従姉妹の結婚という重要な事実に頭を悩ませつつ、私はリムジンを乗り継いでヘリコプターに乗り込み、山奥の小さなお城にも見える光覇明宗の総本山の敷地内に着陸し、吐き気と気持ち悪さを堪えながら石畳の並んだ境内に降りた瞬間、大量の独鈷と錫杖が飛んできた。
三十人、三十四人だけか。
「糸色妙殿、お待ちしておりました」
「和羅、貴方の命令ですか?」
「いいえ、この者達は貴女様の実力不足を訴える者。手解きを一手お願い申す」
「ふぅん。そういうわけね」
一人ずつ相手にするのは面倒だし、蛮竜を使って直ぐに倒したいけど。何か嫌な気配を纏う子供もいるし、そう簡単に蛮竜を得策じゃないわね。
「四乃森、預けていた虎翼は?」
「虎翼は破損した柄の修繕は完了し、穂先は霊山にて取れた砥石を使用し、丹念に磨き上げております。きっと妙様のお眼鏡に適うかと」
そう言うと鞘に収まった懐剣にしか見えない赤染めの柄を握り、軽く振るって柄を伸ばす。成る程、以前より柄の強度を引き上げるために朴仙翁の樹木を使っている。穂先も霊気の強さが増している。
「さてと、掛かってきなさい…」
私が槍を握って構えると錫杖を同じように槍として使う僧侶の動きを見る。どれもこれも中途半端に鍛えているだけ、最低でも獣の槍の候補者ぐらい強いと思っていたのに、とんでもない肩透かし。
「喝ッ!!」
「唵っ!!」
三十を越える三日月状の攻撃を身体に受け、歓喜の声を上げる彼らを無視して、力任せに私の身体を縛り付ける方術を粉砕し、虎翼の石突きを全員の鳩尾に軽く撃ち込み、蹲ったところで勝負は終わる。
「確か、朏の陣だったわよね?」
チラリと和羅に視線を向けて問うと「はっ。光覇明宗の方術、不動縛呪にございます」と素直に答えてくれた。まあ、もう流君と杜綱悟、純や日輪の使っていたもので見慣れているから簡単に解けるわね。
一番効いたのは強羅のものだったけど。
「全く、おてんば娘が」
「ちょっと聴こえてるわよ、和羅おじさん」
「言われたくなければ慎みを覚えろ」
「痛たぁ~~ッッッ!!」
バチン!と太い指にデコピンされた痛みにおでこを押さえながら和羅を睨むように見上げると「来い。お役目様としとり様がお待ちだ」と言われ、渋々と虎翼を懐剣の姿に戻してジャンパーの中に仕舞い、蛮竜を肩担ぎにして彼の後ろを着いて歩く。
まだ、おでこが痛い。
あとで仕返しに稽古をつけて貰おう。全く、私が相楽だった頃はただの優しいおじさんだったのに、今じゃもう私を虐める悪いおじさんになってしまった、
「あ、凶羅って貴方のお兄さんだったなら教えてくれれば良かったじゃない。それに強羅なんて一度も会ったこと無かったわよ、私!」
「強羅、アイツは兄の楔だ。人の道を外れることなくただの破戒僧として動けるのはお互いに補える間柄故だ。私には出来なかったが、あの息子には出来る」
そうやって話している最も空気の澄んだ場所に辿り着いてしまい、総本山に居る誰よりも絶大な法力や霊気を纏う二人の壮麗のお婆様が出迎えてくれた。
「お久し振りです、しとりお婆様、御角お婆様」
私の挨拶に二人は穏やかな笑みを浮かべてくれた。