石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第17話 三巴

 一方その頃、所用があると残してネットワークを抜けたアーチャーである。

 

 彼はお気に入りになった黒のジャージを着て照明の照らす街中を歩いていた。

 

 その足取りに迷いはない。いつもの物見遊山な視線の動きもなく、ただ一点を見据えて進んでいく。最近入り浸っていたゲームセンターを素通りし、昨日スポーツカーを貢がせたカーディーラー店を見向きもせず。街並みは住宅街の様相を呈してきた。

 

 アーチャーの足が、止まった。

 

 見上げる先は、特段変わりのない平凡な中流家庭の民家である。

 

 当然、時間が時間なこともあって寝静まっている。窓からは漏れだすような明かりもなく、物音ひとつしない。夜の空気は戦争の雰囲気を纏ってどこか重く、街灯がチラつく音すらどこまでも遠くに響くように耳に残る。

 

 それなのに、その静寂を切り裂くように、アーチャーはインターホンを押しやがった。

 

 ピンポーン、と夜の雰囲気に似つかわしくない無様な音が響く。

 

 反応はない。当然である。住民は寝ているのだから。時間を考えれば翌朝以降に出直すべきである。

 

 アーチャーは再びインターホンを押した。

 

 空気を読むとか、夜に他人の家を訪問するなとか、そういった配慮などこの男には期待するだけ無駄である。

 

 ついに連打しだした。

 

 折角寝ていたのに、連なる音のうるささに起こされてキレたウェイバーが部屋の窓を開けて怒鳴った。

 

「うるさいな何時だと思ってるんだぁーチャー⁉」

 

 二階の窓から玄関を見下ろした青い水玉柄のパジャマを着たウェイバーは、そこに立つ金ぴかな髪を見て悲鳴のように叫んだ。まるでコンビニにでも行こうかというような黒ジャージ姿でも、その佇まいと振りまかれる王気のせいでウェイバーは自分を起こした下手人の正体に一目で気づいた。

 

「何事だ坊主? 夜中にあまり騒ぐでない……おいおい、アーチャーではないか。どうしたこんな時間に」

 

 ウェイバーの頭を跨ぐように顔を出したのは、筋骨隆々な胸元に世界地図が描かれたシャツを着た、赤い髪の巨漢の持ち主、ライダーだ。

 

「うむ。業腹ながら、我のマスターが他の魔術師の奸計でくたばりおってな」

「じゃ、じゃあなんでまだ現界して、あっそうか単独行動スキルか」

「うむ。雑種にしては賢しいではないか。アーチャーである我には単独行動スキルがある故、あと五日ほどは現界を維持できよう」

 

 しかしな、とアーチャーは首を振った。

 

「それは魔力の消費を抑えていればの話。戦闘については一度か二度が限度であろう」

「それで余たちの拠点まで来たと?」

「当然よ。貴様は我が手ずから殺すと告げておいたであろう?」

「ふむ……」

 

 ライダーは顎を撫でながら思案する。

 

「マスターがおらず消耗しとると言うのなら別のマスターを用立てればよいのではないか? それくらいなら待ってやるが」

「いるではないか。今、我の目の前に、これからサーヴァントを失おうとしているマスターが」

 

 そう告げるアーチャーの視線は、ピタリとウェイバーに合わせられていた。

 

「わざわざ在野の魔術師を探すのも面倒だ。手間はなるべく省くべきだろう? 貴様を殺し、マスターを手に入れる。ほら合理的ではないか」

「愉快な挑発だがのう、貴様を嵌めたという陣営と先に決着をつけるべきではないか? 征服王たる余は勝利を盗み取るような真似はせん、とつい先日余は決め顔で宣ったばかりなのだが」

「それは無理な相談だな。マスターを殺した傭兵めはあの愉快なキャスターどもに型に嵌められている頃合いよ」

「ほほう?」

 

 アーチャーはポケットから右手を出して、三本の指を立てた。

 

「すでに残っている陣営は我、貴様ら、そしてキャスターどもの三つのみよ」

「え⁉ ケイネス先生は?」

「そして我はあの神殿を殊の外気に入っていてな。あの聖域の価値を真に理解しているのは我のみ。であるならば、貴様に略奪される前に貴様を始末しておかねばなるまい」

 

 アーチャーはウェイバーの疑問を完全に無視した。

 

「なるほど。既に余と貴様が戦わない理由を探す方が難しいではないか」

「然り。それとも、我が魔力切れで消滅するまで待つか? 征服王」

「ふふん、いいだろう。その挑発に乗ろうぞアーチャーよ。しばし待て。河岸を変えるぞ」

 

 言いながらライダーは窓から頭をひっこめた。

 

 ちなみに、アーチャーと会話している間、ライダーはゲーム特典のシャツを着ていただけで下半身には何も履いていなかった。股間をぼろんぼろんさせていた。ウェイバーはつい今の今まで自分の頭のすぐ後ろでそれがぼろんぼろんしていたことを知って、なんなら自分の長めの髪にちりちりかすっていたことに気が付いて、まるで褥で花を散らす乙女のような悲鳴を上げた。

 

 マッケンジー夫妻は最後まで起きなかった。

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 わたし:第4回キャスター陣営会議~

 第0番:いえーい

 medeia:今回は神殿全体に電気的・魔術的障壁をしっかり張っておいたから、私たちとパスを繋いでいないアーチャーはこのネットワークには入れないわ。神殿の外で監視業務に従事しているアサシンたちも入場できないけど。

 

 

 

 さすがに赤の他人に客面で図々しく居座られるのは我慢ならなかった。結局このネットワークは電気的なものだから、極論を言えばアーチャーの頭にアルミホイルを巻けば受信を妨害できるのだ。

 

 そこを念には念をいれてメディア様に対策してもらったわけだ。

 

 

 

 第4番:……あの、主。結局神殿の中でしかネットワークで会話できないなら普通に会議すればよくないですか? 

 わたし:メディア様ご苦労様です。参加できなかったアサシンにはあとで会議の内容を伝えておいてください。とりあえず今回のリザルト発表。メディア様お願いします。

 medeia:確かに口頭で会議すればアーチャーには情報が洩れなかったわよね、盲点だったわ……。衛宮切嗣とその助手の女魔術師、アーサー王の心臓、ランサーのマスターコンビの三つね。もちろん小聖杯の外殻だったホムンクルスも回収しているわ。

 わたし:衛宮切嗣は後々取引に使うのでそのまま拘束して置いておいてください。

 鉄 縄:承知しました。

 

 

 

 ちなみにアサシンたちはメディア様とパスが繋がってるので、メディア様が中継役になって、彼らの意思をネットワーク上に乗せる魔術を組んだのだ。

 

 それでも高速思考が使えないと情報のやり取りはできないのだけれど、高速思考も分割思考もかれらは数時間で習得してしまった。多重人格が元にあるからそういう思考を分けたりなんだりは得意なんだろうか? まあこれらの技術は空の境界で魔術に触れたこともない一般人の生徒会長が数か月で覚えてしまえるような技術だし。

 

 別に私が分割思考使えないからってくやしいわけじゃないんだからね! 

 

 

 

 わたし:アーサー王の心臓を移植してみてどう? 

 第0番:心臓としては問題なく機能してます。メディア様の調整を受けたのもあって、魔力生成量がけた違いに上がっていますし、魔力放出のキレも上がっています。移植による拒絶反応と思えるものも今のところは。

 medeia:ここまですんなりと霊核の移植が済むのは通常じゃ考えられないことよ。肉体がそれ用に仕上がっていたのが功を奏したわね。アーサー王の魂と精神を受け入れるために作られた器と、マスターから聞いてはいたけれど。それに加えてやはりホムンクルスであるからそういった調整がしやすいというのもあるわね

 

 

 

 まあそうだろうね。英霊の一部を移植する、あるいは人間と英霊を融合させるなんて技術は本来とんでもない偉業なのだ。衛宮士郎も腕移植なんてしていたけれど、ドナーが同じ霊基であってもあれだけの副作用が出るのだし。天文科に潜入させていたホムンクルスによれば、デミ・サーヴァントの研究は今のところ全て失敗しているらしいし。確かゲームでも自我を希薄にしたデザイナーズベイビーをたくさん用意して辛うじて成功らしくなったのがあの目隠れ後輩ヒロインだったとか。

 

 そう考えると、イリヤスフィールを主人公にした魔法少女スピンオフにあった『インストール』? は凄い技術だよね。一時的かつサーヴァントのガワだけとはいえ、人間と英霊の融合をなんの副作用もなく成功させているんだから。

 

 

 

 わたし:魔力の他には何が変わったの? 

 第0番:以前聖杯の担い手を拉致した際に入手した聖剣の鞘ですが、治癒能力だけでなく宝具として展開できるようになりました。

 

 

 

 よし! 予想通りだ。そしてこれが大きい。

 

 むしろそのために頑張って手に入れたまである。

 

 これでギルガメッシュに対してようやく勝ち筋が見えた。

 

 

 

 第0番:ほかにも身体能力や五感、耐久性も格段に向上していますね。ホムンクルスですからそういった身体的変化を評価しやすいのですが、おそらくはスペック上はサーヴァントと互角に戦えるレベルかと。

 

 

 

 だろうね。ジークフリートの心臓を口からねじ込まれたムジーク家のホムンクルスがめっちゃ動けるようになったんだものね、元は魔力供給用だったクソ雑魚個体だったのに。それを統括個体は元から戦闘用に調整されたホムンクルスなんだから、強化の幅は段違いだろう。

 

 

 

 わたし:まあ今後精神がアーサー王に乗っ取られたり体が竜に代わっていったりするかもしれないから気を付けてね

 第0番:気を付ける、とは? え、なんですかそれ嫌なんですけど普通に

 medeia:逆に、とっておいたバーサーカーは潰しちゃったわね。スキル的にアーチャーに有利とれるから残しておきたかったのに

 わたし:まあ、バーサーカーはアーチャーの宝具ブッパには対応できても対界宝具には無力ですからいらないんじゃないですか? 

 medeia:対界宝具に対抗できても、数万の兵を召喚する固有結界には対抗できないわね。

 わたし:まあそこは考えなくていいでしょう。ライダーではアーチャーに勝てませんから。

 

 

 

 確かに、統括個体が『全て遠き理想郷』を展開しても一時的に無敵になるだけで、展開できる時間には限りがある。対してライダーの『王の軍勢』は兵の消耗がなければ数時間は展開し続けられる超低燃費の宝具だ。『全て遠き理想郷』展開中はこちらからも攻撃できない以上数万対一の睨み合いになって、先に魔力が切れるこちらがタコ殴りにされるという展開が容易に予想できる。

 

 他にも、例えばこちらがガッチガチに防御を固めた神殿に籠城しても、すぐ傍で固有結界を発動されれば自分たちは神殿から固有結界の中へと引きずり出されてしまう。

 

 そういった点から、ライダーは相性的に最悪の相手なのだ。マスターがウェイバーくんなのもやり辛いし。

 

 対してアーチャーは、その攻撃手段である宝具ブッパも対界宝具も、効果時間は数秒から十数秒といったところ。アーチャーが百メートル先からこれらの攻撃を仕掛けてきたところで、『全て遠き理想郷』を展開してスーパーアーマー状態で音速ダッシュすれば0.3秒弱でアーチャーの顔面を殴り飛ばせる。

 

 

 

 わたし:みつどもえ状態なんですよね。我々>アーチャー>ライダー>我々

 medeia:うかつに動けないわね。私たちがアーチャーを倒してしまえばライダーと一騎打ちになる。

 妖 美:アーチャーとライダーが同盟を組んでこちらを攻撃してくる可能性はないのですか? 

 わたし:アーチャーは気位が高いから無理だと思うよ。マスターの遠坂も御三家以外と同盟を組むのはプライドが許さないと思う。そういえば遠坂時臣ってどうなったの? 死んだ? 

 

 あの髭が爆発で死んでくれていたら私はとてもうれしい。

 

 medeia:確かなことは言えないわね。教会に配置していた監視は爆発でみんな吹っ飛んじゃったし。アーチャーを呼んだんだし死んではいないと思うけれど、ダメージはある程度負っているんじゃないかしら

 わたし:みつどもえの状況もあるし、しばらくは小康状態かな。数日は修行期間というか、統括個体が心臓と『全て遠き理想郷』に慣れることに集中しましょう。その間にアーチャーがライダーを倒してくれるかも知れませんし

 medeia:ライダー脱落待ちでも構わないわけね。それに慣れていけばもしかしたらエクスカリバーが使えるようになるかもしれないし

 

 

 

 それな。

 

 霊核があるんだから出せそうな気がするんだけど。

 

 マシュはなんだっけ、融合した英霊本人に許可取った結果宝具を使えるようになったんだっけ? 逆に許可がなかったからはじめは宝具の名前もわからなかったとか。

 

 

 

 わたし:というわけだからさ、なんとかしてアーサー王から許可もらわないと

 第0番:どうやってですか、もう死んでるじゃないですか。小聖杯に語り掛けるとかですか? 

 わたし:いや、あっちにはアーサー王は入らないんだよ。なんかこう、自分の心臓に語り掛けるとかさ

 第0番:なんですかそれ、まぁやってみますけど……アーサー王―、出ておいで―

 騎士王:呼びましたか

 

 

 

 出るんかい。

 

 なんでいるのさ。

 

 あー、そういえばジークフリートの心臓を受け取ったジーク君も、後々になってジークフリートと脳内で会話してたっけ。あれはもしかしたら心臓や霊核に残留思念が宿っていたのかもしれない。

 

 

 

 第0番:!!!!??? 

 わたし:落ち着きなよ。えーと、あなたは先まで聖杯戦争を戦ってたアーサー王? 

 騎士王:いかにも。私はウーサー・ペンドラゴンが嫡子たるブリテンの王、アルトリアだ。まあ私になど王たる資格なんてありませんが。

 

 ……なんだろう、文章なのにすごいいじけてる雰囲気が伝わってくる。

 

 わたし:あのですね、こちらは今も聖杯戦争の真っただ中でして。

 騎士王:知っていますが

 わたし:それでですね、今後の戦力として、あなたの心臓が宿っている彼女にですね、あなたの眩い至高の聖剣をぜひお貸し願えたらと思う次第でして

 騎士王:貸すわけないでしょう馬鹿ですかあなたは

 

 にべもない。

 

 騎士王:あなたが私の立場だとして、かつての部下や、守ると誓った女性をあのように利用して、背後からの不意打ちで自分の心臓を抉って殺した相手に、あなたは協力したいと思いますか? 

 

 それはそう。

 

 騎士王:もちろん敗北は敗北です。結果についてとやかくは言いません、嵌められたこちらが未熟だったというだけのこと。でもだからと言って我が聖剣を託すかどうかは全然全く別の話です

 わたし:いやもうまったくもっておっしゃる通りです。ですがそこをなんとか。ほら、たまにならあなたの心臓が入ってる子を連れてブリテン旅行とかしますから。あなたのお墓も残ってるんですよ、アーサー縁の地を巡る旅をみんなで行きましょうよ、その代わりにエクスカリバーをですね、二、三回だけでいいんで、ちょっとだけですから。

 騎士王:死ね

 

 おかしいな、アルトリアってこんな口が悪かったっけ。シンプル罵倒じゃん。

 

「あ、あら?」

 

 私が困惑していると、隣のマッサージチェアで全身の凝りを揉み解していたメディア様が変な声をあげた。初めてマッサージチェアを稼働させたときのエロい声とはまた違う、素のメディア様がそのまま出てきたような可愛めの声だ。

 

「メディア様どうしました?」

 

 私もマッサージチェアに身をゆだねながらメディア様に目を向ける。

 

 メディア様も私の視線を見返して、若干顔色を悪くしてこう言った。

 

「アーチャーが、ライダーに負けて消滅したわ」

 

 え。

 

 ライダー>我々。

 

 まずいじゃん。

 

 

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