蒼月君ととらの帰宅を見届けて、みかど公園に行けば鏢が静かにベンチに座っていた。ジーンズのポケットに手を入れたまま後ろ向きになり、そのままストンと鏢の隣の席に腰掛ける。
「真っ直ぐな眼だよね、蒼月君」
「嗚呼、真っ直ぐに私を見つめていた。力強く自分の意地を曲げずに押し通すために無茶をする、しっかりと見守ってあげる事だ。獣の槍に喰われる前に、な」
「分かっているわよ。それと餞別にあげる」
ベルトに着けていたポーチに手を入れ、少し古びた見た目の刀の柄を差し出す。鍔も刀身も無いボロい柄に怪訝そうな顔を向けるオジサンに笑う。
「霊気を集めて剣と成す。いわゆる霊光剣っていうものよ。使い方は
「否、私には不必要だ」
「そう?まあ、私も刀より槍の方が合っているし。誰かに渡して身軽になりたいのよね。ほら、コイツって私の霊気と一緒に血まで吸うのよ」
「……ハッ、随分とお転婆なお嬢さんだな。いずれ借りるかも知れないが、やはり今の私には不必要だ。また会うことがあれば語らおう」
「じゃあ、今度も生きている間に会いましょうね」
そう言うと鏢はベンチから立ち上がって公園の出入り口へと向かって歩き出してしまった。ゆっくりと彼が居なくなったことを確認して、深く重苦しい溜め息を吐く。
「……はあ、『何が生きている間に会いましょうね』だよ。
刀の柄をポーチに戻して自動販売機を探すために、もう鏢の気配も妖怪の気配も無くなった公園を出る。何が「貴女は糸色の次期当主になるのです。俗世の事など気にせず、本分を見失わぬように」だ。
この前も使った自動販売機に硬貨を入れ、缶コーヒーのボタンを押す。ガラガラと十円、二十円、と重なる銅色の硬貨を財布に入れて缶コーヒーのプルタブを開ける。
「……面白ければどうでもいい。そう考えて生きれたら楽なんだろうけど、背負うものが多すぎるのも大変ね。人生は手ぶらで良いのに疲れる」
私の呟きに答える人は居らず、暗い真夜中の車道脇の街灯に照らされたガードレールに腰掛け、熱い缶コーヒーを飲んで溜め息を吐いた。
夏が終わる頃には安心できるといいけど。
まだ、蒼月君は成長する途中みたいだし、オジサンにも見守ってあげるように頼まれたから、もう暫くは蒼月君ととらの傍に居ようかな。