「凶羅、右側をお願いね!」
「誰に言っていやがる!」
あらゆる攻撃を跳ね返すと仮定して、何度も攻撃を繰り返しながら最大火力の攻撃を行うタイミングを凶羅と共に見計らい、いつでも爆流破を使えるように準備していたとき、ふと帽子の男の子の視線を感じる。
いや、それだけじゃない。あの男の子の傍に立つ妖怪なのかも分からない生き物の発する気配は極僅かだが、このくらぎの物に似ている。
人に化ける妖怪?いや、あの男の子の気配は人間の物だから妖怪が化ける可能性は低く、むしろ逆だ。あの子は人間の気配を纏いすぎている。
「糸色、来てるぞ!」
「分かってるわよッ!蛮竜閃…!」
「ぐぎいぃいあああああああっ!!!」
熱風をかき集めるように蛮竜を乱回転させ、高熱の火球を作り出してくらぎの顔面に叩き付ける。如何にカウンターに秀でていようと受けるときにダメージは通る。その攻撃を繰り返していけば向こうも焦り、溜め込んだエネルギーを絶対に私に向かって放つ。
「おおっ、糸色殿の攻撃が効いたぞ!」
「弱点は顔だ!我らも続け!」
家屋の屋根に着地した凶羅は「うつけが!」と怒りの表情を年若く経験の浅い、焦りでくらぎの作戦にも気付いていない僧侶に向けて文句を言い、穿心角を放り投げてくらぎの虫の様な腕を切り落とす。
流君や強羅、杜綱悟は何処に居るのかと周囲を見渡していたとき、くらぎの足元に滑り込み、独鈷や錫杖、千宝輪を叩き付け、無理やり地面に引きずり落とそうとしている三人に驚く。
「(確かに、飛び跳ねて攻撃を仕掛けるより下に居て貰った方がやり易いけど。本当に男の人は馬鹿みたいに無茶ばっかりする)」
「おのれえぇええええっ!!!」
「糸色、来るぞ!」
「合わせてよね、凶羅!」
二百を越える僧侶の月輪と方術の数々を私に向かって放ってきたくらぎの攻撃の纏う妖気の裂け目を狙い、爆流破を繰り出そうとした刹那、私の身体に黒い布のような物が纏わり付き、後ろに振り返る。
あの男の子が幽鬼のように佇み、笑っていた。
成る程、そういうことね。
白面の者も良く考えているみたいだけど。
「しとりお婆様、お願いしますッ!!」
「えぇ、任せなさい。
グルオォーーーッッ!!!!
御角お婆様と一緒に現れたしとりお婆様は刀印を結んだ右手を横薙ぎに払った瞬間、3メートルは有りそうな巨大なクマかキツネかタヌキにも見える妖怪を呼び出し、一度の咆哮によってくらぎの攻撃を掻き消した。
「ありがとう、ドン」
しとりお婆様は四足歩行の巨大な獣の妖怪に微笑み、緩やかに私を縛り上げる黒い布を切り裂く。はあ、危うく消し飛ばされるところだったわ。
「キリオ、何故糸色殿を!?」
「あー、そういうのは後で追求しましょう。先ずは白面の者の分身を倒すことに集中して貰える?どうせ、ただの子供の癇癪でしょう」
「……はっ。皆の者、キリオは後回しだ。糸色殿と凶羅を主軸に再び陣の用意を!」
チラリと「きりお」と呼ばれた男の子を見る。
まるで宝物を奪われたみたいに私を睨み付け、鎌を握り締める手に力が籠っている。分家の子供にも居たのよね、親の言う通りに私に近付こうとする子供ってさ。
本当に面倒臭くて嫌になるわね。