私と強羅の張った結界に怒った巨大な妖怪の伸ばした爪のような部位によって電車の進行は止まったように遅くなり、進んではいるものの、結界を張り続けていなければ一瞬で呑み込まれてしまう。
「成る程、トンネルを通るときに薄々気配は感じていたがあれは山魚だ」
「やまうお?」
「山の中を泳ぐ魚と書いて、山魚と読む。今はとら殿が憂さ晴らしに先制攻撃を仕掛けているが、蛮竜と強羅殿の結界もいずれヤツの身体の不死身に近しい力で押し切ってこようとする筈だ」
「チッ。あの四国の大爆発か」
蒼月紫暮の説明を聴き終えた凶羅の「四国の大爆発」という呟きに数年前のトンネル工事を行っていたときに発生したガスの大爆発事件を思い出し、妖怪を認知していなかった人達は口々に「どうにかしろ!」や「あんなのに巻き込まれたくない」と文句を言い始める。
さっきから自分の都合ばかり話しているのが、だんだんと腹立たしくなってきたわね。せめて避難誘導とか前方車両に移動してくれたら私達も戦いやすいのに自分を守って欲しいから動こうとしない。
「糸色殿、何か策はあるか」
「私の手札を切ると確実に生き埋めになるわよ。なりたいなら手当たり次第に風の傷でも金剛槍破でも撃って山魚を倒すことは出来るけど」
そう言うと私を批難していた彼らは口を噤み、視線を逸らした。みんな悪い人じゃないのは分かっている、でも立ち上がるときに立たないと意味はない。
「……時間稼ぎは続けるけど。蒼月君」
「うん。分かってるよ、もうヤバいんだろ?」
私が言い終わるよりも先に蒼月君は私の言いたいことを理解してくれ。ありがたい気持ちとこのまま蒼月君に任せるわけにもいかはいという気持ちもあり、私は蛮竜を握り締める手の力を更に強める。
「じゃあ、オレもとらと一緒に戦ってくるよ!」
「オジキ、オレも行くぜ。紫暮のオッサンは車掌と一緒に前方車両に人を誘導してくれや。蒼月、今回だけはオレも一緒に戦ってやる」
「ありがとう。助かる!」
「……チッ、好きにしろ。俺は少し其処のぶっ倒れそうなのを必死に我慢している能天気でお人好しのバカな女に用もあるからな」
「バカって随分と失礼な物言いね」
貴方の甥っ子は不器用だけど。
あんなに優しいわよ?と挑発めいた言葉を言いながら蛮竜を掴んだまま半分壊れた椅子に腰掛け、私を睨み付ける凶羅を見据える。
「生憎と貴方の喧嘩を受けるつもりはないわよ」
「乗り物に酔った女に勝っても自慢にもならねえよ。それよりも婆が話していた事で俺もテメェに……糸色の人間に聞きたいことがある」
「知ってることなら教えるから手伝いなさい」
「婆が死ぬってのはマジなのか?」
「…………ガセ情報じゃないのそれ?」
思わず、そう言い返してしまった。