各分家の当主に中国秘境巡りツアーのパンフレットを差し出しておき、もしもの時に備えるように伝えると過去最大の感謝を受けた。
貴方達、奈落に狙われるのそんなに嫌だったのね。
確かに奈落のねっとりとした気持ち悪さは同性の男でも嫌になるのかも知れないけど。いずれ貴方達も乙女の気持ちが分かるようになるわよ。
「んーっ。また東京に行こうかな」
「姉ちゃん、もう仕事終わったのかよ」
「バカね。あんなの二時間もあれば終わるわよ」
私の前はお父様の使っていた書斎の椅子に座ったまま背伸びをする私に、そう聞いてきた遠君に答えてあげると「これだから姉ちゃんは嫌いなんだ」と文句を言い、ラブレター製作に悪戦苦闘している彼を眺める。
私は基本的に貰う側だったけど。
こういうのって他の人に書いているところを見られても良いのかしら?と首を傾げる。そもそも何故私と同じ部屋にいるのかも謎すぎるのよね。
「遠君なら告白すれば直ぐに付き合えると思うけど。貴方って律儀というか生真面目というか、この人しか居ないんだって思い込んでそうよね」
「自分でも千理あるとは思う。でもさ、オレは武藤さんの事を好きになっちゃったんだよ。姉ちゃんはそういう経験ねえの?」
「えぇ?私にも聞くのそれ」
そう言われると難しいわね。背もたれに身体を預けながら考え込んでいたとき、光覇明宗の境内で偶然とはいえ押し倒された挙げ句、ファーストキスを奪われた瞬間を思い出して顔が熱くなる。
いや、いやいや、あれは偶然だったからね。
あんなので堕ちるなんて末代までの恥だよ。まあ、顔はカッコいいし、なんかほっとけないなあ?とは思ったりすることはあったけど。
「姉ちゃんっ、顔真っ赤だぞ!?」
「え?あ、ははは、ちょっとね」
「この前の会合の時に言われてた婚約者候補って、そんなにすごかったのか?」
「すごかったかと言われると分からないかな。三人とも光覇明宗でも強い法力の使い手みたいだけど、私の方が強いのは確実だし」
「オレは姉ちゃんの自分より強い相手のお嫁さんになりたいっていう夢は良いと思うけど。そんなの本当に居たらゴリラを超えたゴリラにならない?」
「ゴリラじゃないわよ、バカね」
少なくとも三人は私より強くなる素質はある。遠君も強さなら三人と同等くらいだし、私の周りってあと一歩な人が多すぎる。
……でも、流君は手加減しているように感じるのよね。まあ、なにかしら事情があって実力を隠している人は多いし、色々と人には事情があるものね。