石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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原作沿いな展開です


第15話 契約

 このタンクローリーは、通常のガソリンの代わりに粗製ガソリンに増粘剤を加えた、いわゆるナパームが詰め込まれた自動追尾型特大焼夷弾である。

 

 舞弥は指定の位置にタンクローリーを停めたら、黒いワンボックスカーで舞弥の後ろを追ってきていたセイバーと合流し、自身は助手席に乗り込んだ。

 

「新都郊外の廃工場に向かってください。地図のここです」

「わかりました」

 

 ダッシュボードの上に広げた地図には、赤いペンで太く丸いマーキングがされている。それを一瞥するだけで道を把握したのだろう、セイバーは発進後すぐに車を左折させた。

 

「ところでマイヤ、それはなんですか?」

「ラジコンカーのリモートコントローラーです」

 

 あのタンクローリーだって電波で動かせるのだから広義ではラジコンカーに含まれるだろう、多分。

 

 舞弥が手に持つコントローラーは、形としてはごついハンドガンやドリルに似ている。グリップに引き金が付いており、銃身部分にはタイヤを模した部品が付いている。

 

 タンクローリーの運転席に乗せた蝙蝠の使い魔と視界を共有する。運転する場合と変わらない視野を確保し、リモコンの引き金をゆっくり引いていくことで徐々に加速させていく。石畳の道の凹凸や歪みで標的からずれる車体の向きを都度修正しながら、タンクローリーをまっすぐ丘の上の教会に進めていく。

 

 教会の窓際まで近づくことに成功した使い魔の視界に一瞬乗る。教会の中では先ほど教会を訪れた遠坂時臣がいて、もう一人。教会の主であり聖杯戦争の監督役である神父の姿があり、なぜかその二人は殺し合いを演じていた。

 

 どういうことだろうか。わからないが見たままの情報を切嗣にも伝えつつ、さらにタンクローリーを加速させ、ついにその扉を打ち壊して教会の中へと突っ込んだ。

 

 なんの妨害もなかったことに舞弥は首をひねる。

 

 キャスターがいないのはともかく、アサシンもいないのだろうか。

 

 まあ、不可侵領域の教会を警護させるより間諜として働かせておくべきと判断したのだろう。

 

 疑問を流して、舞弥はリモコンの上部に増設した着火装置のスイッチを、容赦なく入れた。

 

 使い魔の蝙蝠の目の前で、教会が内側から膨らみ、はじけるように爆散した。

 

 ステンドグラスが砕け、火がついた木片があたりにばら撒かれ、建物の頂上に取り付けられていた十字架がロケットのように垂直に打ちあがった。

 

 爆発の衝撃が撒き散らされ教会と周囲の木々や芝生を焼き尽くす。

 

 成果を確認するため、舞弥はコントローラーを置いて使い魔の制御に力を入れる。

 

 炎の中に誰がいるか、焼けた死体は誰のものかを確認するためだ。

 

 ところで教会を焼くナパームの炎は、含まれる増粘剤のために非常に消えにくい。親油性があることで木材や人体に付着すると浸透し落ちづらく、1000℃前後の高温で広範囲を焼き尽くす。この燃焼によって大量の酸素が使用されるため、着弾点付近はもちろん離れていても酸欠や一酸化炭素中毒で死亡することがある。

 

 その中心に人影があった。

 

 蝙蝠越しにそれを見た舞弥は驚きに目を見開いた。

 

 人影を避けるようにナパームの炎が広がっていく。その人影が放つあまりの王気と怒気が実際の風となって周囲を空間ごと威圧しているためだ。

 

 その人影は、炎に囲まれていてもまばゆいほどに黄金だった。

 

 時臣の令呪で召喚されたサーヴァント、ギルガメッシュである。

 

 舞弥が驚愕したのはそこにいきなりサーヴァントが現れたことではない。

 

 その王は、サーヴァントの身でありながら、自身のマスターである遠坂時臣の喉首を掴み持ち上げていたからだ。

 

「王たる我の遊興を邪魔した不忠、はたしてどれほどの義があってのことかと思ったが」

 

 ギルガメッシュはだらりと四肢をぶら下げた遠坂時臣を、ゴミを投げ捨てるように放り投げた。

 

「我の寛容さを見誤ったな。よもや我を煤避けにしようとは、不敬が過ぎるぞ時臣」

 

 アーチャーは、マスターの命を守る盾となるために令呪で呼ばれたはずである。しかしこのサーヴァントは、自分に向かって飛んでくるタンクローリーの部品や教会だった木材の欠片で自身が汚れることを厭って、あろうことか自身のマスターを盾にしたのだ。

 

 盾にされた遠坂時臣は、その背中に教会の椅子を補強する鉄製の部品が突き刺さっていた。それは肋骨を貫いて時臣の心臓を破っていた。

 

 即死だったはずである。

 

 1000℃の炎が自身の背中や後頭部に染み込んでいく激痛も、炎の熱風が自身の喉を焼く悲鳴を上げることもなく死ねたのだ。

 

 それは、曲がりなりにも現界のために魔力を貢ぎ続けた臣下に与えた、英雄王の慈悲だったのかもしれない。

 

 舞弥は通信機に向かって話しかける。

 

「現在、遠坂時臣の死亡を確認しました。引き続き監視をします」

『了解した。こちらは廃工場に到着している。ここを拠点にしているのはランサー陣営のようだ。セイバーを先行させて、舞弥はこちらの補助を頼む』

「了解。セイバー、聞こえていましたか」

「はい。アイリスフィールを救出するためにも、この左腕を取り戻すためにも、ここでランサーと決着をつけることができるのは都合がいい」

 

 セイバーは車を停車させ、飛び降りるように外に出た。地面に着地した時点で既に体にその銀の鎧を身にまとっていた。

 

「マイヤ、私は先に向かいます」

 

 そう告げて、セイバーは風のような速度で道路を駆けて行った。その背を見送り、マイヤは後部座席に積んである銃器類の最終確認を始めた。

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 セイバーとランサーが廃工場前にある元駐車場で戦闘を開始した様子が音を聞くだけで伝わる。もちろん自分の魔術回路から引き出される魔力量の増大もそれを裏付けている。連なる金属音、砕かれるアスファルトの爆散する音。

 

 そうしてランサーがセイバーとの闘いに夢中になっているであろう間に、切嗣は廃工場に侵入を開始した。

 

 その廃工場は屋根すら風化しかけており、見上げれば夜空も覗いている。壁も窓も欠落が多く、閉じた空間と言える場所が全くと言っていいほど存在しない。魔術師の工房として活用するのは難しいだろう。実際建物に掛けられている魔術も隠蔽のものだけで、侵入者に対するカウンターは全く備わっていなかった。

 

 だから切嗣は難なく侵入に成功し、ランサーのマスターとその婚約者の姿をすぐ見つけることができた。

 

 ランサーのマスターは起源弾の影響だろう、体を全く動かせない様子だった。ストレッチャーに乗せられた彼の体を車椅子に移乗させようと赤い髪の女が四苦八苦している。

 

 ろくに周囲を見ることもできない体となった男と、ろくに周囲を警戒することも知らない女。そこを強襲することは切嗣にとっては容易だった。ソラウを足払いで転がし、無防備に起き上がろうとするその後頭部に切嗣は銃を突きつけ、全く感情を感じさせない声でケイネスに尋ねる。

 

「アイリスフィールはどこだ」

「は、な、なぜ貴様がここにいる⁉ それにソラウに貴様何を」

 

 言葉の途中で切嗣はソラウの後頭部をコンテンダーのグリップで殴りつけ気絶させた。

 

「アイリスフィールはどこだ」

 

 全く同じ口調で質問を繰り返す切嗣に、ケイネスは慌てて、

 

「し、知らない! あのアインツベルンのホムンクルスのことだろう⁉ なぜそんなことを私に聞く? 悪いが心当たりがない! だから、頼む! ソラウに銃を向けるのは」

 

 取引でもないただの懇願など、切嗣の心にはなにも響かない。

 

 切嗣は音を出さないように、懐からナイフを取り出し、ボロボロの床に横たわるソラウの横にかがみこんで慣れた手つきでその右手の小指を切り落とした。

 

 切嗣はケイネスに今切り取ったものがなんなのか理解できるまで目の前で見せつけ、ケイネスが激高しようと開いた口にその指を突っ込んで黙らせた。

 

「大きな声を出すな。もう一度聞くぞ。答えなかったら次は眼球を切り抜いてお前の口にいれる」

 

 ケイネスは神経が壊れかけた不自由な身体を死ぬ気で動かして口内の指を吐き出した。

 

「知らない……本当に知らないんだ……だから」

 

 これは、本当に知らないのか。切嗣はそう判断した。

 

 どういうことだ? そもそもなぜここにランサー陣営がいる? 

 

 確かに、アイリを拉致するような時間はランサー陣営にはなかった。

 

 ここにアイリがいないのだとすれば、何者かがここに忍び込み、アイリの発信機のみを置いてスイッチを入れたということになる。

 

 なんのために? こうしてセイバーとランサーを戦わせ自分たち以外の陣営を消耗させるため。

 

 どの陣営が? 決まっている。セイバーの姿を模し、小聖杯を強奪し、ランサーとセイバーを引き合わせ戦わせる戦略。策謀の深さとその内容。

 

 これは全て魔女モルガンの仕業なのか。

 

 自分たちも、ランサー陣営も嵌められたのだ。魔女モルガンに。

 

 ならばこいつらに用はない。ここからアイリについて情報を得られることはないのだから。切嗣は見切りをつけた。

 

「ランサーを自害させろ。そうすればお前の婚約者は解放する」

「……確証がないではないか」

 

 ケイネスは涙と鼻水を流しながらもそう告げた。

 

「確証、ね」

 

 ケイネスに気づかれないよう、切嗣は通信機のマイクをオンにする。通話相手はもちろん舞弥だ。

 

「ならばセルフギアス・スクロールを使う。それなら文句ないだろう」

「なんだと?」

 

 ケイネスが驚きの声をあげるがそれも当然だろう。

 

 これは自身の魔術刻印を通じて魂を永久に拘束する強力な呪いを宣誓者にもたらす。そのため本来はその場その場で気軽に用意できるようなものではない。専門の呪具を用いることでスクロールに術式を刻まなければ呪いとして成就せず、だからこそ交渉において重大な役割を担う。

 

 敵マスターに対し有効な人質を確保できた場合にいつでも使えるようにと、殺害対象の名前部分を空白状態にしたスクロールを切嗣は事前に6枚用意していた。

 

 

『束縛術式:対象 衛宮切嗣

 衛宮の刻印が命ず

 下記条件の成就を前提とし誓約は戒律となりて例外なく対象を縛るもの也』

 

 :誓約:

『衛宮家五代目継承者 矩賢の息子たる切嗣に対し、__________を対象とした殺害・傷害の意図および行為を永久に禁則とする』

 

 :条件:

『残る令呪全てを費やして己のサーヴァントを自害させること』

 

 

 この空白欄に自身の血を用い、魔力を含ませながら『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト並びにソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの両人』と記入する。

 

 これでスクロールに刻まれている術式に魔力が通り、セルフギアス・スクロールとしての術式が起動した。

 

 それをランサーのマスターに見せる。

 

 驚愕に目を見開いている。葛藤しているようだが、どれだけ考えようと答えは変わらない。

 この男が令呪でランサーを自害させたら、舞弥が狙撃しやすいように屋外に連れ出す。それで終わりだ。

 

 切嗣は過呼吸にまでなって苦渋の決断を下そうとしているケイネスを、冷え切ったまなざしで見下ろしていた。

 

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