学区の白兎   作:如月悠

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第1話

 みんなはこの話を知っているだろうか? 

 

 学区、正式名称は『海上学術機関特区』。世界中から子供を募って優秀な人材を育てることを目的とした世界中を回る移動型教育機関。『学区』の校舎も兼ねた超巨大船『フリングホルニ』の中に十の学術系ファミリアが集まった『派閥同盟(ファミリア・ユニオン)』であり、『ギルド』からの援助を受け運営されており、神々から恩恵を受け眷族となった教師と学生が所属する。

 

 そんな組織、そこには世界最強がいるという話。オラリオでも叶わない最強冒険者(せんせい)が。

 

 その名を

 

「あ! ベル先生!」

「おはよう、ニイナ」

 

 ベル・クラネル。

 

 


 

 ベル・クラネル、この世界にすんでいるのなら、誰もが知っている。それは、最強(ゼウス)の生き残り、誰もが認める世界最強。

 

 生き残り、と言ってもまだ先生は全然若い。

 

「ベル先生! またダンジョンのこと教えてよ!」

「私も!」

「ずるい! 俺も教えて欲しい!」

 

 それゆえか、学区一の人気者。強くて、優しく、紳士に向き合ってくれるし、誠実だ。

 

「あはは……どっちかと言うとレオンの方が……」

 

 そして、謙虚。これに大概の女子はハートを撃ち抜かれ、男子は慕っている。見た目は恩恵(ファルナ)のせいか、少年のような見た目だ。

 

「あ、あのっ!!」

「? どうしたの?」

 

 そんな、先生は誰にでも優しい。1回国に引き抜かれそうになった。その強さからか、学区外のものからは強さしか見られない。

 だからこそ、先生はみんなに優しい。いや、元々の性格が大半だが。

 

「君は……ラピ?」

「ひゃいっ!!?」

「そんなに緊張しなくても……堂々とね」

 

 ラピ・フレミッシュ、【バルドル・クラス】のLv1の男の子。この子は色々やらかして、通称【ドベ】。第三小隊のサポーター兼指揮官だ。

 

「ラピ、どうしたの?」

「えっと……また、ダンジョンと、え、英雄譚を教えて欲しいんです!」

 

 キラキラと輝くラピの瞳、茶色の長い前髪の奥にあるのは自分と同じ深紅の瞳。学区の方針、『探求への礎』を育むことを理念としている。

 だからこそ、こういう生徒は大歓迎だ。

 

「うん! いいよ。英雄譚、本当に好きだね!」

「はい!」

 

 英雄譚でも、ダンジョンでも、学ぶことを選ぶのなら、教師()達は止めない。

 

「あ! ラピくん!」

「! ──ニイナ」

「おはよう! ベル先生もおはようございます!」

「はい、おはよう」

 

 その時、廊下の奥から小走りでこっちに向かってくる一人のハーフエルフの少女、ニイナ・チュールがいた。どうやら、ラピを探していたようで少し息が上がっている。

 

「広いもんね、ここ」

「はい! でも大丈夫です!」

「なら良かった」

「あの、少しラピくんを借りてもいいですか?」

「えっ?」

「うん、ラビ次第だけど、どうする? 後でも教えてあげようか?」

「……なら、ありがとうございます! ニイナ、行こうか?」

「うん!」

 

 それだけ言うと、来た時と同じように小走りで行ってしまった。もうすぐ授業が始まるから、僕も移動することにした。

 

「次は……終末対抗論、か……」

 

 主に戦闘を得意とするベルは、全くほかができないわけではなく、マナーや礼儀作法は熟知しており、第一級冒険者の一人として一回だけ社交界も経験がある。ベルの前ファミリアに所属していた時、ベルと因縁というか、ゼウスを目の敵というか、協力していたファミリアから調教(きょういく)された。

 

「……寒気がする。今日はレオンに愚痴でも聞いてもらおうかな。……っと!?」

 

 そして、その時ぼんやり考えながら歩いていると何かに足を取られてしまった。第一級の反射神経で顔面衝突は避けられたものの、これをレオンにでも見られたらいじられていたところだ。

 

「危ない……って、なんだろ、これ」

 

 そこには、大きい不思議な色をした魔石だった。何故ここに? なんて考えるベル。

 

「……大きさからして、ダンジョン? ……でもこんな魔石見たことない。普通、魔石は紫紺のはず……」

 

 そう考えていると、もう予定の時間から、二、三分遅れていることに気づく。授業開始の時間が過ぎている。

 こうなったら、と。ベルは誰もいないことをいいことに第一級冒険者としての全力を出すことにした。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 世界最速と謳われる白兎の脚は音速を越えていた。それは正に、神速、だと思うほどの。そして、すぐに教室に着いた。ほぼ一分。

 

「はぁ……はぁ……お、遅れてごめ───」

「みんなぁー!! 青春してる──────!?」

「「「いぇ──────────い!!!」」」

 

 けれど、遅すぎた。何やってんだこの人くらい思うほど、僕は力が抜けた。なんで生徒も盛り上がるの? なんて赴任してからずっと考えている。

 

「あ! ベル先生!!」

「あら、ベル! じゃあ、ベルも来たということで、みんなで! レッツアオハル〜☆」

 

「「「「レッツアオハルッ────────ー!!」」」」

 

「あは、もう帰りたい」

 

 たまにこうして、授業が乗っ取られる時がある。そういう時は、何を言っても聞かないということがある。そのため、教師陣は神様達に諦めてる。

 

「よりにもよって……イズン様……」

「ベルー? レッツ?」

「……レッツアオハル……」

「「「いぇ────────────ーい!!!」」」

 

 そして、これに関しては未だに慣れない。なんて考えているベル。それもそうだ。生粋の生真面目、そして彼自身の奥手さやガツガツ行けない性格上、イズン様のこのノリは教師ベル・クラネルは慣れない。

 

「じゃあ、ベルが来たから私は行くわね〜」

「だからぁ!? 盛り上げるだけ盛り上げるの辞めてくれませんかねぇ!?」

「ベル、レッツアオハル☆」

「イズン様ぁー!?」

 

 そして、イズンが来ると毎回こうなる。テンションMAXな彼らは今無敵状態だ。そうなるとすごく苦手になるのがこのベルであった。

 

「……アオハルもいいけど……授業に集中しようか」

「「「!?」」」

 

 そして、それと同時に起こるのが、内心ベルのブチ切れモード。この状態でふざけると冷酷に冷たく言われた後に諭される。なんてことはなく、レオンが痛い目にあうだけだ。

 

「久しぶりに見た……」

「あれが」

 

 なんてヒソヒソ言っているが、ベルはお構い無しだ。まあ、生徒にバレる程授業中に怒るのは教師としていけないと分かっているのでベル自身もう切り替えている。

 

「じゃあ、授業を始めよう───」

 

 それが、ベルの教師としての責務。

 

 


 

 ベル・クラネルとはLv10の世界最強。

 けれど、彼はもう黒龍とは戦えない。だって、ベルのトラウマは、黒龍なのだから。

 

 ゼウスとヘラの間に生まれた子供、それがベル。

 ゼウス・ファミリアのサポーターとヘラ・ファミリアのヒーラーとの子供。両者はお互いにファミリア最弱であったものの、その性格ゆえに、誰もを魅了した。

 

 そして、その両者のいい所を受け継いだのが、ベル。ベルには戦闘の才があった。

 

「せやぁ!! ───硬いっ! ってうわっ!?」

「そんな事じゃモンスターなんぞ倒せんぞ! ベル!!」

「ん! 分かってる!! おじさん! 行くよ!!」

「さあ、来い!」

 

 だからこそ、叩けば伸びるベルに訓練をつけ、地獄に落とし、故意のパスパレードをしかけ、殺しかけ、日中は常にダンジョン、そして夜はご飯を食べたあとにザルドによる訓練。毎日死にかけだったベル。

 

「っ!」

「どうした? 最近アルフィアに習った平行詠唱はしないのか? それとも、あいつの教えが悪かっ──」

「違う!!! それ言ったら……ヤメテ! ぼく、もう限界を見極めて500回超えるなんてもう嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」

「おい、そんな大声出すと──」

 

「【福音(ゴスペル)】──サタナス・ヴェーリオン」

 

「!? 【防弱な我が身を守れ】──【プロテクト・アルゴウタイ】!!」

 

 超短文詠唱に対抗するべく、舌を噛まないように短文詠唱を高速詠唱とし、シールドを貼った。そして、間一髪間に合い、魔法に巻き込まれたのはザルドだけだった。

 

「メーテリアが心配している、もう帰ろう」

「うん!」

 

 そして、ゼウス・ファミリアのホームからアルフィアはベルを連れ出しヘラ・ファミリアまで帰る。

 

 ベル・クラネルは自分が愛されていることを、試されていることを、この現状に満足している自分を、そしてゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの責務もわかっていた。だからこそ、より強くなった。

 

 当時、七歳にしてLv3、その異例さは誰もを驚かせていたがら、七歳にして

 

 

 

 ───ゼウスとヘラファミリアの壊滅を聞いた。

 

 

 

 自分は何回言っても連れて行って貰えなかったのに、自分は何も出来なかったのに、のうのうと生きている事が、それを知った時、後悔した。

 

 だからこそ、オラリオを出る前にダンジョン深層で暴れに暴れた。そして、自分以外の生き残りが全員出て行ったあと、四日ほど、深層に滞在して、上級経験値(ハイエクセリア)をゲットしたと考え、オラリオからでていくことを決意した。

 

「強くならなきゃ」

 

 と、思いながら、でも、ダメだった。

 ゼウスとヘラの強さがわかっているベルは怖さも知っていた。けれど、そんなファミリアでも負けたというのは、ベルのトラウマとなった。

 

 

 


 

 

 

 

 そして、ベルは終末対抗論について授業をしている。

 

「んー、じゃあそこの……ラピ」

「ひゃいっ!?」

「あはは……君に問題だ。君は『終末は打たれると思うか?』」

「「「「!!?」」」」

「……それって」

 

 当然のごとく、皆は動揺した。教科書にも載っていないような言葉を問題として問うのだから。

 

「ごめん、ラピ。これは私情的だね。答えなくて──」

「打たれると思います」

「───────────」

「というか、打たないといけないんですよね」

 

 ラピに驚愕した。ベルは絶対に答えは出せないとそう考えていた。自分でも、即答できるわけがない。悩んで悩んで分からないと言うと思っていた。

 だからこそ、答えなくていいと思った。言おうとした。

 

「ぼっ、ぼくは……まだLv1だから、戦力なんかにならないけど……打たれないと終わるなら、僕は打たれると思います」

「……そうだね、『訪竜問題』と同じさ。誰かが打たなくては、誰もが死んでしまう。オラリオにもうすぐ行くけれど、そんな意識は誰もが持っていて欲しいもの」

 

 不敵な笑みを浮かべて、ベルはみんなに言った。

 

「皆、拍手───ラピのおかげで私も皆もまたより一層賢くなった」

「なっ!? ベル先生が、笑った……」

「これ、ヤバいコト?」

「恐らく、レッツアオハルをノリノリで言い出すくらいには、ベル先生の情緒壊れたか」

 

 ベル・クラネルという教師には、情緒がぶっ壊れると一人称とか性格とかが変わるという噂がどこからか───提供レオン───流れていた。

 

「っと、ここで授業は終わりか。……しっかりと復習をしておくように」

「「「はいっ!!」」」

 

 そして、授業が終わり、ベルは教室を後にした。そして、次はお昼の時間となるので、お昼の用意をしに戻ることにした。

 

「あ! ベル先生! こんにちは!」

「ニム、廊下は走らないよ」

「はーい!」

「あ、ベル先生!!」

「やあ、インダー、ちゃんとご飯食べるんだよ。大きくなれないからね」

「なら、先生も、ですよ!」

「って、こら!?」

「それでは〜!」

 

 その間も生徒は通っていく、そして挨拶してくるので挨拶を返していく。それが礼儀である。

 

「……よし、っと」

 

 そして、ベルはどこで食べるかと言うと。

 

「ふんふん〜」

「いや、待てベル」

 

 食べるよりも先に鍛錬であった。

 

「……なんだい……レオン、私のやることに口を出す気か? 潰すぞ。分かったらその手を退けろ」

「その口調の時だったか……ベル、昼飯は食べておけ」

「退けろ」

「そういえば、アストレア様のファミリアがオラリオですごく活躍しているらしい」

「……良かった」

「そして、アストレア様のタイプは沢山食べ───」

「レオン、一緒に食べようか。何モタモタしてるの?」

「ちょろ」

 

 そう、ベル・クラネルという人物には好意を寄せている相手がいる。それが、今名前が上がったアストレア。正義を司る女神アストレア。それが、ベルの初恋の相手であるのは、レオンしか知らない。

 本人(アストレア)はそれを知っている。けれど、ベルと自分の時間は違う。と言われ断られているものの、まだ諦めていない。

 

「そうなんだ……アストレア様……いっぱい……」

「なあ、ベル?」

「アストレア様……そういえば、アストレア・ファミリア、生きてたんだ。うるさい子はちょっと苦手だけど、まあ嬉しいな」

「ベルー?」

「えへへ、アストレア様ぁ……そのほっぺ、抓りたい。というか、前僕に『強くなったわね』ってもう、えへへへへへへへへへへへ」

「ベル!!」

「っ!? びっくりした〜、どうしたのレオン」

 

 そして、アストレアのことを考え、夢想の世界に入ったベルを呼び戻すべく大きい声を出すレオンにびっくりするベル。

 

「はぁ……ベルの性格と行動基準は普通だと思っていたのに、まさかの変態だったとは」

「なっ、失敬な!? 僕はふぁんだよ!」

「厄介?」

「そうそうチョハッカイ」

「それは違う」

「あれ?」

 

 生徒の前では完璧を演じる彼らは二人でいる時はこんなふざけた会話を繰り広げる。

 

「……変わったな、ベル」

「? なにが?」

「お前の昔は酷かっただろう。マザコン、変態、チュウニ病、オマケにダンジョンに行きたがる。黒竜怖いなんて思っているのに黒竜討伐を先行しようとする」

「うぐっ……で、でも!?」

「気持ちは、分からないでもない」

 

 黒竜討伐なんて、誰もが願っている。そして、レオン達にはベルに負い目がある。まだ幼いベルの家族を奪う真似をして、一人にさせた。

 

「……ベルが、教師になるとは、人生分からないな」

「そうだね。……僕、教師になって、大変」

「……そうか」

「でも、僕はそのおかげでここまで来れたと思ってるよ、レオン。何も知らない僕にとって、ここは知恵の倉庫みたいだね」

「そうだな」

 

 ベル・クラネルという少年と長く関わったレオンは知っている。昔も、何を思っているのかも。

 

「もうすぐオラリオだな」

「……そうだね」

「お前の思っていること、当ててやろう」

「……なにさ」

「『どうせアイツらは礎を喰ったとしても、1ミリたりとも成長してない』って、ぶー垂れてるんだろう?」

「…………アタリ」

「当たって欲しくは無いさ。そう思うな、なんて無理だとは思っているがな」

 

 なんせ、あのゼウスとヘラをみて育ってきたベルは理想が高い、そして実力もある。故に、オラリオという最高の環境があるくせに、持て余すだけのフィンたち冒険者に怒っているのだろう。

 

「さあ、帰ろう。俺たちのそろそろ昼は終わる」

「うん……レオン、わかったよ」

 

 だからこそ、今回のオラリオ帰還というか、オラリオ到着、レオンはあまりよく思っていなかった。オラリオの冒険者は良くも悪くも素直すぎる。欲に、という意味合いで。

 だからこそ、高潔なベルは合わない。生徒の手前我慢している面もあるが、身の丈に合わない欲を欲する冒険者には反吐が出そうになるらしい。

 

「……問題がおこるな、これは」

 

 そう確信したレオンであった。

 

 




はい!今回はベルの先生をイメージしました。レオン先生の口調が……的な懸念はありますけど……まあ、いいんじゃね?的な感じです。

学区編が一番好きです!後ラピ!ベルとは違うラピをキャラ化させたかった!

少し補足
ベルは22歳です!メーテリアはもっと正史より歳を重ねている的な感じです。ベルはフィン達がきらいで、五年前に来ていて、それでアストレア・ファミリア生存(全員)死なせたくない!って感じです。

まあ、こんくらいですかねー。思いつきです。
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