石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第10話 爆散

「おしっこ」

 

「えっ」

 

 回収された間桐桜が排尿の意思を告げ、メディア様が嬉しそうに寺側のトイレに案内するという一幕を挟んで。朝日が神殿の純白の柱を照らし出した頃に私たちは再びの作戦会議を開催した。

 

「第二回キャスター陣営作戦会議~」

 

 ぱちぱちと拍手が鳴る。玉座におわすメディア様と、各陣営を監視している会議不参加のアサシン数体以外全員が手を叩いているため、百人超の拍手音が広間に響いた。

 

 その中心で司会進行として音頭をとるのは、アサシンズの中心的存在である紅一点、『妖美』のハサンだ。他のハサンとホムンクルスは司会を囲むように扇状の会議席を埋めている。

 

「今夜の成果についての報告。『査定』の」

 

「はい」

 

 立ち上がったのは禿頭で背の低く腰の曲がった、老人のようなアサシンだ。

 

「間桐邸に侵入した我らは確実に間桐臓硯を始末いたしました。そこの長男である間桐鵺野には気づかれておりません。地下に蔓延っていた蟲を含めて臓硯は『業火』のの炎で焼き尽くし、あの家に残された魔術に関わる資料は全て回収いたしました。『解錠』のスキルで全ての隠し扉を暴きました故間違いございません」

 

「その内容については」

 

「『考古』のと共に調べましたが、さすがは500年以上の歴史を持つ魔道の家と申しましょうか。降霊、召喚、使役、呪詛、植物等あらゆる分野において凄まじい研究の記録が残されておりました。保存されていた呪体も神秘の質から数百年前、物によっては千年は前のものも多くございまして、現代の市場では値段も付けられぬほど希少かつ神秘を蓄えるものばかり。『考古』のとともに嬉しい悲鳴を上げておりましたぞ」

 

「メディア様、マスター殿。間桐の遺産についてはどう扱われますか」

 

『妖美』のハサンがこちらに振り返って尋ねる。

 

「私は特に必要ないかな。私は地属性だから水属性の間桐の技術とは相性が悪いし。あえて言うなら召喚と使役のノウハウは『虫飼』のハサン君に読ませてみてもいいかなと思うけど。メディア様は?」

 

 玉座を見上げた。そこにはもちろんメディア様が座っていて、ただその膝の上にはおしっこから戻った間桐桜が座らされていた。

 

 膝の上の幼女の頭を撫でながらメディア様はキリっとした表情で告げる。

 

「魔道関連の資料が私の役に立つかはわからないけれど、一読はしておきましょう。使えそうなものがあれば手元に置いておきますし、そうでないものは魔術協会? とやらに売ってしまえばいいわ。あ、呪体は私がもらいます」

 

「まあ、メディア様に扱ってもらうのが呪体にとっても本望でしょう」

 

 なにせ道具作成スキルAである。神話においても様々な薬を作れることで有名な彼女だ。現代において彼女以上に呪体を扱える存在はいない。

 

「では続いて間桐雁夜について。『潜行』の」

 

 次に話を振られたのは、黒髪で痩せぎすのアサシンである。

 

「あー……死にました。さきほど」

 

「ではそのサーヴァントは?」

 

「アーチャーめの猛攻を防ぎ、いざ反撃に移ろうとしたところで間桐雁夜の魔力が尽きたようで。間桐雁夜の執念はすさまじいもので、殺せ殺せと叫びながら悶えておりました。命を引き換えに限界まで魔力を搾り取らせてバーサーカーにアーチャーを攻撃させ続けていたのですが、結局届かず命が先に尽きまして。そこでバーサーカーの動きが止まり、アーチャーの宝具の一撃をまともに受けまして霊核が損傷しました。『説諭』のが間桐雁夜を説得してバーサーカーを霊体化するよう命令させまして、なんとかそちらも回収できました」

 

 はーい、と『説諭』のハサンが手を上げた。小柄な少年のような姿だ。

 

「一応バーサーカーはまだ聖杯に回収はされておりませんが、霊基も解けかけております。『仮死』の奴にバーサーカーを休眠状態にし、魔力消費を極限まで減らすことで延命させております」

 

「間桐雁夜の死体は?」

 

 そこで『仮死』のハサンが起立した。

 

「一応寺に運び込んでおります。その場で処分してもよかったのですが、あの死体どうも奇妙で。心臓も止まっておりますのに動くのです。さくらちゃんがーあおいさんがー、とぶつぶつ呟きながら。ちょっと面白かったので思わず仮死状態にして持ち帰ってしまいました」

 

「死んではいるのですね?」

 

「それは間違いなく。『仮死』のハサンの名に懸けて」

 

 そんな『仮死』のハサンの言葉を聞いて私は思った。

 

 型月のキャラってそういうところあるよね。

 

「じゃあ間桐雁夜の死体はメディア様にそのままで保存してもらいましょうか。バーサーカーも霊核が破壊されているようですが、残しておけば何かに使えるかもしれませんし。いかがですかメディア様」

 

「そうね。正直私たちの戦略上暴れるだけのバーサーカーは使いどころが難しいけれど、残せるものは一応残しておきましょう。本当は寝取り不倫騎士なんてすぐにでもすりつぶしてやりたいけれど」

 

 間桐桜を後ろからぎゅっと抱きしめながらメディア様は吐き捨てた。

 

 ランスロット嫌われてて笑う。

 

「続いてその、あー、間桐桜嬢についてですが」

 

 ちらりと司会役の『妖美』がメディア様の膝の上の間桐桜を見る。少女二人が仲睦まじく座っている様子に七番個体が泣きながらハンカチを噛みしめていた。

 

「子供にしてはずいぶんと表情が死んでいる様子ですが、『診心』の、なにか診えましたか」

 

 呼ばれた長髪の大柄なアサシンが、咳払いとともに立ち上がった。

 

「そこそこ厳しめの修練と肉体改造を施されていたようですよ。まあ、魔術の教育を一切受けずにいきなり放り込まれたため心が折れてしまったようです」

 

「どのくらいの期間ですか?」

 

「1年程度です」

 

 なんだそんなものか、というちょっとした呆れのため息が会議場に響いた。

 

「その修練や肉体改造がどういった目的のものかは、異教徒の技術であるため私には判別できませんが。この幼子も記憶を感情とともに封じておるようで内容自体も判然としませんし」

「属性の改編ね」

 

『診心』のの報告を遮ったのは、未だに間桐桜を撫で繰り回しているメディア様だ。

 

「元々あった属性を別の属性に改造して、自分の家系の魔術を継がせようとしてたのね。あるいはこの子の産んだ次代の子供に継がせるため、か。それはわからないけれど、はっきり言って非効率的すぎるわね。間桐の当主がよほど無能なのか、それともわざとやっているのか」

 

 メディア様は形の良い眉をしかめて一人言のようにつぶやく。

 

 もしかしてそうやって抱きしめてるのって診察だったりしたの? 

 

 ただのセクハラだと思ってた。原作で前科あるし。あのシーンは薄い本でも大人気で大変お世話になりました。未だに思い出せるわ。

 

「元の属性のほうが希少性も高く有用なのに、わざわざありきたりな水属性に変えるなんて……これだから夢だのロマンだのを求める男っていやになるわね、自分の血を継承させることに執着しすぎで……本当気持ち悪い」

 

 言いながら、メディア様は左手で腰から何かを引き抜いた。

 

 それは月の意匠が施された、メディア様の身の丈ほどもある杖だ。

 

 どこにそんなものをしまっていたのかなんて気にしてはならない。この程度の疑問なら「メディア様だから」で解決する。受け入れた方が早い。

 

「本当はこんなことやりたくないけれど……ちょっとどいていなさい」

 

 彼女は実に嫌そうに、本当しぶしぶといった様子を隠さずに間桐桜をどかして立ち上がった。

 

 こほん、と顔を若干赤らめて、彼女は叫ぶ。

 

「みんなー! 応援してねー!」

 

 叫び、月の杖を天に掲げる。すると星の粒子が浮かび上がり、メディア様から重力を奪った。

 

 ふわりと宙に浮かび上がった彼女は杖を大きく振り上げた。動作一つ一つに幻想的な輝きが伴う。私も、ホムンクルスたちも、常在戦場を旨とするアサシンたちでさえ彼女の神秘性から目が離せない。

 

「遡行術式、準備完了です。どうか誰も傷つけぬ、傷つけられぬ世界でありますように……リリカル・メディカル・マリッジリング! くらいなさい、修補すべき全ての疵!」

 

 振り下ろされた杖から放たれた色とりどりの星屑の海は、玉座にちょこんと座らされた間桐桜を取り巻く。星々は少女の内側へと入り込んで、そこに刻まれた術式を発現させていく。

 

 その効果は、あらゆる呪いや魔術による損傷を零に戻すこと。知らぬ者には時間の逆行としか映らないだろうそれは実は、算定されたあるべき姿への修復である。

 

 時間操作より下位の神秘ではないかなどと思うものもいるかもしれないがさにあらず。その効果は修補であり、つまり直すだけでなく補うことも可能である。算定された姿に戻すということは、本来の姿とは別の姿形にあえて算定することも可能であり、やりようによっては人の感情のような形のないものすら算定した形に改編することができる。

 

 その絶大な神秘に晒され、間桐桜の髪は艶やかな黒色に、紫がかり輝きを失っていた瞳にも黒い光が灯った。

 

 

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「……あ」

 

 これまで「おしっこ」以外言葉を発していなかった間桐桜が口を開いた。

 

 今まで遮断していた感情を、情報を、正しく認知できるようになった脳が、目の前で繰り広げられた奇跡の美しさをようやく理解した。

 

 もう遠坂とは関係ない、姉とは二度と会うことはない。そう言い聞かされて過ごした間桐の家での日々。修練という名の凌辱と身を作り変えられる激痛に苛まれるうちに忘れていたかつての記憶。

 

 ──いつか私はお父様みたいな魔術師になるわ! 

 

 そんな風に自信満々に宣言した自慢の姉に対して、自分はなんと応えたのか。

 

 電化製品が少ない遠坂の家でもさすがにテレビはあった。毎週水曜日の午後5時30分から始まる魔法少女のアニメ番組。食事前に放送されるそのアニメを毎週姉と一緒に楽しみにしていて、時間前には必ず帰宅して手洗いうがいしてテレビの前に陣取って。

 

 地獄のような記憶で埋もれて摩耗しきった、それでも確かにあった宝石のような記憶の中で。

 

 確かに自分はこう言ったのだ。

 

 ──それじゃあ私は、魔法少女になる! 

 

 二人で、魔術師と魔法少女の役になって、戦ったり悪のいじめっ子をしばいたり。

 

 そんなかつての、二度とは帰らない日々を想起させる、自分の中にあった幼き夢の具現が、目の前にあった。

 

「メディカル・メディアちゃん……?」

 

 

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「二度とやらないわ」

 

 なんか前回と同じことをメディア様は言いだした。

 

 前回と違うのは、顔が真っ赤に発赤してまるで加熱した石炭のようになっていることだ。

 その横には間桐桜がメディア様の腕にしがみついて眠っていた。

 

 身体が修復されたことでメンタルもある程度回復したらしい間桐桜は、本物のメディカルメディアちゃんに会えたことにテンション上がってしまい、知恵熱のように熱を出して意識を落としてしまったのだ。

 

「何を言うんですか。薄幸の少女を魔法少女らしく救ったのですから胸を張ってくださいよ」

「救うたびにあんな恥ずかしいセリフ言わされる身にもなりなさいよ」

「自分で考えて叫んでいたのではないのですか?」

「そんなわけないでしょ豚にするわよ」

 

 それはさすがに御免である。

 

 どうやら魔法少女の霊基が合体事故を起こしている彼女は、魔法少女的な魔術を使おうとするたびに魔法少女的な言動を挟まないといけないらしい。召喚されたときの名乗りもそういうことなのだとか。

 

 やばいな、超おもしろいじゃん。

 

 私は聖杯戦争中に絶対人前でやらせてやろうと心に決めつつ、司会のアサシンに目で合図した。

 

「続いては今後の方針についてです。『奸計』のからの報告。衛宮切嗣の殺害についてです。普段からセイバーから離れて単独行動をしており、現在も『追補』のが追跡しておりいつでも殺害できる状態です」

「殺すなんてするわけないでしょもったいない! それに令呪があるうちはいつでもセイバーを呼べてしまうし契約もある。一旦追跡だけして泳がせておいて。手出し無用だよ」

「承知しました。続いて『狭域』のから報告です」

 

『狭域』のハサンは罠の技巧に優れた個体だ。罠を張るのも見抜くのもお手の物であり、標的の行動範囲をいつの間にか狭めていくことができる戦略家であり、それ故に『狭域』の二つ名を得ることとなった人格である。

 

「ランサーのマスターが宿泊している冬木ハイアットホテルに複数の爆薬を発見しました。現在『遠見』のハサンに監視させております。爆薬は相当の量で、回収してこちらで利用することも可能ですがいかがしますか」

「回収なんてするわけないでしょ、折角仕掛けてくれたのにもったいない! むしろありがとうだよ!」

 

 私は立ち上がった。

 

「みんな、これから収穫祭だよ!」

 

 

 

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 その後。

 

 アサシン50人を供に冬木ハイアットホテルに急行させられた統括個体は、『遠見』のハサンからランサー陣営について確認していた。

 

 その後ろにはメディア様もいる。

 

 今回は敵陣営と対面することはないと私に言われしぶしぶ同行したのだ。

 

 そういう私は依然として神殿の奥に引きこもっている。外は危ないからね! 

 

『遠見』のハサンが統括個体とメディア様に現状を報告している。

 

「結界が二十層以上、霊体であるサーヴァントにも干渉しうる悪霊や魍魎の気配も数十体、一部からの情報が途絶えていることから廊下が異界化されているものと思われます」

「……すさまじいですね。アサシンであるなら侵入はできませんか?」

 

 問われ、アサシンはうーむと唸った。

 

「恥ずかしながら、ここまで強固な工房への侵入は難しいかと。気づかれても構わないというなら無理やり侵入することも可能ですがあちらにはランサーもおりますし」

「リスクが高いですね。アサシンの生存を知らせてまでやる作戦では」

 

 その時。

 

 目の前で。

 

 冬木ハイアットホテルが爆散した。

 

 あまりにもあんまりな光景に、え、とその場にいる全員が硬直した。

 

 その時ネットワーク越しに私は統括個体に命令を出す。

 

 

 わたし:ほら、今のうちに倒壊現場に向かって! 

 第0番:え、は? 人命救助ですか? 

 わたし:馬鹿言ってんじゃないよ! あの瓦礫の中にはランサー陣営が聖杯戦争のために持ち込んだ礼装やら呪体やらがいっぱい落ちてるんだよ! 残さず回収して! なんのために『収貨』と『集積』のハサンも連れて行ったのさ! 

 第0番:あ、はい。

 

 時計塔にいた頃の調査で調べはついている。

 あの瓦礫の中には鉱石科のロードが代々受け継いできた宝石や鉱石。婚約者伝手の人脈で降霊科のロードから借りてきた激ヤバな悪霊を52体。

 

 他には前当主の代まではアーチボルト家の至上礼装に位置づけられていた魔力炉が3つ。これらは地位と人脈と財力が全て伴わなければ入手できない、霊墓アルビオンから出土した呪体を加工した代物だ。

 

 つまりあのホテルは、アーチボルト家当主が自身の財産だけでなく多額の借金を、それこそ返せなければ時計塔指折りの名門たるアーチボルト家が没落するレベルの金額を注ぎ込んだ超高級な魔術工房だったのだ、過去形!

 

 

 わたし:それが目の前に散らばっているのに人命救助? 馬鹿なこと言ってないでダッシュ&奪取! あ、ランサーとそのマスターは生きてるから見つからないように気配遮断はしっかりね

 第0番:……はいはい承知しました。あ、セイバー陣営の女狙撃手が隣のビルにいますがどうしますか?

わたし:ほっとけ! ケイネス先生が持ち込んだ鉱石一個の方がその女の命百万個より高いんだよ!

 

 

 まったく、なんのために衛宮切嗣を泳がせていると思ってるんだ。こうやって漁夫の利を狙うためだぞ。

 




念のための用語解説

・霊墓アルビオンとは
時計塔の地下に広がる大迷宮(ダンジョン)。地上では失われた神秘が色濃く残っており、竜種の牙や純度の高い霊石といった現代では得られない貴重な呪体が眠る。地上からは消えた幻想種が闊歩している危険地帯。

運営は学科、派閥から独立した秘骸解剖局が行っており、彼らの許可を得られなければ迷宮に入ることはかなわない。
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