石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第14話 邪拳

 じゃんけん大会のきっかけとなったのは、アーチャーの問いかけだった。

 

「貴様らは聖杯に何を望む?」

 

 ちなみにライダーとウェイバー君は帰宅してしまった。

 

 アーチャーとの問答がひと段落付き、あとはお互い剣を交えるだけであると結論が出たことと。あとウェイバー君がおねむになってしまったこともある。

 

 葡萄酒を飲みながら突っ伏していびきをかき始めたウェイバーくんを俵抱きにして、柳洞寺の門前に停めていた戦車でゴロゴロとけたたましく帰って行った。

 

 よかった。あれで神殿内を蹂躙されてたらウェイバー君ごと殺さないといけないところだった。彼にはまだまだ役に立ってもらう予定なんだから。

 

 それはそれとして、アーチャーからの問いかけである。

 

 この場には私とメディア様、そして今後の戦略について話し合っていたアサ子さんがいた。

 三人そろってアーチャーに向かって膝を突く。

 

「特にはございません。私は、アインツベルンが製作し冬木に持ち込む小聖杯さえ手に入ればそれで構わないので」

「私も、勝者の元に降臨すると言われる聖杯とやらに興味はございません。私の願いは、先ほどのライダーと同じく受肉でございます故、アインツベルンが聖杯戦争の都度製作する小聖杯で十分でございます」

 

 私とメディア様は淀みなく答えた。遠坂時臣が宝物と言った代物には興味ないですよ、そんなものは王の蔵に仕舞っちゃってかまいませんよ、というところをできる限りアピールする回答を選んだつもりだ。

 

 他方、アサ子さんである。そう言えば物づくりやら神殿作りやらで忙しくしていてちゃんと聞いてなかった。

 

「我らの願いは、人格の完璧な統合です。統合させたうえで受肉し、メディア殿とマスター殿に仕えたく思っております」

 

 アサ子さんはそう言った。

 

 統合? 受肉についてはなんとなくメディア様とそう話しているのを聞いていたけど。

 

 私は首を傾げて聞いてみた。

 

「老若男女様々な人格が百近くもいるのに、それを統合? 具体的にどうなるの?」

「さぁ。わかりかねます。だからこそ奇跡に縋るしかないと」

 

 そこにメディア様が口を挟んだ。

 

「ここの願望器はその魔力で以て理論や過程を省略するだけで、その過程だとか、どうありたいかをわかっていないと機能しないわよ?」

「え?」

 

 マスクをしているし、表情を変えないのがデフォなアサシンのアサ子さんが、呆気にとられたような声をあげた。

 

「暗殺者として生きてきたあなたが人格の統合を願うなら、一つを除いたそれ以外の全ての人格が抹消されるのではないかしら」

 

 アーチャーはただ眺めている。苦悩と絶望の表情が最高の肴だとでも言わんばかりに葡萄酒を呷っている。

 

「サーヴァントとして分身できるということは、あなたの多重人格は魂を分割させることで別の人格を作っていたということ。その魂を混ぜ合わせて一つの魂となったとしても自我は崩壊することになるわ」

「元は一つの魂だったとしても?」

「同じ魂だったとしても、別の霊基として成立し、別の人格を獲得している。一つ二つなら大丈夫かもしれないけれど、百近い人格が混ざれば意識を保つこともできないわね」

 

 なんか似たようなことした魔術師いたなぁ。この間話題に出たヴラド三世がそうだったはず。合体した結果魔術師の執念しか残っていない怪物になってた。

 

 人格を統合させたいという願いを持った百人が融合したら、人格を融合させたい以外のことを考えられない人格になるんじゃないかな。

 

 なにそれちょっと面白い。いいよいいよ、メディア様面白そうだから統合させちゃおうよ。

 

 そんなことを一人で考えながら心の中だけで笑っていると、ちょうど統括個体が神殿に帰ってきた。

 

「ただいま戻りました……どうかされましたか?」

 

 その肩には真っ白な長髪の女を抱えている。

 

 アインツベルンのホムンクルスだ。

 

「ほう?」

 

 帰ってきた統括個体の姿に、ギルガメッシュが声をあげた。

 

「よく化けたものよ。籠る神秘も、魔力量もセイバーと瓜二つではないか」

「は、はあ」

 

 

 

 第0番:主、なんかアーチャーがめっちゃジロジロ見てくるんですけどなんですかこれ。

 わたし:さあ? ロリコンなんじゃないの。君らに興奮するってことはきっと特殊な性癖の持ち主なんだよ王様なんだし拗れてそうじゃない? 

 第3番:は? 

 第6番:誰がロリですか張り倒しますよ

 第7番:メディア様の方がロリです訂正してください

 medeia:私が幼女体型なのはあなたたちのせいなのだけれど

 AUO:誰がロリコンか死にたいのか雑種

 

 

 

 うっそだろ、お前もネットワークに入れるのかよ。

 

 跪いたままアーチャーへと視線を上げれば、この金ぴかは変わらず葡萄酒を飲んでいる。

 

 

 

 AUO:まあよい。この神殿のデキの良さに免じてひと時の生存は許そう。今貴様を殺せば婚活魔法少女の現界に支障を来す故な。婚活魔法少女を召喚した己の幸運に感謝せよ。

 

 私の頭にねっとりとした殺意を流し込みながら、アーチャーは笑みに歪んだ視線を私に向けた。

 

 ああそうかい。

 

 私を殺そうっていうんだろう? メディア様を現界させる目途が付けば私を処分して、この神殿もホムンクルスもいただこうって腹なわけだ。

 

 ビリビリと神殿全体が震えるかのような錯覚を覚える。

 

 サーヴァントに敵意を向けられる。それは絶望と等価だ。

 

 だがそんなこと、聖杯戦争に参加しようと決意した時から覚悟してたさ。こうして籠城決め込んだまま他のサーヴァントが全滅してくれるなんて、そんな都合のいいことなんて、その、ちょっとしか思ってなかったし。

 

 同盟を組めるかもとか、バーサーカーあたりが相性勝ちでアーチャーを殺してくれるかもなんて儚い期待はもう忘れよう。

 

 私たちは、最後に勝ち残ってくるだろうアーチャーを、私たちの手で殺す。

 

 決意を新たにしてアーチャーの目を見返すと、当の本人はさっさと視線を私から切って、また杯を呷っていた。

 

「あ、あの主」

 

 私とアーチャーの間の空気を敏感に感じた統括個体が気を遣って話しかけてきた。

 

「聖杯の担い手を連れてきましたので、中身をですね」

「あ、そうだね。メディア様」

「……ええ。すぐ済むわ」

 

 メディア様が抱えられているアイリスフィールに手を翳すと、まず出てきたのは聖剣の鞘。

 

 次いで取り出されたのは、黄金の杯。サーヴァントの魂を収め、使いようによっては根源への穴を開けることもできるという超大容量の魔力タンクだ。

 

「それとこちらです。電気魔術で全身精査したところ出てきました」

 

 統括個体がポケットから取り出したのは、手のひらサイズの黒い直方体だった。アンテナが上部に収納されており、赤いスイッチもついている。

 

 解析の魔術で中の配線を精査すると、どうやら発信機のようだ。

 

 私は電気系統の魔術を専門的に修めているためか、電子機器の解析が他の魔術師よりも高い精度で行うことができる。

 

「このボタンを押せば現在位置が受信機に送信されるんだね」

「どう致します、破壊しますか?」

「んー……アサ子さん、ランサー陣営の新しい拠点はわかってる?」

「え、あ、もちろんです。ホテルが倒壊した時から常に監視を付けております」

 

 それならやることは一つだ。

 

「メディア様と物作りの得意なアサシンでこのホムンクルスを加工して、ランサー陣営の拠点にこっそり置いておこう。そこで発信機を作動させてセイバー陣営をランサー陣営の拠点におびき出す。ランサー陣営の拠点ってどこだっけ?」

「新都郊外の廃工場です。マスターの手で隠蔽の魔術がかけられておりますが、なんの触媒もない状態でかけられた魔術ですから、我らにはなんの障害にもなりません」

「じゃあ、さっそく取り掛かるわ。昔取った杵柄よ」

 

 メディア様はそれだけ告げてさっさと行ってしまった。どこかしら足取りが軽くうきうきしているように見える。

 

 やっぱりものを作るのが好きなんだな。

 

「マスター殿」

 

 メディア様を見送ったと思ったら、アサ子さんが深刻そうな雰囲気で話しかけてきた。

 

「どうしたの? 聖杯への願いだったら私の分があるからアサシンたちの願いも叶えられるよ。メンタルをキメラにするんでしょ」

「違いますが」

 

 あれ? 違ったっけ? 

 

「そうではなく……願いを変更するにあたり、ホムンクルスたちから話を聞きたいと思いまして。その許可をいただきたく」

「ホムンクルスと? まあ別にいいけど。というか願いを変更するの?」

 

 人格の統合じゃないの? 

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 それからぼそぼそと、アサ子さんや他数人のアサシンが統括個体に積極的に質問している様子が神殿のすみっこで見られた。

 

 時間にして三十分ほどだろうか、統括個体の話に満足したのだろう、いつもキャスター陣営会議をしている会議室に、ほとんどのアサシンたちが集合した。

 

 扇状に広がった、コンサートホールの座席のようなテーブルとイス。その中心にステージと教卓が配置されている。そこに立つのはアサシンの中心的存在であるアサ子さんだ。

 

「第一回アサシン会議~」

 

 アサ子さんの開始の音頭に合わせてまばらに拍手が鳴る。

 

 ちなみに私とメディア様、その膝の上に桜が座っている。その奥隣にはホムンクルスたちがいて、なぜかアーチャーも一緒になって、会議場の壁際に用意されている貴賓席に並んで座っていた。

 

 いやアーチャーは本当になんでまだいるんだ。帰れや。

 

「今回の議題は、『願いの内容について』」

 

 その後、アサ子さんから説明がなされた。

 

 キャスターのマスターは聖杯に託す願いがないこと。キャスターとアサシンで願いを叶えることができること。ただ自分たちの願いは冬木の願望器では叶えられないこと。

 

「ですので、我々は願いを修正しなければなりません。その参考として、マスター殿のホムンクルスにお話を聞かせていただきました」

 

 ホムンクルスたちもある一つの存在から増やされたクローンのようなものであること。

 

 同一の霊基と魔術回路を持っていることから、電気魔術によるネットワークで常に思考、五感、情報が繋がり共有されていること。

 

 その上でホムンクルスたちは自我が混濁したり希薄化したりせず、各個体のアイデンティティが維持されていること。

 

「つまり統括個体と呼ばれるネットワークを管理する個体がいることで従来の分散メモリ型のコンピュータシステムとは異なりストリームプロセッサエレメントを並列につなげることによる超並列処理が」

「アサ子さんわからんわからん」

 

 会議場のアサシンたち全員置いてけぼりじゃんか。

 

 隣に座っているメディア様も子供らしく飽きがきたようで、膝の桜と一緒になって目線の高さに浮いている銀色の球体をぷにぷにつついている。

 

 ……。

 

「メディア様、それなんですか?」

「先ほどセイバー陣営を監視していたアサシンが回収してきた、ランサーのマスターが戦闘に使用していた礼装よ」

 

 説明しながらも二人の幼女はぷにぷにをやめない。なんだ、可愛いな。

 

「楽しいですか?」

「素晴らしいわ」

「柔らかさが? 確かにすごく柔らかそうですね」

「そういう話じゃないわよ。この礼装、とんでもない技術の塊よ」

 

 言いながらメディア様は突いていた指を指揮者のように軽く振るう。すると銀色の球体から三本の触手が伸び、絡まり、一本の太い枝となって、さらに鋭さを増し、一本の剣となって床に突き立った。桜がビクっとなった。

 

 あ、これあれじゃん。ケイネス先生の一番いい礼装じゃん。

 

「こうやって武器の形にしたり、込める魔力によって硬さも変えられる……というのは表面上の話で、この礼装の本質は演算機能よ。魔術を行使するうえでもこれで補助させることができるし、直接魔術回路の補助をさせることで魔力運用効率が5割は上がるわね。それにこの礼装は、サーヴァントにも有効なレベルで神秘を備えているわ」

「えっと、メディア様?」

「魔力炉を見たときも思ったけれど、これはそれ以上だわ。これを作った魔術師は変態……なにかしら、マスター」

「いえ」

 

 どうしよう。この礼装は将来ウェイバーの飼い主になる金髪邪悪ロリが使うようになるはずだ。今それをここで回収しちゃうと彼女がトラブルに巻き込まれたときにピンチになるかもしれなくて……。

 

んー、まぁいっか。

 

なんとかなるでしょ。というかなんとかするでしょウェイバー君が。私知らね。

 

「……なんでもないです。あ、アサシンたちが方針を決めたみたいですよ」

「とにかく、我々の中から一つの中心となるハサン人格を決めて、そいつが全人格を繋ぐネットワークを管理するんです! 人格が情報を共有するネットワークを用意して、入場と離脱を自分で決められるようにすれば静寂でありたい時と情報共有しなければならない時とで使い分けができるし人格の混濁も防げるわけです。そして受肉した折には、完全な静寂の中で睡眠をとることができるわけです!」

 

 アサ子さんが結論を述べると、長身痩躯のハサン、『舌鋒』のハサンが立ち上がった。

 

「ではその中心となる人格は誰にするべきだと考えているのかね? 受肉した際には肉体はその中心となる者の肉体になるわけだろう? 何か具体的な決め方の案でもあるのかね?」

 

 問われ、アサ子さんは大きく頷いた。

 

 頷き、右の拳を顔の高さに上げて宣言した。

 

「拳で決めましょう」

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 拳とはじゃんけんのことだった。

 

 各陣営を監視しているアサシンを一時的にホムンクルスと交代させ、本当に全てのアサシンを集めてのじゃんけん大会となった。

 

 初めにアーチャーに殺害された『基底』のハサンの分が減り、代わりに聖杯戦争中に増えた二つ名のない人格7体が追加され。ハサン総勢九十四体のハサンである。

 

 トーナメント表を作り、くじを引かせて順に名前を埋めていく。二つ名のないハサンは番号が振られた。

 

 白熱するじゃんけんがそこかしこで行われる。勝者は会心の雄たけびをあげ、敗者はその場に頽れる。勝利と敗北。悲喜こもごもの光景が眼前で繰り返される。

 

 自分がハサンとして自立した人格となるか否かの勝負なのだ、そりゃ力も入る。

 

 そんな希望と絶望が入り乱れる光景を見ながら、席の端っこに座っていたアーチャーはげらげら笑っている。

 

 あっという間に駒が進み、ものの20分で決勝となった。

 

 残ったのはアサシンズの紅一点、アサ子さんこと『妖美』のハサンと。

 

 アサシンズ最年少、ショタハサンこと『説諭』のハサンの二人であった。

 

 その二人がステージに上がろうと階段に足をかけた。

 

 その時。

 

「あ」

 

 と、メディア様が声をあげた。

 

「どうしました?」

「教会の監督役に掛けていた暗示の罠に引っかかった人間がいるわ」

「罠?」

「監督役に対してキーワードを言ったり決まった質問したりすると起動する罠よ。その質問してきた相手を殺そうとするの……あら」

 

 え、そんな罠を仕掛けていたのか。

 

 メディア様は意外そうな声でつぶやいた。

 

「今監督役の視界を覗いてみたのだけど、相手は遠坂時臣よ」

 

 ちら、と私とメディア様、そして桜の視線が奥に座っているアーチャーに集まった。

 

 ついに始まったアサシンじゃんけん大会の決勝戦をアーチャーはにやにやしながら眺めている。あいこになるたびに仕切り直し、おおおと観客席のアサシンたちからため息が漏れる。すでに9回目のあいこだった。

 

 自身のマスターの様子なんて全く気にしていない。

 

「今どうなってます?」

「監督役はなにかの武術の使い手なのかしら、すごい動きで遠坂時臣を追い詰めているわね。そこを炎の鞭を形成する魔術で拘束したけれど、あっ」

「なんですか、早く教えてくださいよ」

 

 メディア様は私のせかす声に戸惑いの表情で、

 

「えっと、大きい自動車……タンクローリーかしら? それが教会に突っ込んできて、爆発したわ。その直前で遠坂時臣が令呪を使って、あ」

 

 見れば、アーチャーが座っていたはずの席からあの金ぴかの姿が消えていた。

 

 26回あいこが続き、27回目でようやく決着がついた。アサ子さんが両膝をつき両拳を天に突き上げて歓喜の咆哮を上げている。『説諭』のショタハサンは四つん這いになってうなだれていた。なんともわかりやすい勝者と敗者だった。アサシンたちの誰もが両者の健闘を称え、『妖美』のハサンの勝利を祝福している。

 

 なお、メディア様曰く。

 

 元は一つの人格だったのだから、このじゃんけんは自分の右手と左手でじゃんけんするようなものなのだという。

 

 そのうえで勝敗が付くのは、無意識のうちにどちらの肉体になりたいかを本能的に決めているからだとか。

 

「え、じゃあ最後に女性の『妖美』とショタの『説諭』が残ったのって」

「その二つで最後まで悩んでいたってことなのでしょうね。ずいぶんあいこが連続していたみたいだし」

 

 アサシンたちを見れば、負けてしまったハサンたちが『妖美』のハサンを抱え上げて胴上げしている。全員がとても楽しそうだ。

 

 ふーん。

 

 なるほどね。

 




メタ的な解説
Fate/stay nightのデッドエンドの一つに、一成に向かってキャスターについて質問すると一成にかけられていたキャスターの暗示が発動して士郎が殺されるというものがあります。今回メディアが璃正に仕掛けた罠はそれです。
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