西暦2XXX年、中国で光る赤子が誕生してから、人類は変わり出した。
個性と呼ばれる特殊能力が人々に発現したことで、平凡だった社会から超常社会へと変貌を遂げた。治安の悪化が深刻化する中、それを憂いた一部の人々は、犯罪に対抗するべく自警活動を始めた。やがて、復活した各国政府は、個性の乱用を防ぐために個性禁止法を施行する。その際、個性を社会的秩序の中に位置づける象徴として、新たな職業が誕生した。
それがヒーローと呼ばれる職業である。ヒーローの起源は、自警団と呼ばれる治安維持のボランティアにある。しかし、個性を悪用する者【ヴィラン】と呼ばれる敵を退治する行為が次第にエンタメと化し、敵退治がヒーローの主な業務となってしまった。現代の社会は、まるで崩れかけのジェンガのように、不安定な近郊の上に成り立っている。
そんな中、日本のある企業によって、一体のロボットが開発された。玩具製造を主軸とする海陸インダストリアルが、開発から生産を手掛けた小型玩具『LBX』。
正式名称は、『Little Battler eXperience』。直訳すると、『小さな戦士の体験』である。
個性社会においても、プラモデルやフィギュアは根強い人気を誇っていた。そのため、LBXは一部のマニアの間で注目を集め、やがて、子供たちの間でも広く遊ばれるようになった。
また、LBXが活躍できる専用の遊び場として、海馬重工と共同でDキューブが開発された。これは、海馬重工が開発した強化段ボールをベースにしたものである。
元々、この強化ダンボールは、第一空挺団のパラシュート降下時に投下される軍事物資の衝撃を吸収する目的で設計された特殊な梱包材だった。
物語の舞台は、日本のとある町にある一軒の民家へと移る。
その二階の一室では、一人の少年が作業机に向かい、黙々と模型を組み立てていた。
少年の名は、海陸雷斗。海陸インダストリアルの御曹司にして、空一郎の忘れ形見である。
雷斗は、ふと手を止め、棚に飾られた写真立てに目を向けた。そこには、穏やかな笑みを浮かべる母と幼い自分に肩車をする空一郎。そして、まだ幼い自分が写っている。
雷斗は、そっと指先で写真立ての縁をなぞりながら、静かに感傷に浸った。
「俺は、LBXで楽しく遊んでもらうという父さんの夢を、必ず受け継ぐよ」
そう呟くと、雷斗は再び机に向かい、作業を再開した。
机の上には、小型機体『AX-01』のコアスケルトンを中心に頭部、胸部、脚部、武器と様々なパーツが散らばっている。
雷斗は、父が遺したノートに記された設計図通りに、丁寧に組み立てを進めていた。
『Little Battler eXperienceシステム』-それは、空一郎博士が生涯を賭けて築き上げた技術であり、雷斗に託された夢の結晶でもある。
海陸インダストリアルは、大手玩具メーカー「遊天」から独立したエンジニア・空一郎と、個人製作所を営んでいた雷斗の叔父・大地によって共同設立された企業だ。
空一郎がLBXを開発する以前は、玩具の下請け業務を中心に、自社ゲームソフトの開発やフィギュア制作などを手掛けていた。
しかし、雷斗が7歳のとき、空一郎はトラックによる追突事故に巻き込まれ、その生涯に幕を閉じた。
取引のために同行していた大地も重傷を負い、長期入院を余儀なくされた。だが奇妙なことに、事故現場では空一郎の遺体が発見されなかった。ニュースや新聞では、「よくある交通事故」として報じられたが、当時の雷斗は、心の奥底で違和感を抱いていた。
-これは本当に事故だったのか。実際は、交通事故ではなく、何かの事件に巻き込まれたのではないか。
葬儀を終えた後、空一郎の遺書が発見された。
そこには、LBXシステムの開発特許を雷斗に相続させる旨が記されていた。一方、LBXの販売・製造に関する特許は叔父の大地が引き継ぐこととなり、遺産相続問題は穏やかに決着した。
「…さて、明日は学校だし。早く寝ないとな」
時計の長針が丁度24時を指したのを確認したすると、机の上に広げていた自作LBXを丁寧に小型ケースへ収納した。
翌日、雄英高校の敷地内にある演習場Gでは、ある実験が行われていた。
ヒーロー科の入学試験で使用された仮想敵ロボが、ボウリングのピンの様に整然と並べられている。その向かい側には、雷斗が静かに立っていた。
雷斗は、モノクル型のサイバーグラスを装着し、脳内の電気信号をLBXのコアボックスにリンクさせる。そして、手甲部に液晶が施された特殊グローブを装着し、操作準備を整えた。
「行くぞ!レオダス!」
雷斗の掛け声に応じて、LBX『レオダス』が頷く。金と赤を基本とした装飾に、槍と盾を構えたその姿は、古代西洋の重装歩兵を彷彿とさせる。
「レオダス、必殺ファンクション!」
雷斗は、液晶に表示される『必殺ファンクション』
〈アタックファンクション!ライジングサリッサ!〉
指示を受け取ったレオダスは、電撃を纏ったサリッサを軸に体を捻り、高速旋回する。雷槍と化したレオダスが仮想敵の集団に突撃すると、次々と仮想敵の装甲を貫き、機能停止へと追い込んでいく。雷斗は、全てを撃破したと思ったが、一体だけ残っていた。
その仮想敵は、左腕を失ったものの、まだ稼働していた。
〈ガガガ!人間、抹殺!ブッ殺す!〉
「討ち漏らしたか。よし、銃器ウェポンに換装して、即座に必殺ファンクション!」
レオダスは、メタルサリッサを外し、サブウェポンのサンダーライフルへと換装する。
〈アタックファンクション!ライトニングキャノン!〉
サンダーライフルの銃口に電気エネルギーが収束し、雷斗の射撃意思がリンクしたレオダスは、照準を合わせ、引き金を引く。稲妻のような砲撃が仮想敵の装甲を穿ち、内部回路をショートさせて、沈静化させる。
雷斗は、全ての仮想敵が撃破されたことを確認し、LBXの攻撃実験が完了したことをパソコンのデータに書く。
データをセーブした後、特別に貸し出された0Pの巨影が雷斗の身体を覆った。
雷斗は、不敵な笑みを浮かべ、近くにあった鉄材に掌を向ける。
次の瞬間、鉄材が宙に舞い、彼の手元で銃器へと変形する。
彼は、即席で電磁砲を創り上げ、その砲口を0Pへと向けた。
「行くぞ0P!一撃必殺!
放たれた電撃は雷霆の如き威力で0Pを貫き、装甲を無様に破壊する。雷斗は、自らの創造した電磁砲の威力に満足げな表情を浮かべた。
「こらー!今の轟音は何だ!そこにいるのは海陸か!何をしている!」
電磁砲の出来栄えに満足していた雷斗の背後から、怒鳴り声が響いた。振り向くと、ショベルカーのようなヘルメットに轟々とした爪を備えた男が立っていた。
彼の名は、埋島干狩。ヒーロー名はパワーローダー。雄英高校サポート科の教師として、日夜生徒の指導に励んでいる。
「あ、パワーローダー先生!新たな武器を開発したので、実験してました」
「オレが許可したのはLBXの攻撃実験だけだろうが!手元にある物騒な銃器はなんだ!説明しろ!」
「はい、電磁砲です」
「バカヤロウ!朝にはなかっただろ!いつ作った!?」
「先生がトイレ休憩に行っている間に開発しました。材料は、近くにあった廃棄予定の鉄材を少々…」
「お前、無断で個性使ったな!発目の試作品が爆発して壁が崩れたばかりで、その修繕だけでも胃が痛いのに…オレの胃に穴を開ける気か。まったく」
「海陸さーん!」
雷斗がパワーローダーから説教を受けていると、ひとりの女子生徒が彼の名を呼びながら、勢い駆け寄ってきた。
「発目か」
彼女の名は、発目明。雷斗のクラスメイトであり、スチームパンク調の作業着に、ピンクのドレッドへアーと額に装着したゴーグルが印象的な美少女だ。サポート科の中でもひときわ異彩を放つ、将来を嘱望された金の卵である。
「先生!また試作品が爆発しました!ついでに壁も崩れました」
「お前…また壁を修繕しないといけないじゃないか。あたた、胃が痛い」
「まぁ、先生の胃の調子はどうでもいいです」
「おい」
発目の無遠慮な一言に、パワーローダーの額に青筋が浮かぶ。
「それよりも、今日の工学授業で開発した試作品を見せて下さい!」
「仕方ない。放課後に発表する予定だったが」
「お前ら、人の話を…もういいや」
雷斗は、無言で一つの段ボールを二人の前に差し出した。それは、どこにでもあるような茶色の段ボール。おまけ程度にミカンの絵と文字が印刷されている以外、見た目は何の変哲もない。パワーローダーが眉を顰める。
「…ただの段ボールにしか見えんが?」
パワーローダーの発言に、待ってましたとばかりに雷斗はニヤリと笑う。
「見た目はただの段ボール。ですが、この試作品〈オンミツ〉は、高度なステルス機能を搭載したサポートアイテムです。試しに、被って実演してみます」
雷斗は段ボールを持ち上げ、すっぽりと頭から被った。その瞬間、発目とパワーローダーは彼の存在を認識できなくなった。雷斗は、二人の周りをグルグルと回り始める。
「おい、海陸はどこ行った?」
「海陸さーん!どこですかー?」
雷斗が段ボールから顔を出すと、二人はようやく彼の存在を認識し始めた。
「一体どういう理屈だ。ステルス装備にしては目立つのに、まったく気付かなかったぞ」
「簡単です。段ボールの隙間に埋め込んだ電波装置盤で特殊な周波数を発生させて、半径50m内の人間の認識機能を弱体化させています。これで敵組織への潜入捜査にも応用が可能です」
「お前が今まで作ってきた中では一番まともかもしれん。だが、電磁砲は片づけろよ」
溜め息を吐くパワーローダーの言葉に、雷斗は軽く肩をすくめて返事を返す。
「はーい。暇つぶしにメタルギアRexでも作りますか」
「待て待て待て!メタルギアは洒落にならん!下手すれば、国際問題や著作権問題に発展するからやめろ!」
パワーローダーは、メタルギア開発に取りかかろうとする雷斗を慌てて羽交い締めにする。雷斗は、子供の様に駄々をこねながら抵抗する。
「なんでですか!メタルギアって男のロマンじゃないですか!先生も技術者なら俺の気持ちをわかってくれるはずです!」
「ああ、オレもメタルギアシリーズは好きだ。初代から最新作、リメイク作まで全部遊んでいる。だが、それとこれとは話が別だ!」
ぎゃーぎゃーと口論を繰り広げていた二人は、次第に疲れ果てて地面に寝転んだ。
「はぁはぁ、余計な体力を使った。じゃあ、オレは他の生徒の様子を見てくる。いいか、何もするなよ?」
パワーローダーは、生徒たちの様子を見回るため、足早に演習場を後にした。 その背中が視界から消えるのと入れ替わるように、発目が現れる。 煤にまみれた頬に笑みを浮かべながら、彼女はまるで発明の余韻を纏っているかのようだった。
「海陸さん。何をしているのですか」
発目が戻ってきた。ピンクの髪と愛らしい顔は、煤で真っ黒に染まっている。雷斗はゆっくりと起き上がり、頭から足まで彼女の姿を確認した。
「発目か。いつの間にいなくなったと思っていたが、その様子だと、また試作品が暴発したようだな?」
「はい!今日も失敗してしまいましたが、ここで諦めては私の中の技術者魂が廃れます!何事もトライ&エラーですから!」
笑顔で自身のものづくりに対する理念を語る瞬間、雷斗の目には、彼女の背後に後光が差しているようにさえ見えた。
「眩しいよ。本当…」
「そういえば、以前にパワーローダー先生からお聞きしましたよ!ヒーロー科主席合格の海陸さんが、なぜヒーロー科を辞退してサポート科に入ったのかって」
発目からの問いに、雷斗は彼女の顔を一瞥し、顎に手を置いて思案する。
「確かに、俺の個性ならヒーロー科でも難無くやっていけると思う。でも、自分の造りたいものを全力で作れるサポート科の方が、俺の性分に合っていた。それだけ」
雷斗とパワーローダーのやり取りから数分前。演習場Fの一角にあるビルの地下室では、ヒーロー科A組が、オールマイトの〈ヒーロー基礎学〉の授業を受けていた。各々の反省点や評価がオールマイトから下され、内心落胆する者、アドレナリン全開で挑み気絶する者など、熱気に包まれていた。
「お疲れさん!緑谷少年以外は大きな怪我がないみたいで良かった!では、〈ドンガッシャ―ン!〉うお、何事!?」
オールマイトは、突如響いた轟音に驚き、思わず身構えた。近くにいた生徒たちも譲許を理解し、次第にざわつき始めた。
「でっけー音がしたな。雷か?」
「いや、今日の天気予報では一日中晴れだって言っていたぜ」
「怖いわね。ケロケロ」
騒ぎはすぐに収まったものの、放課後となってもA組の教室では、轟音の正体について議論が続いていた。誰もが気になっていたが、誰も確かな答えを持っておらず、結局は八百万が口にした晴天雷という説に落ち着き、議論は幕を閉じた。
実習から戻った雷斗は、H組の教室で発目に詰め寄られていた。
「海陸さん!海陸さん!このあと、お時間がありましたら、私と一緒にドッ可愛いベイビーを作りましょう!」
「分かった分かった。誤解されるから、その言い方はやめてくれ」
誤解を生むような発言を繰り返しながら、ぐいぐいと迫りくる発目を宥める雷斗。彼女の言うベイビーとは、発目が開発した試作品を指す事だと分かっていても、周囲の視線が気になるのは仕方ない。
彼にとって、騒がしくも賑やかな学園生活が、今まさに始まろうとしていた。
この作品を執筆した理由として、ダンボール戦機を懐かしむ余り、ヒロアカとの小説を書きたいという欲から書き始めました。
筆者の好きなLBXは、アキレスです。
この小説の他にも、様々な作品を書いていますので、お楽しみください。