石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第13話 進展

 遠坂時臣は自分の書斎で腕を組み悩んでいた。

 

 蓄音機の形をした魔導製通信機の前で、一晩中連絡がこないか待っていたのだ。そんな彼の目元には黒い隈ができている。夜空がわずかに白み始め、スズメの囀りがカーテンの隙間から響いている。

 

 綺礼から連絡が来ない。

 

 蓄音機に向かって大声で話しかけても、横から数度叩いてみても、一度分解して組み直しても、魔力源として使用している宝石を新品と取り換えても。

 

 何をしてもうんともすんとも言わないのである。

 

 初めのアサシン敗退を装う戦闘が一昨日。海浜倉庫街での戦闘が昨日の夜のことだ。

 

 その間にキャスターのマスターが敗退し教会に保護を願い出たということも通達が入っている。

 

 マスターの名前はアトラム・ガリアスタ。魔術協会に忍ばせていた自分の手のものから聞いたところによれば、彼は聖杯戦争が始まる直前にイギリスを出立したという。中東の呪術を伝える家系の次期当主、16歳。近年では魔術の鍛錬よりも、野に出た落伍者のような魔術師くずれを集め、土地の売買や油田の採掘に魔術を利用し金儲けに執着している亡者のような家だ。

 

 ある意味では、魔術を殺人に活用し小遣いを稼ぐ傭兵、衛宮切嗣よりも唾棄すべき、恥を知らない存在だ。

 

 できれば手ずから誅してやりたいと思っていたが、脱落したのであれば仕方あるまい。教会へと駆け込む様子は使い魔から見ていたが、なんとも哀れで無様だった。あれを見れただけで胸が多少はすく思いであった。教会に保護される前に他の参加者に殺害されていればよかったのだが、幸いにもというべきか、その後教会からマスターの敗退と保護についての通達が届いた。

 

 そこまではいい。

 

 しかし問題はそこからだ。

 

 キャスター敗退の通達以降、同盟関係にある言峰綺礼からの情報がこない。どれだけ通信機で呼びかけようとも連絡がつかない。

 

 海浜倉庫街の時点で既に連絡が来なくなっていた。そのため自分の使い魔を向かわせて事態を把握した。間桐邸が炎上したのも使い魔越しに知った情報である。

 

 そんな大きな事態が生じたにも関わらず綺礼からの連絡はなかったのだ。

 

 キャスターの脱落から海浜倉庫街の件の間に何かがあったのか? 思い出せばその時、アーチャーにバーサーカーへの攻撃を収めるよう令呪をもって伝えようとしたが不発に終わったのだった。

 

 ギルガメッシュの持つ宝具か何かの効果で令呪が効かなかったのかと思っていたが、それはともかく。

 

 あれ以降通達も連絡もないが、しかし海浜倉庫街に関する隠蔽工作自体はスムーズに行われていた。テレビも入れていたが過激派の都市ゲリラが起こしたテロ行為として報道されていた。言峰璃正を中心とした教会の工作員たちの動きは問題なく機能している。

 

 だからこそ意味が分からない。なぜ同盟関係にある自分への情報共有がなされていないのか。

 

 まず時臣の頭をよぎったのは裏切りの可能性だった。

 

 しかし時臣はフッと笑いすぐに首を横に振った。

 

 すぐ疑心暗鬼に陥るようなこの思考はあまりにも余裕がない。余裕を持って優雅たれ。

 

 裏切り? まさか。言峰綺礼とは3年以上の付き合いがある。師弟として付き合っていくうえで、彼ほど清廉で信仰に真摯な人間を見たことがないと思うようになっていた。その父である言峰璃正とてそうだ。父の代から友誼を交わしていた清廉な人物だ。親子ともどもその人格に疑いはない。裏切りなどありえない。

 

 では他の可能性。まさか教会が襲撃された? 他の魔術師に洗脳された? ばかな。教会を敵に回すようなことをしてなんの意味がある。それにアサシンが警備についているし、言峰親子は武の達人だ。特に息子の綺礼は元代行者。魔術師にそうそう遅れを取ることはないはずだ。できたとしても相当に時間がかかる。アサシンや言峰親子と戦闘した後に倉庫街へ向かって戦闘をこなした? ありえない。

 

 通信機の故障か? こちら側の入力には問題ないはず。先ほど何度も優雅に確認したのだ。

 

 時臣は考えうる可能性を検討しては打ち消しを繰り返し、ついには立ち上がって、決断した。

 

 教会に直接確認に向かわなければならない。

 

 まだ聖杯戦争が始まって4日目で戦略が瓦解しては、今後のアーチャーの運用に差し障る。

 

 まだどのサーヴァントについても、その全ての宝具が明らかになったわけではない。バーサーカーに至ってはギルガメッシュにとって相性の悪いスキルを保持していることが明らかになったが、逆に言えばそれ以外何もわかっていないのだ。

 

 その正体を明らかにするには、アサシンを有する言峰綺礼の協力が絶対不可欠なのである。

 

 アーチャーはいない。というより、あの英雄王にあらせられては単独行動スキルにものを言わせてずっとパスを切ったまま街中を遊びまわっている。何が楽しいのか遠坂時臣にはまったく理解できない。

 

 ともかく、いないものはしょうがない。本来であれば外出するのであれば己のサーヴァントに護衛させるのが常であるが、日中であれば闘いを仕掛けてくる者もいないだろう。唯一の懸念は衛宮切嗣の銃撃くらいか。それとて鉄すら溶かす我が魔導の敵ではない。

 

 余裕を持って優雅たれを家訓とする遠坂時臣であるが、やはり焦りもあったのだろう。理解不能であることを放置できない研究者肌であったことも災いしたのか。常であればありえない選択をしていたことに、彼自身は気づいていない。

 

 

 

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 セイバーはランサーと改めての決着を誓い合い、その後ろ姿を見送った。

 

 その後すぐさまアイリスフィールが逃げただろう先へと向かう。

 

 木々を躱しながら森を縦横に駆けるその様は獣さながらで、事前のミーティングで指示があったアイリスフィールたちの逃走予定地まで1分もかからず到着した。

 

 そこには、舞弥が倒れていた。

 

「マイヤ!」

 

 駆け寄り、即座に全身を見渡す。目立った傷や出血はない。肩を叩くようにして声をかければ、舞弥はすぐに開眼した。

 

「……せい、バー!」

 

 覚醒するや否や、舞弥は手に握っていた短機関銃を自分に覆いかぶさっていたセイバーに向けた。

 

「なっ」

 

 その目に浮かぶ殺意は本物だった。セイバーは一瞬で思考を戦闘時のそれに切り替え、舞弥の握るその現代兵器を取り上げると同時に彼女の上半身を拘束した。

 

「くっ、離せ……!」

「どうしたのです、落ち着いてくださいマイヤ!」

 

 マイヤ、と呼びかけられた彼女ははっと何かに気が付いたように体から力を抜いた。

 

「申し訳ありません、セイバー。錯乱しておりました」

「……いえ、気がつかれたのならよかった。ところでアイリスフィールは?」

「攫われました」

 

 え、とセイバーが言葉を失う。暴れる気がないとわかって拘束していた力を抜けば、舞弥は通信機を取り出し電源をつけた。

 

『舞弥、どうした』

「アイリスフィールが攫われました。生死不明。自身も気絶させられました。10分ほど前です」

 

 ちらりと腕の時計に視線を向けながら、舞弥は淡々と報告を続ける。

 

『どの陣営だ?』

「不明です。私たちの前に現れた者はセイバーと全く同じ顔と鎧を身に着けていました」

「──な⁉」

 

 セイバーは驚愕する。もちろん自分ではない。しかしそれなら覚醒直後の舞弥の行動も理解できる。あの瞬間彼女は、セイバーを本当にアイリスフィールに手を下した裏切り者と思っていたのだ。

 

『舞弥、君はランサー陣営の拠点を探れ。マスターには起源弾を直撃させたがランサーとともに撤退した。瀕死のマスターを抱えている以上霊体化や無茶なスピードを出しての逃走はできないはずだ』

「承知しました」

『僕はアイリスフィールを追う』

「待ってください切嗣、私は」

 

 ブツッ、と。

 

 セイバーの言葉の途中で通信は無常にも切られてしまった。

 

「──っ‼」

 

 ギリッ……とセイバーは歯を食いしばる。

 

 自分に疑いの目が向いたのは確実だろうマイヤからの情報に、それでもマスターは自分になんの弁解もさせようとしなかった。もちろん自分がそんなことするわけがないし、していないことは自分が一番知っている。しかしそれを自分以外の人間も把握しているかは別だろう。

 

 自分を疑っているのだろう。自分を問い詰めたいはずだろう。自分についての話なのに、なぜ本人である自分には何も話させないのか。

 

「セイバー」

「っ、はい、マイヤ」

 

 通信機を襟に戻し、セイバーに向き直る舞弥の瞳には、疑念も憎悪もなかった。ただ淡々と目の前の雑務をこなそうとするだけの無感情な瞳だった。

 

「あなたがマダムを誘拐したわけではないことは理解しています」

「……と、当然です。私は直前までランサーと戦っていました。それに理由もありません。しかし、私とそっくりな見た目だったと?」

「はい」

「それでは私が他の陣営と組んでアイリスフィールを誘拐した可能性も」

 

 舞弥は首を振ってセイバーの言葉を否定した。そのまま城に向かって走り出す。ランサーを追うにも車が必要だからだ。その背中をセイバーも追う。

 

「呼び方が違いました」

「は?」

「あなたに変装した誘拐犯です。犯人は私を『久宇』と呼んでいました。あなたは『マイヤ』と呼んでいたのに」

「はぁ」

 

 それはなんというか、はあそうですか、以上の応えを返せなかった。

 

 それを聞かされたところで、キリツグとの関係が良好になるわけではない。マスターの中にある自分への疑念は結局解消されていない。

 

 マスターから会話を拒否されている現状が、あまりにも歯がゆい。

 

 城に戻り、セイバーはアイリスフィールが愛用していたメルセデスに乗り込む。舞弥は助手席だ。

 

 守ると誓ったアイリスフィールを攫われたことと自身のマスターとの関係が悪化していること。アクセルを踏みながら、セイバーは二重の焦りに身を焦がしていた。

 

 

 

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 聞くに堪えない。

 

 衛宮切嗣は、セイバーが何かを言いかけていたことに気づきながら強引に通信を切った。

 

 そうでもしないとセイバーに怒鳴りつけてしまいそうだったからだ。苛立ちを隠すので精一杯だった。

 

 セイバーが犯人である可能性など最初から考慮すらしていない。なぜならあれは高潔で清廉な騎士様だからだ。

 

 そして、そんな高潔な騎士様の決闘ごっこの傍らでアイリスフィールが攫われたのだ。

 

 自分たちの決闘を優先して、マスターが敵魔術師を仕留めることを邪魔して、敵サーヴァントの前に晒される愚を犯した。

 

 ランサーと戯れて、マスターを危険にさらし、挙句にアイリスフィールを攫われる隙を作りだすことになるとは。

 

 切嗣は先までランサーのマスターが横たわっていた水銀の水たまりから視線を切り、城内の廊下を駆けだした。

 

 しかしどの陣営の仕業か。切嗣はトンプソンコンテンダーを懐にしまいながら思考する。アイリや舞弥が見紛うほど似ているとは……他人に化ける能力か、あるいは召喚能力か。

 

 ランサーにはセイバーと戦闘していたアリバイがある。

 

 バーサーカーは言葉も解さないほど狂化ランクが高いことから除外。

 

 ライダーはどうか。ライダークラスは宝具を複数所有する英霊が当てはまるクラスだ。しかしイスカンダルに人に化けるような逸話はあっただろうか。

 

 否、そもそもライダーのマスターにアイリスフィールを誘拐する動機はあるか。

 

 アイリスフィールをマスターと誤認しているだろうマスターがわざわざ誘拐なんて手はとらないだろう。アイリスフィールはセイバーのマスターとして振舞っていたのだ。アインツベルンのホムンクルスが聖杯の担い手であると知らない外様のマスターならその場で殺しておしまいだ。不治の傷を負ったセイバーを打倒してしまおうと考えてアイリスフィールと遭遇したのなら、その場で殺してしまえばいい。ライダーであるなら化けるまでもなくあの戦車で轢き殺せばいいだけの話だ。

 

 そうではなく連れ去った。

 

 そう、逆に言えば、このような序盤からアイリスフィールを誘拐したということは、アインツベルンが小聖杯の担い手であると知っていた御三家の可能性が高いということだ。

 

 犯人として考えられるのは、膨大な宝具を所有する遠坂陣営か、あるいは未だ姿を現していないキャスター陣営か。後者の場合は、やはりキャスター陣営の敗退はブラフで、遠坂陣営とも同盟を組んでいたということになる。

 

 そこまで考えたとき、舞弥から通信が入った。背後の音から車で移動中らしい。

 

「どうした舞弥」

『生前のセイバーの姉である魔女モルガンがセイバーと瓜二つであったとのことです』

 

 ブッ、と。それだけで通信は終わった。

 

 舞弥の言いたいことはわかる。

 

 今回召喚されたキャスターがあの魔女モルガンである可能性を示唆しているのだ。

 

 彼女ならキャスターとして召喚される可能性は十分ある。

 

 魔女モルガン。アーサーが生まれる以前は王となるべく育てられ、しかしアーサー誕生後に切り捨てられた後継者候補。故にアーサーを憎み、ブリテンの王位を狙い続け、ブリテン崩壊の引き金を引いた傾国の魔女。円卓の騎士数名の母であり、なによりクーデターの首魁であったモードレッドの母であった。魔術の腕はマーリンに並ぶと呼ばれるほどの天才であるとの記録も読んだ覚えがある。

 

 であるならば、やはり教会が通達したキャスター敗退は嘘か。

 

 キャスターのマスターが保護されている教会に、アイリはいるのか。

 

 どうする。衛宮切嗣の冷徹な殺人機械としての思考回路がうなりを上げる。

 

 今、教会にはアサシンのマスターとキャスターのマスターが保護されている。つまり2体のサーヴァントが教会を守っている可能性があり、そんな中に侵入してアイリスフィールを奪還するというのはあまりにもリスクが高い。

 

 そこで、懐に入れていた受信機が機械音を鳴らした。

 

「……っ!」

 

 それは、アイリスフィールに持たせていた発信機と対になっているものだ。もしもはぐれたり敵陣営に捕らえられることがあれば発信機を作動させ位置情報を送るように打ち合わせていたのだ。

 

 切嗣は食堂に駆け込み、冬木市の地図を広げる。

 

 送られてきた位置情報と照らし合わせ、その発信元の位置を特定する。

 

 それは、新都郊外の廃工場。

 

 教会ではない。

 

 つまりアイリを誘拐したセイバーそっくりの存在は、アイリを抱えて別の場所にいる。

 

「それはそうだ」

 

 思わず独り言ちる。仮にも中立を謳う教会が、マスターの好きにさせて女性の誘拐まで黙認は難しいだろう。教会には監督役だけではなく工作員の出入りもあるだろうし。

 

 マスターは安全な場所に籠って指示を出し、サーヴァントが外で動くという分担は基本戦略と言える。遠坂や自分たちがしているように。逆にマスターが同じ戦場に立つランサー陣営やライダー陣営が異常なのだ。

 

 そしてアサシンのマスターや、おそらくキャスターのマスターもそうしている可能性が高い。敗退を偽装し、魔術師が手を出しにくい教会に籠城して。

 

 ビーッと、再び通信機が鳴る。もちろん舞弥からの通信だ。

 

『以前教会に張らせていた使い魔からです。遠坂時臣が教会に現れました』

 

 チャンスだ。切嗣は直感した。

 

 本来は御三家が籠城したときに使用するつもりだったアレで、籠っているだろうアサシンとキャスターのマスターに加えて、遠坂のマスターもまとめて殺せる可能性がある。

 

「舞弥、郊外に停めていたあれを使う」

 

『あれ』だけで舞弥はそれが何を指しているのかを理解したようだった。

 

『わかりました、教会の結界の外まで移動させます』

「設置したらアイリの確保に向かってほしい。発信機からの情報が来た。場所は新都郊外の廃工場だ、僕もそちらに向かう」

『了解しました』

 

 衛宮切嗣が言う『あれ』とは、もちろん遠隔操作できるように改造した着火装置付きのタンクローリーのことである。

 

 

 

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 一方そのころ、柳洞寺では。

 

「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」

 

 アサシンたちが激熱のじゃんけん大会を開いていた。

 

 それを眺めながら英雄王は爆笑していた。

 




メタ的な解説
タンクローリーやアイリスフィールに発信機を持たせていたというのは作中にも出てくる公式設定です。
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