「遂に!ついにこの時が来た!!」
「随分とはしゃいでいますわね」
「そりゃあ楽しみにしてたもんね」
キャノンボール・ファスト当日。
会場は満員御礼。空には煙花火が上がり、会場のボルテージは際限なく盛り上がっていた。
プログラムとしては。
二年生のレースが一番目。
一年生訓練機部門が二番目。
そして一年生専用機部門が三番目でトリが三年生のレースで締め括られる。
アイドルが使えるわけのもないこのスタジアムだが、みんなISを生で見れるとこぞって来場して満員に。テレビ中継もされるらしく、一年でもっともISが認知される大会の一つと言って良いだろう。
「世界中の企業やスポンサーも来てるんだよ」
「なら僕達の姿を示せるチャンスだね!」
「貴方は灰原ですの?」
セシリアさんそんな下半身がなくなるような事言わないで。
「あと美月やマモル君達が来るとか言ってたけど番号忘れちゃったなぁ」
「美月さんなら見つけてくれますわよ」
「そうだと良いんだけど………」
「悠さーーーん!!私出るんで見てくださいねーーー!!!」
「よっしゃぁ頑張れぇ!!!」
綾音にグッドサインを送るとグッドサインを返してくれた。
でもやっぱり美月来てるのかなぁ心配だ。
「よし、じゃあわたくし達も行きますわよ」
「うん!」
「れっつごー」
「あのっ!水澤悠さんですよね?」
するといきなり話しかけられた。何やら男性3人と女性4人くらいの人数
「はい……そうですが」
「私達水澤君のファンなんですよ!」
「キャノンボールファスト応援してますから!」
「あぁありがとうございます。時間が押してるんでそれでは」
適当に区切りをつけてそのまま二人の元へ向かった。
「悠のファンって珍しいね」
「そう?一夏君のファンが居るみたいにあり得るんじゃない?」
「まぁまぁ、兎に角行きますわよ」
しかしこの人達の正体が実験体だなんて考えもしなかった。
ーーー◇ーーー
「F、F46………あれここR?道間違えたかな?」
悠の義妹である美月はマップと座席番号を見て小首を傾げた。
学園祭見に行けずがっかりだったが、今回ばかりは悠の晴れ舞台を観るために母さんに頼み込んだ甲斐があって良かったのだ。
「どうしよう…………」
「何かお困りでして………って美月さん!?」
「せ、セシリアさんにシャルロットさん!?それに悠!!」
「美月久しぶり元気してた?」
「ひ、久しぶりです……ね。」
しかしシャルロットは何故だか敬語で喋っていた。それもそのはずシャルロットやセシリアは16歳なのに対して美月は17歳と年上!!
「えええええ!!美月さんわたくし達より年上でしたの!?」
「え、年近いって言いませんでした?」
「一歳差はだいぶありますわよ!」
「うん………一夏と買い物に行った際に初めて知った。」
「うちの悠がすいません………」
「言ってなかった僕の不始末です」
「いえいえお気になさらず」
「あ!水澤君だ!!」
声の先を振り返ると悠と同じぐらいの身長の男子が走ってきた
「誰ですの?」
「あぁ、この子がマモル君。僕と同じアマゾンでハンバーガーが大好き」
「うん!大好きだよ!」
「ほら挨拶」
「こんにちわ!」
「どうも。」
挨拶を軽く済ませ、マモル君がどんなのか知る事に
「てか志藤さん達は?」
「もう着いてる。水澤君の気配を察知してきたんだ!」
「アマゾンって凄い………」
「ねぇ水澤君、この人たち知り合い?」
「あぁ名乗ってなかったね。セシリア・オルコットさんにシャルロット・デュノアさん、そして僕の義妹の美月」
「よろしくお願いしたしますわ」
「宜しくね!オルコット君!デュノア君!うーん………水澤君その2!」
なんか違和感がある呼ばれ方をしたが、あの後美月君に呼び方が変更された。
「それじゃ戻るねー!」
「迷わないでね」
「結構個性的だったね」
「それじゃあ美月も観客席の場所教えるからね」
「わかった。」
とまぁなんやかんやあって別れた美月だったが………
「………また一人かぁ」
振り返ると顔面にチケットが直撃する
「あぁすいません!それ私のです!」
「えっ……あぁごめんすぐ返すね」
(綺麗な赤色の髪をしてる………最近の中学生は染めるのはや……いや違う天然物だ!)
(うわぁ綺麗な黒髪……しかも私より背が高い)
条件反射で相手のルックス観察をしてしまったが美月はチケットを渡そうとするが……
「あれ、Fの45?」
自分の番号は46だったようだが気のせいか?とはてなマークを浮かべた。
「あ、すいません。それ私のです、ってあれ?F46?」
「もしかして隣?凄い偶然!」
なんてドラマすぎると思ったが時間に間に合わなそうだ。
「あ、あの。この座席って何処か分かりますか?私、実は迷っちゃって」
「そうなの?じゃあ一緒に行こうか」
「え、良いんですか?」
「良いよ。何かの縁だし。」
一回間違えたがそんなのどうでも良い。
新しい友達ができるチャンスなのだから。
「それじゃあいざF45、6座席へ………いたぁっ!」
クルリと回れ右して歩き出すとぶつかってしまった。
水澤美月。不覚
「あら?大丈夫?」
目の前に居たのは美しい金髪をなびかせる大人の女性だった。
歳は二十代後半か三十代前半。如何にも出来る女という空気を纏う豪華な赤いスーツにサングラスをかけ。
放漫なバストと括れた腰に形のよいヒップというボンキュッボンを形にした艶姿に二人はゴクリと喉を鳴らした。
(うわっ、綺麗な人………)
(うちのお母さんより綺麗……)
((負けたっ!!))
片方は曲がりなりにも自信を持って欲しかったがそうは行かなかった。
女としてのレベルの違いに圧倒された二人は開いた口が塞がらない。
「大丈夫?」
「大丈夫です!」
「ふふっ、なら良かった。気をつけてね。今日は人が多いから。」
は、はい」
金髪の女性は小さく手を振ると二人の横を通りすぎた。
すれ違う時、耳に付けたゴールドとルビーのイヤリングが日の光に反射して光った。
「やっぱりISのイベントだから色んな人が居るんだね」
「うちのお母さんとは大違い。」
「お母さん?」
「最近IS企業入りした野座間製薬の本部長が私の母親」
「野座間…………たしか水澤悠さんですよね?」
「悠の妹の美月。水澤美月なんだ。」
「えええっ!?それ凄いんじゃ」
「私は凄くないよ、ただ最近までいじめのターゲットだったし」
年上なのに闇が深さが段違いであり可哀想だと思った。
「私は五反田蘭、定食屋の娘よ。」
「定食屋ってもしかして五反田食堂?」
「うん。」
「あそこ時々行くけど業火野菜定食と生姜焼き定食が一番美味しかったし何より値段が安い!今度悠にも勧めてみるね」
「いいんですか?」
とまぁ歳の差はあれど会話に花を咲かせていた所だったがもう席につかないと行けなかった。
「じゃあそろそろ席行こっか。人多くなったし」
「うん!」
ーーー◇ーーー
「サファイアさんのクイックターンすごいな……そこから氷を作ってグレネードでパァン!」
「悠、解説はいいからはしゃぎすぎ」
「あれを解説だと思いますの?」
現在二年生のレースが行われている。
先頭はサファイアさんのコールド・ブラッド。首位にたってから後方に第三世代能力で作り上げた氷塊を出しまくって後続の妨害をしまくっている。
が、二位から下も抜きつ抜かれつのデッドヒート。
特に二位のサラ・ウェルキンのラファールがフォルテ先輩の足元に食らいついている。
「イギリスの代表候補生なんだよね、サラ先輩って」
「ええ。専用機は持っていませんが、優秀な方です」
「イギリスは優秀なんだなぁ。セシリアさんも誇ってね」
「勿論ですわ!」
サラ・ウェルキンさんは専用機無しでトップクラスの実力者。
セシリアさんが指南を受けた事もあり尊敬している人物である
「それにしてもエイムが良い。避けようと思っても避けた先に銃弾が当たって正直厄介だよ」
「実力者だから当然ですわ!」
「あっ!ゴールしたよ二人とも!
「僅差だったぞ結果は………タッチの差でサファイアさんか!」
一番最後に放った絶好のタイミングでの大氷塊が上手く刺さった。
しかし手に汗握る良い勝負だった。
風に揺れた彼女の赤毛は観客席からでも輝いていました。
「赤髪っていいよね。めざましじゃんけんにも使えるし」
「訴えられても知りませんわ」
「すいません」
「次綾音だよ!」
「ならこれの出番か!!」
悠はISスキャナーを付けたと同時に映像記録とメモを取り始める
「てか悠何してるの?綾音が好きだからって映像を撮るのは違うんじゃない?」
「いやいや違う。と言うのも野座間製薬のIS特殊開発局が新兵装を開発してそのテストで打鉄やラファールにも使えるかどうかの記録を取れって言われてて」
「そっかごめんね」
「その後綾音パパとママに送る」
「「前言撤回」」
「すいません嘘です」
専用機持ちでありながら技術試験目的で練習機部門に参加してスタートを決める
一年生の打鉄・鉄風パッケージとラファールの高機動パッケージが一斉にスタートラインを切った。
二年生と違いコースが大幅に簡略化されているが。一年生はまだ高機動実習に慣れてないのも相まって各々の差が大きく開いた。
対して綾音はと言うと
「8人中6位ですわね……」
「新武装で追い抜くよほら」
綾音がコールしたのはIS特殊開発局が作り出した新武装のポジトロンオメガライフル。コールした瞬間に背中に高電圧パックが装着され
電磁投射砲による高電圧弾により当たった訓練機は電気回路を乱されて次々と撃ち落としていく
「………………強すぎません?」
「悠なんてアドバイスしたの」
「撃ち落とせ」
「シンプルにしても的確すぎるよ!」
キャノンボール・ファストは妨害ありの特殊レース。
高速化での被弾はたった一発でも大きく挙動がぶれる。
高機動慣れしていない生徒が背後から某電気鼠の高電圧を食らえば結果は見ての通りだ。
「あと綾音めちゃくちゃウッキウキだから調子いいんだよね」
「なぜ?」
「新武装の名前がポジトロン《オメガ》ライフル」
「あぁそう言うこと?」
綾音の悠が好き過ぎるのに恐怖した二人であった
「………そろそろ行くね」
「あぁ、次のレースでね」
「わたくしもですわ」
僕達は立ち上がり、専用機自らのピットに向かった。
「水澤君。天条君のレースの報告を」
「はい。ポジトロンオメガライフルの出力と火力は報告書の通りであり、操縦者のエイムスキルも相まっておりますが、重量化した事で鉄風パッケージの本来の重さが倍になってしまってスピードが落ちてしまっています」
「ほぉ。」
「よって軽量化する以外指摘点がございません。以上です」
駆除班の時に使わなかった単語を頑張って学んだ甲斐があったものだ。
近々実験体の駆除にISを導入すると考えているだけあって本気だ。
でも生きてるアマゾンだっているのにそこまでするのだろうか
「水澤君。」
「はい?」
「少し疑問に思った事はないかな?」
「疑問って……?」
橘局長はいきなり会話と関係ない事を疑問にしてきた。
「天条会長に孫娘が居たなんて実は初耳でね……」
「僕も思ってました。」
「それと二年前までは病気で寝たきりだったってのに今は完全復活………………おかしくはないか?」
「っ!!!!」
二年前まで寝たきり………ってまるで僕と同じじゃないか!
「あとね、この世界にはISとアマゾンが入り混じっており、私がいつのまにか4Cとか言う組織が作られているんだよ」
「そんなことあるんですか?」
「分からないなぁ。」
「それじゃあ行きますね」
報告書を渡して僕はISの準備へと向かった
「…………シャルロットさん大丈夫かな」
ーー♢ーー
「………………」
シャルロットはガチガチに固まっていた。
目の前で淡々と稼働データを閲覧するデュノア社の技術主任にして義理の母親であるロゼンダ・デュノア。
煌びやかな金髪と、それを更に際立たせるメイクとアクセサリーと、漆黒のスーツ。
着飾っていても威厳を損なうことのない彼女の冷ややかな視線に晒された時、IS学園に来る前のトラウマが刺激されてシャルロットは立ち尽くしてしまった。
「シャルロット・デュノア。ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、及び新型パッケージのデータを拝見しました」
「はい」
「どれも基準値内に収まっており、変わり映えのしない結果ですが。それもデュノア社のラファールが堅実であるという証拠でしょう」
「はい」
口から出てきたのは機械的な応対。
何かを言おうと思った。だが直前になって頭のなかが真っ白になって何を言えば言いか頭のなかで停滞して………
「最近、戦績が低下傾向にあるようね」
「はい」
「あなたはデュノアの看板を背負う者。生半可な気持ちで挑んでもらっては困るし、あのアマゾンにも負けない様に」
「………はい」
「話は以上です」
飽くまでも、飽くまでも機械的に言い残してロゼンダは背を向けた。
初対面時の苛烈な様をまったく感じさせない仕事を淡々とこなすだけの人。
だがその目はチロチロと炎が宿っているようにシャルロットは見てとれた。
「あっ」
シャルロットは心細くなって咄嗟に右手で左手首を触った。
そこには臨海学校前に一夏からプレゼントされた銀色のブレスレットだった。
あの日一夏に救いだされ。自分に価値を見いだしてくれた彼との大事な繋がり、掛け替えのない記憶。
(ここで逃げ出したら。一夏と悠に合わせる顔がない)
キッと、目に鋭い光を宿し。
軽く息を取り替えて声を出した。
「あ、あの!」
「………なに?」
「一つ聞かせてください。なんで、僕をIS学園に寄越したのですか?」
言えた。
先ずは第一関門を突破できた自分を鼓舞しながらシャルロットは言葉を連ねた。
「一夏と白式、アマゾンオメガのデータを取るために男装させた。僕はそこに意味があるとはどうしても思えない。何故他の第三世代ISを調査させなかったんですか?」
「何を訳のわからないことを」
「余りにもメリットよりデメリットが大きい。白式とアマゾンオメガのデータがどうデュノア社に繁栄をもたらすのですか? 本当に父は僕にISのデータを盗むためにIS学園に向かわせたのですか!?」
悠の考察のそのまんまだが、変に言葉を変えるより効果はあると思った。
それだけあの時の悠の説明は的を得ていたからだ。
「男装がバレた時、何故IS学園は僕を排斥しなかったのですか。僕の男装はIS学園に入る前からバレていたのではないのですか?」
「………」
「答えてください。父に一番近いあなたなら何か知って」
「調子にのらないで愛人の娘が」
「っ!」
「さっきからベラベラ良く喋る口ね。自分の立場を理解してないと見えるわ」
冷ややかに放つロゼンダの声色にシャルロットは後ずさりそうになった。
だが胸の中で揺れたラファールのペンダントがシャルロットを踏みとどまらせた。
「本来なら没収される筈の専用機を与え続けているのはあなたが偶々手に入れている特異技能とIS適性があるからよ。あなたはこれからも黙ってデュノア社に奉仕すればいい」
「僕を傀儡にする気ですか」
「傀儡よ。あなたは最初からデュノアの傀儡なのよ。あなたはあの人に愛されてなどいない、ただの傀儡よ!」
「ならどうして父は僕を引き取ったのですか!」
初めてシャルロットが声を荒げた。
そのアメジストの瞳にはもはや迷いはなく。確かな勇気を刻んでいる。
その瞳にロゼンダは顔を引きつらせた。
「母さんが死んで直ぐにデュノアの家から使いが来た。デュノア家にとって僕は間違いなく一家の汚点!なのに何故わざわざ自分の側に引き寄せたんですか!」
「なぜ聞こうとする!」
「夏休みのIS企業パーティに父……いや、デュノア社長が今までの行為を謝罪して来ました!でももう一つのパターンでシャルロッテ姉さんに引き取らせると言う点があった筈です!」
「いい加減にしなさい!!」
バシンっ!
ロゼンダが腕を振った。
今すぐその口を黙らせようと振るわれた平手。
「なっ」
「もう、黙ってくらうつもりはありませんよ」
だがシャルロットは左手で受け止めた。
以前のシャルロットなら何の抵抗もなく受けた平手。その腕を掴み、シャルロット・デュノアは真っ直ぐとロゼンダの目を見た。
ロゼンダは喉を詰まらせた。目の前にいる少女は本当にあの時会合したシャルロット・ドルージュなのかと。
それでもロゼンダは歯を噛みしめ、彼女をけなす言葉を投げ掛けた。
「あ、あなたは。所詮あの人の一時の感情で生まれた子。あの人はあなたを道具としか思っていない。あなたがどう思おうと、アルベールはあなたを愛することはない」
「貴方がそう思うのならそうかもしれません」
でも悠の言った事と聞いた事が事実となるなら一つだけ疑問にもなる
「一つ教えてください。私には母が残した遺言の意味が合ってるのかどうか知りたいのです」
「な、何を…」
「『あの人を、あなたの父を恨まないで』」
シャルロットはずっと母と二人暮らしだった。
いや実際はシャルロッテを入れて三人で暮らしてた。
シャルロットの母、ジャンヌは一度も別れた父親を悪く言うことはなかった。
何度か自分の父親がどういう人なのかと聞いた時、母は決まって「不器用な人よ」と笑ったのだ。
しかしシャルロッテはジャンヌを捨てたクズって罵っていたがそれを言うたびにシャルロッテに諭していた。
「僕は、何故母さんがそんなことを言ったのかわからない」
「………」
「だから知りたい。何故母さんは父さんに恨み言を残さずに死んだのか。何故僕がIS学園に行かされたのか。何故シャルロッテ姉さんを連れて行かなかったのか、僕は、なにも知らないまま生きていたくない」
ロゼンダは後ずさり、シャルロットから目線を反らした。
その目には先程の苛烈さはなかった。
「僕はもう逃げません。あなたからも、デュノアからも。そして、父親からも。」
「………」
「失礼します」
言いきったシャルロットはロゼンダの横を通ってアリーナに向かった。
ーーー◇ーーー
一人部屋に残されたロゼンダはただただ立ち尽くすだけだった。
ただの小娘だと思っていたシャルロットがあんなに強く出るとは夢にも思わなかったから。
そして、また彼女の、ジャンヌの名前を聞くとは思いもしなかった。
ジャンヌ・ドルージュは素朴な女だった。
ただの村娘で、自分たち貴族界とは間違っても縁のない女。
そして唯一、ロゼンダが勝てないと思い知らされた女。
『結婚おめでとうロゼンダ。あの人を、お願いね』
「っ!」
不意に涌き出た彼女の笑顔がフラッシュバックとしてロゼンダに襲いかかり、ロゼンダはしゃがみこんだ。
嗚咽と吐き気が込み上げるのを必死に飲み込み、涙がこぼれた。
「く、ふぅ………」
すすり声をあげる彼女の声を聞く者はいない。
肩を抱き、震えるその姿は。大事な物を取り上げられた少女のようだった。
「これ以上、私からあの人を奪わないで………ジャンヌ………」
奪ったのは自分自身だということ。それは自分が一番理解している。
それでも手に入ることはなかった。
彼女が死んでも彼の心は変わらず。
故に嫉妬し、彼女を蔑み。なにも知らない義理の娘に当たることしか出来ない情けない自分が一番嫌いだった。
「なのに………あいつが怖い………シャルロッテ・アグニージュ………」
シャルロットをデュノア社が連れて行った時の彼女の憎悪のを顔を忘れずにいた。
矛盾をはらんでも、相反する感情を抱えながら、ロゼンダ・デュノアは求め続ける。
シャルロットの姿と重なった、今は亡き彼女の母親を脳裏に映しながら。