担当ウマ娘との入れ替わり   作:any-unter

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アグネスタキオンとの入れ替わり

「なにを恥ずかしがっているんだい」

 

君は呆れたように言う。いつもの、やれやれと言わんばかりに。残念ながら君のその可愛らしい仕草も、僕の体というノイズのせいで非常に残念な、何と言うか、ナヨナヨした感じになってしまって、でも、入れ替わっている当人だからか、そこから君らしさを感じられて、僕はちょっぴり安心するのだ。

 

担当ウマ娘である、アグネスタキオンと入れ替わっている。爆発だとか、超自然的な出来事だとかがあるたびに真っ先に犯人候補にあがるタキオンだけど、

 

「入れ替わり?そんなことが可能になるようなクスリなど、できるはずがないねぇ!」

 

なんてケラケラ笑うんだから、逆に言えばちゃんと元に戻れるかどうか不安になっている。

 

でも、君のことだ。やっぱりというかなんというか、ジャケットを脱いで、ワイシャツ越しに自分の腕をぽんぽんとと叩いてみたり、脚の方に視線を落としてみたりと、うん、やりたい放題だ。

 

「人間とウマ娘の違い……それを知る絶好の機会さ!」

 

言うと思ったし、実際に君は言った。まったく、何と言うか君らしい。多分君は、ウマ娘として生まれなかったとしても、ウマ娘という存在に惹かれてその研究に没頭したんじゃないかな、って君に言わせれば益体もないことまで考えてしまう。

 

まあ、それはいい。

 

ところで、アグネスタキオンとしての意識が、今自分の思考下にある自分の体に興味が及んでいる、というのはわかる。「わたし」が意識した瞬間に動き出す「わたしの体」に惹かれるのは、理屈に適っていると思うからね。で、今度は、「わたしではなくなったわたしの体」に興味が出るのも、ごく自然なことだと思うよ。だって言い換えるならそれは、「元の体」だし、「戻らなくてはならない体」のことだ。いくら体面を気にしない君のことでも、他人に勝手に動かされてしまう「わたし」のことを気にしない方がおかしい。

 

でもね、どうして君がそうやって僕に迫ってくるのかが、いまいちよくわからない。

 

僕らの状況を、君らしく、論理的に考えてみたまえ。担当トレーナー、担当ウマ娘、という肩書を取っ払ってみたまえ。「鼻息の荒い男が、いたいけな女学生を壁際に押し込んで無理矢理に自分の方を振り向かせようとしている」。これは、どう考えても犯罪のそれじゃないかな。

 

「うん?君は私のモルモットだろう?」

 

やっぱり君はそう言って、不思議そうに首をかしげるね。うん、想定内だよ。

 

「第一君の体裁と言うのは、私に『自分をモルモットにしてくれ』と懇願してきた時点で大体打ち砕かれているんじゃないのかい?」

 

それも認める。この口調だって、少しだって君に近づきたくて、冷静に、落ち着いた風を装ってたら行きついた、いわば君のせいなのだから。

 

ただ、なぜだろうね。

 

君が、君の体で僕にこうやって迫ってくるときは、僕は露ほどにも動揺しない。むしろ、誇りにさえ思う。君をこうやって受け止めることができるのは、僕しかいないのだと君が思わせてくれるからだ。

 

でもなぜか今、君の体で――こうやって壁際に押し込まれて、ぐーっと近づかれると、僕は無意識に顔を逸らそうとしてしまう。簡単に振りほどけるはずなのに、手首の辺りをぎゅっと掴まれて、逃がさないよ、と囁かれると、なぜかそのまま、へなへなと倒れ込みそうになってしまう。

 

「ほら早く、私の勝負服に着替えたまえよ!」

 

なんて、君の注文、無茶振りは、あくまでもいつも通りだというのに、だ。

 

ねえタキオン、あの姿見が見えるかい。僕が無理を言って、この部屋に設置してもらった、あの姿見だ。

 

あの中の「アグネスタキオン」は、顔を真っ赤にして、何とかトレーナーから逃れようとしている。首筋にちょっと汗をかきながら、顔を真っ赤にして、必死に視線が合うのを逃れようとしている。そしてトレーナーはと言えば、ぐいぐいと容赦なく「アグネスタキオン」を追い詰めているんだ。マンハッタンカフェがこの場にいなくてよかったと思うよ。

 

ねえ、タキオン。僕は今、ひどく困惑している。これほど動悸が激しいのは初めてだ。体が心によって動くとするならば、その逆も然りで、心は体の反応に惹起されて――「アグネスタキオン」を今こうして、追体験させられているんだろうか。

 

無邪気に笑う君に、僕は心揺り動かされている。少しはこの動揺を引き取ってほしいくらいだ。

 

「ん?トレーナーくん?顔が赤いぞ?」

 

僕の体を使って、何気ない様子で、こっちのおでこをひらっと出させて、互いの額をくっつける。それだけで、僕の体はビン、と固まってしまう。

 

これが君のセカイなのかい、タキオン。あまり僕を勘違いさせないでおくれよ。

 

僕はこのまま君の気持ちを、「アグネスタキオン」として、そのまま君に伝えてしまいそうじゃないか。

 

この胸のときめきは、僕らどっちのものなんだろう。

 

君の無邪気な笑みが、してやったり、と言っているように思えてならないよ、タキオン。

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