君だけでしょう?それなら、お腹いっぱい食べてから『さあ、デザートを食べよう!』って思ったら良い気持ちになると思うわよ」
「で、でざ、と?」
「で、ざぁ、と♪︎」
「でざぁと……ヘンッ!確かにハラいっぱい喰った後にまた喰うのはうめえからな。バカうしおは儂が最後に喰うでざぁとだ、でざぁと!」
私の言葉を真似して笑うとらに小さな声で「こいつ、ちょろくなったなあ」とイズナ君が呟く。まあ、確かに大妖怪なのかと本気で戸惑うくらいとらは優しくて強いから、そう思うのも仕方ないわね。
それにしても私を見つめる視線が増えたわね。
ひとつは奈落の物なのは分かっているけど。もう二つは分からない、何かしら私に要求や用事があるなら素直にやって来れば良いのに面倒臭い。
「(そういえば流君に借りたこのジャンパー、返すタイミングを忘れてた。……あの吹雪に二人とも巻き込まれていないと良いんだけど)」
いつか返しに行かないといけないか。
それに本山にも呼ばれているし、そのときに返せば良いかな?と考えながら料亭に入り、海鮮丼を三人分頼んで温かいお茶を貰う。
うん、缶コーヒーも美味しいけど。
温かいお茶も美味しいわね。
今度は弟も連れてきてあげよう。あの子、姉である私に「だから、いっつも近い」とか「油断しすぎなんだよ」とか訳の分からない事を言うのよねえ…。
スキンシップくらい姉弟なら当たり前でしょうに。