石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

11 / 39
第11話 仮装

「大漁よマスター」

 

 メディア様が誇らしげにそう語る。

 

 神殿に戻ってきた統括個体と50人のアサシンたちは、全員がパンパンに膨らんだ風呂敷を背中に担いで戻ってきた。

 

『裁断』のハサンがほぼ一瞬で用意してくれた唐草模様の風呂敷である。

 

 アサシンたちと唐草模様の風呂敷の組み合わせがまあ似合うこと似合うこと。

 

「『集貨』と『集積』のが入念に探し回ったから取りこぼしはないはずよ」

「そういうメディア様が持っているその黒いその、何?」

 

 メディア様は当然のように風呂敷なんて担いでいない。魔法少女スタイルでそんなものを背負われても似合わなさ過ぎてリアクションに困っただろう。メディア様は風呂敷の代わりに、その右手に黒い球体を抱えていた。

 

 いや、黒かこれ? 

 

 黒というより闇というか、視線を向けるだけで気分が悪くなるような、あえて言うなら地下大聖杯を見ているかのような感覚。

 

「ああ、これかしら?」

 

 それをメディア様は特に気にした風でもなくこちらに掲げて見せた。

 

「あの工房で使役されていた悪霊やらなんやらがね、工房の崩壊で周囲に逃げようとしていたからまとめて使役し直してやったのよ」

 

 言われてみれば、その黒い球体からは悲鳴というか怨嗟というか、耳が腐り落ちそうな禍々しい声がかすかに漏れ聞こえてくる。

 

「確か悪霊52体を番犬代わりにしているんでしたっけ。え、それ全部その中に入ってるんですか? そんなギュっと圧縮できるものなんですか悪霊って」

 

 ロードエルメロイは、霊魂や思念体の専門家である降霊科ですらおいそれと手が出せないレベルの悪霊をそこのロードに頼んで借りてきていたはずである。それを一つにまとめて片手で扱うとかちょっと考えられない使役術のレベルだ。

 

 これもさすがメディア様と褒めたたえるべきなんだろう。ちらりと統括個体を見れば彼女は勝手知ったるとばかりに数人のホムンクルスたちと一緒にメディア様に近づいて、

 

「ぃよっ! さすがメディア様!」

「使役術すら人類史で指折り!」

「悪霊も傅く超美貌!」

 

 ホムンクルスたちがよいしょする周りでは『祭煙』のハサンが花火を上げ、『伝歌』のハサンが声での演奏(現代で言うボイスパーカッション)で盛り上げ、『奇芸』のハサンが鳩を十羽ほど舞わせていた。『祈願』と『拝礼』のハサンがメディア様に向かって由緒正しい伝統に乗っ取った祈り方でメディア様を崇め奉っている。

 

 おだてられるメディア様の横では間桐桜がその小さいお手々をぱちぱちと合わせて拍手していた。よくわかってないながらにメディア様を誉めるべきタイミングだと理解しているのだろう。

 

「ふふん、もっと褒めなさい」

 

 メディア様も満更でもなさそうでなによりだ。

 

 それはさておき戦果確認である。

 

 まず悪霊についてはメディア様がまとめて使役することになった。今後は使い魔の強化や礼装の核に利用するらしい。

 

 鉱石や宝石は一旦メディア様および『造形』『露塗』『研磨』のモノづくり四天王に預けておく。彼らの手にかかれば注文の品も数時間で完成させてくれるだろう。期限までには余裕で間に合うはずだ。

 

 残りの鉱石は自分やホムンクルスが使用する原始電池の強化に使う。原始電池の基本は金属の組み合わせだ。そこにより多くの神秘が籠った鉱石を使用できるのなら発電効率も魔力変換効率もそれだけ上昇する。原始電池の性能が上昇すればそれによって形成される電磁ネットワークの通信速度も上昇するわけで。

 

 それはすなわち演算速度の上昇だ。

 

 これによって、言峰綺礼を相手にしても不覚を取ることはなくなっただろう。もう死んでるけど。

 

 9個の原始電池を限界まで強化させてもなお余る鉱石や宝石類は、そのうち武器の作成にでも使わせてもらおう。

 

 そして。

 

 そして! 本命の魔力炉である。

 

 三基とも健在である。正確には二基が高所から落とされて半壊していたが、メディア様がその持ち前の魔術と道具作成スキルで修理したのだ。ちなみに『修補すべき全ての疵』が戻せるのは魔術による損傷だけなので、現代兵器たるC4爆薬による発破解体でできた損傷にはまるで役に立たない。メディア様は自分の実力でこれらの、めちゃくちゃに壊れた超絶高度な礼装を修理してみせたのだ。

 

 さすがメディア様。さすメディ。

 

 修理に必要な呪体や素材は間桐家やエルメロイの工房からパクってきたものが大量にあるので材料には全く困らない。元々三基で一そろいの魔力炉として稼働していたそれは、メディア様の手によってさらに出力を上げて再生されたのだった。

 

 ありがとうケイネス先生。時計塔で散々小馬鹿にしてくれやがった分はこれでチャラにしてあげるよ。

 

 そうして作り直された新・エルメロイ魔力炉を前に、メディア様は感嘆の声を漏らした。

 

「これは、とんでもない神秘が元になっているのね」

「なんでも数百年前にアルビオンから発掘された呪体を分割して作られたと聞いています」

「元々は一つの魔力の塊のような幻想を、効率的に魔力を産生する形に分割したのね。この緻密なバランス……何が作り手をここまでこだわらせたのかしら。あえて三基に分けて相互作用を起こさせることで魔力の回復量も上がる、無限と言ってもいい魔力リソース。作った魔術師は間違いなく変態か狂人ね」

 

 メディア様の口から変態と賞賛されるとは、やるじゃんエルメロイのご先祖。

 

「神代ではこういった魔力炉は作られなかったのですか?」

「必要ないもの。マナが潤沢にあり、いくらでも魔力として精製できて、人々が神と共にあった時代なのよ? 魔力を生み出す機構なんて誰も作らないわよ」

「それはそうですね」

 

 うーんジェネレーションギャップ。

 

 メディア様的には携帯電話のない時代の人間が矢文や狼煙で長距離通信をこなしているのを見て感動するみたいなものなのだろうか。

 

 考え事をしている私に、今度は統括個体が話しかけてきた。

 

「そういえば主。ホテルの残骸から弊たちと同じように火事場泥棒しようとしてた男女がいたのですが」

「え、なにそれ。その人たちはどうしたの」

「収集の邪魔だったためアサシンたちが始末しましたが、まずかったでしょうか。魔術師の二人組で、事前に伝えられていた敵陣営のマスターや関係者とは一致しない人物でした」

「……? 心当たりないなぁ。令呪持ってた?」

「いいえ。魔術刻印すらございませんでした」

 

 じゃあいいや。

 

 作中で語られない魔術師くらいいくらでもいるでしょ。

 

 聖杯戦争に参加しないくせに火事場泥棒を企む魔術師なんてのもいくらでもいそうだ。

 

 あえて言うなら同業他社。

 

「今後、目についた魔術師はライバルだから片っ端から処分していいよ」

「そうですね。敵マスターを殺した後にマスターになられても面倒ですし」

 

 うんうんと二人で頷く。

 

 さて。

 

「アサ子さん」

「こちらに」

 

 私の隣に姿を現したのは『妖美』のハサンことアサ子さん。

 

「次の方針を決めようか」

 

 第三回キャスター陣営作戦会議だ。

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 冬木ハイアットホテル爆散から一夜明け、再びの夜更けである。

 

 それはすなわち聖杯戦争が再開される時間。

 

 冬木市から30キロメートル西に存在する森林地帯。その中に聳え立つアインツベルンの支城と、それを取り囲む重厚な魔術結界。

 

 そんな暗い森の中を駆ける人影が二つ。

 

 一つは久宇舞弥。衛宮切嗣という殺人機械を構成する部品の一つ。

 

 もう一つはアイリスフィール・フォン・アインツベルン。衛宮切嗣という人間の妻の役割を担うホムンクルスにして聖杯の担い手である。

 

 二人は衛宮切嗣の指示で、拠点として利用する予定だった城から脱出しているところだ。

 

 アイリスフィールは思い出す。

 

 衛宮切嗣との会話を。彼からもたらされた恐るべき仮説を。

 

 アサシンとキャスターの敗退とマスターの保護を監督役が通達してきたことを受け、衛宮切嗣は一つの疑念を抱いたのだという。

 

 セイバーには伝えていないが、小聖杯の担い手であるアイリスフィールは敗北したサーヴァントの魂を取り込む性質を持つ。その性質からどれだけのサーヴァントが消滅したのかを知ることができる。

 

 そんなアイリスフィールは二騎のサーヴァントの敗北が知らされたにも関わらず小聖杯に回収された魂は一つもないという事実を衛宮切嗣に伝えたときに、その仮説を教えられたのだ。

 

 その仮説とは、アーチャーに敗北したと見せかけたアサシン陣営と、アサシン陣営と同じ方法で敗北を偽装したキャスター陣営の二つが遠坂陣営と同盟を組んでいるという可能性だ。

 

 さらに邪推すれば、ライダー陣営すら遠坂陣営に与している可能性も考えられるのだという。

 

 それは邪推というには否定しきれない、ある程度の確度のある情報が、時計塔に潜り込ませていたスパイからもたらされていた。

 

 それは、ライダーのマスターである少年と、キャスターのマスターと思しき少年、彼らの関係性だ。

 

 ライダーのマスターであるウェイバー・ベルベットは時計塔の中でも厳格な貴族主義に染まった降霊科ではミソッカス扱いされていたのだという。彼はまるでハリネズミのように刺々しく周囲に当たり、生徒たちを見下し、議論を吹っ掛け煙たがられ、時には人を殴りつけるような問題児なのだという。

 

 そんな彼の心に寄り添った唯一の存在が、アトラム・ガリアスタという中東出身の魔術師でありキャスターのマスターと思しき魔術師であるのだとか。

 

 刺々しい態度にめげずアトラムはウェイバーに話しかけ、それは徐々に強固に張られたウェイバーの心の壁を溶かしていき、共通の敵であるロード・エルメロイ相手に団結し、ついには二人で笑いあう関係にまでなったのだと。

 

 その様を見ていた衛宮切嗣のスパイは、報告書の最後にこんな一言を添えて送ってきたそうだ。

 

 曰く『アト×ベルてぇてぇ』と。

 

「つまり、この二人はその、同性で? え? でもそれじゃあ子供を作れないわよね?」

「他人の性的嗜好に興味はないよ、アイリ。この世にはいろんな嗜好を持つ人間がいるというだけの話さ、僕には理解できないけどね」

 

 この会話をアトラム・ガリアスタが聞いていれば、きっとこんなことを言って衛宮切嗣を煽っていただろう。

 

 や~いお前の奥さん8歳児~。

 

 閑話休題。

 

 そんな深い関係にある二人の魔術師がほぼ同時に日本に入国し、聖杯戦争に参加しているのだ。そこに同盟関係を疑わないほうが愚かというもの。

 

 すなわちこの聖杯戦争は、遠坂を中心としたアーチャー、アサシン、ライダー、キャスターの四陣営の同盟と他三陣営の闘いということになる。

 

 その可能性を考えたとき、衛宮切嗣がとった行動は城の結界を頼りにした籠城だった。

 

 アサシンとキャスターが暗躍している戦場に、歴戦の傭兵とは言えいち人間に過ぎない衛宮切嗣が出向くことはリスクが高いと彼は判断したのだ。

 

 しかし、そんな籠城拠点として防護を固めようとしていた矢先に攻めてきたのは、先日拠点を爆破してやったランサー陣営。

 

 拠点の物理的破壊という手段は『魔術師殺し』衛宮切嗣の常套手段であり、アインツベルンがその魔術師殺しを傭兵として雇い入れたことは少し調べればわかることだ。

 

 自分の自慢の工房をぶっ壊した下手人がアインツベルン陣営であると目星をつけたうえで、復讐心に駆られて襲撃してきたのだろう。

 

 衛宮切嗣は迅速に指示を出した。

 

 衛宮切嗣自身はランサーのマスターの迎撃に向かう。

 

 自身の右腕である久宇舞弥にはアイリスフィールを護衛しながら城からの脱出を指示した。森の中であればアイリスフィールは侵入者を感知できるから、森から出ることなく侵入者との遭遇を回避し続けること。

 

 アイリスフィールにはセイバーにランサーを足止めする指示を出すよう頼んだ。あくまでアイリスフィール越しにである。僕はセイバーには話しかけてませんという姿勢を崩さない。

 

 このやり取りをアトラム・ガリアスタが見ていれば、きっとこんなことを言って衛宮切嗣を煽っていただろう。

 

 や~いお前のメンタル8歳児~。

 

 そんなこんなで、アイリスフィールは森の中を久宇舞弥とともに駆けているのだった。

 

 二人とも無言である。

 

 アイリスフィールとしてはその無言の気まずさを解消したくて何か彼女に話しかけようと思うのだが、自分の夫の知らない面をよく知る彼女に対し、嫉妬にも似た感情を覚えてしまっていた。

 

 わずか8歳のホムンクルスである彼女にとってその感情は初めてのもので、その醜さに戸惑い、困惑し、一方的な苦手意識を感じていた。

 

 そんな葛藤と戦っていた時、

 

「アイリスフィール!」

 

 それは、今最も頼りにしたい存在の声だった。

 

 人間には到底出せない速度でこちらに迫る小さな人影。

 

 愛らしくも凛とした相貌。銀色の甲冑に青いドレス。なによりその存在から感じられる神秘の重厚さと存在感。

 

 先まで久宇舞弥と共にいたときに覚えていた心細さと不安がその姿を見るだけで溶けてなくなってしまった。

 

「セイバー!」

 

 アイリスフィールも彼女の呼びかけに応え、駆け寄る。

 

「ご無事ですかアイリスフィール、久宇」

「ええ。ランサーはどうしたの?」

 

 三人の距離が近づく。

 

 アイリスフィールはこの再会に感極まって、セイバーの手を握ろうと無防備に近づいた。

 

 そんなアイリスフィールのみぞおちに、セイバーの手甲に包まれた拳がめり込んだ。

 

「──え」

「マダム!」

 

 隣にいるはずの久宇舞弥の叫び声が遠くに聞こえる。

 

 ──舞弥さんもそんな顔をするのね。

 

 そんな、場違いなことを考えながら、アイリスフィールは意識を落とした。

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 わたし:首尾は? 

 第0番:抜かりなく。全く疑われませんでした。女狙撃手も無力化しました。

 わたし:じゃあそのホムンクルスだけ回収して戻ってきてね

 第0番:承知しました。狙撃手は放置でよろしいので? 

 わたし:「セイバーに襲われました」ってマスターに伝えてくれる人がいた方が面白いかなって

 第0番:うわぁ

 

 なんだようわぁって。ほんとお前そういうところあるよね。よくないよそれ。

 

 それにしても全く疑われなかったか、統括個体のアルトリアコスプレ。

 

 エルメロイ工房からパクった神秘の籠った鉱石から、メディア様と『造形』『露塗』『研磨』のハサンが出さなくていい本気を出してセイバーそっくりの甲冑を作ったのだ。

 

 加えてその下に着ている青いドレスは『黄反』のハサンが鮮やかな青色に染め上げた布地を『裁断』のハサンがカットし、『衣紋』と『縫合』のハサンが仕立て、完成させた逸品だ。

 

 ドレスや鎧のサイズは『計則』のハサンが遠目で正確に測定してくれた。そこから三面図に起こしてうんちゃらかんちゃら。服の作り方なんて門外漢すぎてよくわからないけど、メディア様とハサン達の手にかかれば、セイバーそっくりのホムンクルスをセイバーそっくりにコスプレさせるなんてわけない仕事なのである。

 

「いい仕事したわ」

 

 メディア様がうんうんと頷いている。

 

 メディア様が手をかざしている水晶玉からは、プロジェクターのようにアインツベルンの森の光景が壁に映し出されている。正面の壁にはセイバーにコスプレした統括個体の活躍が。右の壁にはセイバー(本物)とランサーの戦闘が。左の壁には衛宮切嗣とケイネス先生の闘いが映されている。

 

 なぜアインツベルンの城の中をのぞき見できるのか。それは森の結界が張られる半年前よりさらに前、日本で工作していた3番個体がビー玉サイズの中継用水晶を城のそこかしこにばら撒いておいてくれたおかげでこうして城の中をのぞき見できているのだった。

 

 統括個体のコスプレ作戦が成功したのを見て、メディア様やアサシンたちがハイタッチして喜びを分かち合っている。

 

「ええまったくですなキャスター殿」

「素晴らしい出来ですな我ながら」

 

 メディア様と今回の衣装作りに参加したアサシンたちの間によくわからない結束が生まれてる。

 

 メディア様が楽しそうで私もうれしいよ。

 

 わたし:それで、どう? 効果は感じられる? 

 

 私は小聖杯の担い手を担いで走る統括個体にネットワーク越しに話しかける。

 

 第0番:はい。素晴らしいですね。肉体の劣化があっという間に修復されました。

 

 やはりだ。

 

 うちのホムンクルスたちはアーサー王のコピーのコピーであるが、それでも彼女たちの魔力でその宝具は効果を発揮するらしい。

 

 そう。

 

 今回の作戦における最優先事項は、アインツベルン製ホムンクルスでも小聖杯でもない。

 

 彼女の中に収められている、アーサー王の鞘である。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。