担当ウマ娘との入れ替わり   作:any-unter

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ジェンティルドンナとの入れ替わり

 

 

「あら、あなたにとって、触診とはいかがわしいことなのかしら?」

 

君は顎に指を当てながら、自信満々に、まったく後ろめたさがない風に言うから、僕はついついそういうものなのだろうか、と思ってしまう。そのくせ腕や肩に触れながら、一言一言おお、とかふむ、とか呟くものだから、やっぱりうかがわしいことをしているだろう、とついつい言いたくなる。

 

でもまた口にしたら、君はいい加減にしなさい、とこちらを一喝するだろう。それよりも、もう少し普段から胸を張ったらどうなのかしら、とちくりと釘を刺すことも忘れない、と思う。

 

目の前の本人を抜きにして、想像の中の君と会話するのも失礼だろう。でも本当に、この状況に、僕は完全に置いてきぼりになっているのだ。

 

自分の格好について、ネットの3Dモデルを思い出してしまう。両腕を広げて、ぴしり、と静止している少女のそれ。

 

体操服にブルマという何とも危なっかしい服装、というよりも健康診断の格好で臨んでいる。

 

そこを、トレーナーこと僕の体を使っている君が、不敵な笑みを浮かべてぺたぺたと、僕の体を――つまるところ、君自身の体を――触診しているわけである。

 

体をまさぐるわけでもないし、きわどい場所に触れるわけでもない。ただ筋肉の付き方をひたすらに探究している感じだ。

 

ちょうど、博物館に置いてある、「触ってみてください」という展示物にじゃあ遠慮なく、と鷲掴みにしてる感じだろうか。

 

 

「もう少し、力を抜きなさい。変に力を入れていると、癖になりますわよ」

 

僕はまた背筋を伸ばす。体が資本というのはウマ娘もトレーナーも変わらないから、少しは自分なりの努力はしてきたつもりだけれど、さすがに本物のアスリートには、さらに言えばその極致にいるようなジェンティルドンナには敵わない。まだまだね、と君は、僕の体に関しては諦めたかのような振る舞いをされ、ちょっと凹んだ。

 

では君自身はと言えばどうか。君の体を、君自身が、第三者的に測定することができるというこの機会は、君の眼鏡に適ったらしい。

 

脇の下から腹にかけて、ゆっくりと、ゴツゴツとした男の手が触れる。両手が包み込むように胴を叩くから、ボディチェックを受けているような気分にもなる。それから、手のひらを大きく開いて、へその周りを、円を描くように撫でる。

 

君としては腹筋がちゃんとついているか調べたかったのだろうけど、斜に構えた見方をすれば、お腹の子を労る姿に見えなくもない、結構怪しい動きなのだ。そのへん、僕はかなりハラハラしている。

 

上半身の触診を終えたら、今度は下半身に移る。調べるのは主に脚だ。ウマ娘は走るのが仕事だから、どちらかと言えば本命はコチラだ。脚は色々なことを教えてくれる。

 

体重をうまく支えられているか、その筋肉のつき方から、つま先、いわゆる踏み込むときなどの足裏への体重のかかり方など、担当の状態は常にある程度把握しておく必要がある。

 

とはいえ君に僕がそれをしてきたのは確かなのだけれど、まさか僕がされる側になるとは思わなかった。今は僕が君の体だからそれは仕方のないことだ、と割り切るしかないけれど、なんというか、羞恥が半端ではない。

 

「悪くはありませんが、まだまだですわね」

 

そう言って君は一旦、矛を収める。いつもの君らしいポーズで頷いて、僕はようやく一息ついた。やれやれ、これで解放される、と。

 

ところがどっこい、今度は君は、僕を抱き寄せてきたものだから、こっちは心臓が跳ね上がった。互いの肌の熱さがじんじんと伝わってくる。顔が熱くなって、とても今の顔を見せられそうもない。また体がピタリとーー微動だにしなくなる。顔で少し胸元を押し上げたと思ったら、これは聴診だろうかーー耳を心臓に押し当てて、口元を緩めながらこちらに体を預けてくる。

 

これはもう、こればかりはーー明らかに確信犯じゃなかろうか。ワタワタと手を上げたり下げたりする僕の様子を、ふふっと笑いながら見上げてくる、妙な艶のある笑みを浮かべる君に、僕はもう完全にお手上げだ。

 

私のトレーニングメニューはあなたが実行するとして、私は、どのようなトレーニングをするべきかしら。

 

君の楽しそうな声だけが、このトレーナー室に響いていた。

 

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