石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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ゼウスからもらった最高位の神性をもつ牛がこのくらいで破壊されるのは設定的におかしいと思い直し、牛と戦車が天の鎖に捕縛されるシーンを修正しました。


第18話 顛末

 戦うのによい場所があるとギルガメッシュが提案した場所は、冬木教会の墓地だった。

 マッケンジー宅の二階からもその屋根に備えられた十字架は視界に入るほどに近い場所にあり、かつ丘の上にあるそれは日曜日のミサ以外では人気が少なく木々も多い。

 アーチャーに先導されるようにしてライダー陣営は冬木教会への石畳で舗装された道を昇っていく。

 ここまでくれば、本来であれば荘厳な教会が見えたはずである。

 

 が。

 

「教会が、ない?」

 

 あったはずの教会はなく、黒く燃え尽きた木片の山と焦げ臭さが鼻を突くのみだった。

 

「何者かが爆破したのよ。目的は知らぬがな」

 

 アーチャーはライダーたちへは見向きもしないまま言って、焼け跡の隅へと歩いて行った。そこには周りの焦げた材木とはどこか異なる形をした消し炭が二つ転がっていた。

 

 それは、よく見れば人間だった。

 

 どちらも胎児のようにその四肢を折り曲げている。その片方の、頭部と思しきところをアーチャーが足で小突いた。首がもげた。どすりと落ちて、そのまま崩れて炭の山になった。

 

「つまらぬ男と思っていたが、死に様までつまらぬ男よ。せめて笑いの一つでも誘えばよいものを」

 

 ふん、とその高い鼻でため息をついて、アーチャーは振り返った。

 

 その身には、一瞬で黄金の鎧が備わっていた。

 

 ガシャリ、とアーチャーが焼け跡から離れ、教会に隣接する墓地へと向かった。

 

 対するライダーも、いつの間にか羽織ったマントを靡かせてアーチャーの隣を歩く。ウェイバーはその後ろを黙ってついて行っていた。その腕の中には、イギリスから来日した時から後生大事に抱えているリュックサックがある。中にはライダーが召喚直後に略奪したホメロスと世界地図とその他書物が数冊入っている。

 

 道すがら、ライダーが視線を墓地に向けたまま声をかけた。

 

「アーチャーよ。以前の酒宴で交わした言葉、今一度確認したい」

「なんだ?」

「王とは孤高なるや、だ」

「無論。それで、貴様は真に王たる者の姿を見せてくれるとほざいたのだったな?」

 

 この我に向けて。アーチャーは腕を組んで、嘲笑に近い笑みを浮かべた。

 

 然り、とライダーは頷いた。

 

「バビロニアの王よ、貴様に真の王者の在り方を示そう」

「我の名を察していたか。その上でそのような戯言をほざくとはな」

 

 カハハ、とアーチャーは笑った。

 

「存分に己を示せ、征服王。この我が手ずから審判してやる」

 

 墓地の中心を貫く車道に出て、二人は言葉もなく左右に分かれた。

 

 墓地の1ブロック分の幅、30メートルほど離れたところで互いに振り返る。王の中の王として、挑戦を受ける王者としての自負からアーチャーは仁王立ちのままライダーを見据える。

 

「集えよ我が同胞!」

 

 ライダーが叫ぶ。腰から抜いたキュプリオトの剣を掲げて、時空の果てまで声を響かせんと高らかに吠える。

 

 風が、吹いた。

 

 乾き、砂を孕む熱風であった。ウェイバーは目元に異物が入る感覚に戸惑い、腕でこすった。熱風は勢いを増し、轟然と唸りを上げる。マントをはためかせ、ライダーはかつての戦友たちへと呼びかける。

 

「今宵我らは最強の伝説に勇姿を印す!」

 

 風と熱の逆巻く中で、現実が侵食され覆される。

 

 照り付ける直射と彼方まで広がる蒼天。砂と、風が地平線の先まで舞う平野の世界。

 

「固有結界⁉」

 

 ウェイバーが叫んだ。魔術師としては三流でも、曲がりなりにも魔術探求の学徒の端くれであり、今目の前で展開される状況に声をあげずにはいられなかった。

 

「お前、こんな、どうやって⁉」

「どうと言われればな、これは余が一人で展開しているのではない」

 

 イスカンダルが誇らしさを湛えて笑う。その間に、彼らの周囲に続々と騎影が実体化していく。人種も武装も統一感がなく、しかし誰もが屈強だ。

 

「この世界をこうして形にできるのは、これが我ら全員の心象であるからさ」

「こいつら、全員サーヴァントなのか……!」

 

 全員が勇壮な具足を競い合うように身に着けている。その全てに由来があり、伝説があり、全員がかつてイスカンダルとともに戦場を駆け抜けた勇者であり、そして掛け値なしの英雄であった。

 

「魂は英霊として世界に召し上げられ、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち! 時空を越えて我が召喚に応じる伝説の朋友たち! これこそ余が誇る最強宝具、『王の軍勢』なり!」

 

 砂の平野を埋め尽くす数万の兵たちを束ねて、イスカンダルはウェイバーとともに愛用する戦車『神威の車輪』に乗り込む。

 

「王とは! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!」

 

 自身の生きざまこそが王道であると、これこそがその証明であると。絶対的な自信を込めて平野の先に立つギルガメッシュを睥睨する。

 

「すべての勇者の羨望を束ね、その道しるべとして立つ者こそが王! 故に、王は孤高にあらず! その偉志は全ての臣民の志の総算たるが故に!」

 

 然り、然り、然り、と。平野全体が吠えるように駆けつけてきた英霊たちが唱和する。騎馬に跨る彼らは盾を打ち鳴らし歓声を上げる。

 

「征くぞ!」

 

 号令一下、イスカンダルの率いる軍勢が一斉に進軍を開始する。

 

 それを見据えながら、ギルガメッシュは呟く。

 

「なるほどな。この数を束ねれば王と息巻くも道理か」

 

 言いながらギルガメッシュは王律鍵バヴ=イルを宙に差し込み、回した。

 

「貴様を相手にするときは本気でいくと決めていたが、こうまでおあつらえ向きの戦場を自ら用意するとはな。ああ、貴様からの挑戦は、全力を以て破るに値するとも」

 

 砂塵を巻き上げながら迫る軍勢を前にしても、ギルガメッシュは全く動じない。解錠された宝物庫の最奥から取り出したのは、一振りの奇怪な剣であった。

 

 否、それは剣という概念が生まれる以前に誕生した神造兵器。三つの円筒のそれぞれが、星の運動にも迫るエネルギーでもって回旋している。

 

 その回旋はさらに唸りを上げ、速度を増し、膨大な魔力を滾らせる。

 

「エアよ、目覚めたばかりで機嫌も悪かろうが、謳ってもらうぞ。あれはそうするに相応しい賊だ」

 

 ギルガメッシュは『エア』と呼ぶその剣に、自身の魔力を十全に充填させて、

 

「いざ仰げ、『天地乖離す開闢の星』を!」

 

 全力で解放した。

 

 振り下ろされたその剣は、軍だとか城だとか、そういった対象に向けられるものではない。

 

 剣が切り裂くその相手は世界そのもの。解き放たれた膨大な魔力の束が、ライダーの眼前で大地を砕き、空を割った。

 

「こ、これは……⁉」

 

『神威の車輪』に乗っていたために世界の破壊に巻き込まれることはなかったが、後続の近衛兵たちはそうはいかない。騎兵である彼らの馬とて駿馬であるが、奈落を開いた大地を飛び越えるほどの脚力はない。続々と彼らは大地の割れ目へ、砕けた空の虚空へと巻き込まれていく。

 

 まさしく世界そのものが破壊されていく。全てが無に帰していく。

 

「対界、宝具……!」

 

 召喚された軍勢の魔力で維持されていた結界は、彼らの半数が失われたと同時に決壊した。

 

 条理の外にあった世界は消え去り、まるで白昼夢から覚めたかのように、彼らは冬木教会の墓地へと戻っていた。

 

「ライダー……」

 

 ウェイバーが戦車の御者台で俯いている。顔色は見るまでもなく蒼白だ。当然だろう、自身のサーヴァントの最強最後の切り札が、アーチャーの持つ宝具によって敗れたのだから。

 

「ウェイバー・ベルベットよ。一つ訊いておかねば」

「……ライダー!」

「お、おう?」

 

 ライダーが言いかけた言葉を、ウェイバーが遮った。

 

「僕はこれから博打に出る。お前は僕のサーヴァントなんだ、最後まで付き合ってもらうぞ」

「……なんだ、坊主」

 

 ウェイバーが右腕を掲げ、叫んだ。

 

「令呪をもって命ず。もう一度王の軍勢を展開しろ!」

 

 右腕の令呪が輝き、消える。魔力の奔流が周囲に走り、再び墓地に砂漠の世界が展開される。数万の軍勢を背負い、戦車の御者台から身を乗り出してウェイバーがアーチャーを指さした。

 

「勝負だギル、ギ、ギルガメッチュ!」

 

 噛んだ。アーチャーが眉を顰める。はっきりいってムカついた。生前は自分の前で自分の名前を噛むような雑種はその場で舌を切り落とし、溶かした銅を喉に流し込んでいたところだ。

 

「僕とお前、どちらの魔力がもつか、勝負だ!」

 

 雑種から名指しで、指まで向けられて、ギルガメッシュの額に血管が浮いた。

 

「よかろう、貴様は殺す。せめて散り際で興じさせよ雑種が!」

 

 ギルガメッシュは再び乖離剣に魔力を充填させる。三つの円柱が唸りを上げて回旋し、赤い魔力を迸らせる。

 

 それをまっすぐ見据えながらウェイバーは言う。

 

「やつは魔力を回復させたり、現界を維持する効果のある宝具を持っているかもしれない。でもそれなら使わせなければいい。やつの魔力が尽きるまで隙間なく、あの対界宝具を使わせ続ける。あの規模の宝具を、マスターの援護なしに使い続けるなんてできるわけないんだから!」

「は、ガハハハ!」

 

 ウェイバーの策とも言えないごり押しの作戦を聞いて、ライダーは笑った。

 

「聞いたか我が朋友よ! 新たに我が戦列に加わったこやつが、その身を削って彼方に挑む!」

 

 ライダーは愛剣をアーチャーに向けて、叫ぶ。

 

「敵は万夫不当の英雄王! 相手にとって不足なし! いざ益荒男たちよ、我らの覇道を示そうぞ!」

 

 ──AAAALaLaLaLaLaLaLaie! 

 

 再び進軍が始まる。黄金の王に向かって数万の王の軍勢が楔形陣形で押し寄せる。

 

 しかし先の再現のように、ギルガメッシュはその唸りを上げる乖離剣を解放した。

 

 生半可な威力ではない。対象としているのは魔力によって展開されているとはいえ世界そのものであることに変わりはない。その規模は対城宝具の枠に留まるものではなく、消費する魔力もそれ相応である。

 

 結果、世界が割れ、地が裂け、空が堕ちた。軍勢は虚空へと飲まれ、彼らは再び墓地へと巻き戻る。

 

「二画目の令呪をもって命ず! 令呪だけじゃなく僕の魔力も使って『王の軍勢』を展開しろ!」

 

 二画目の令呪を切り、戦場は三度、砂漠の平野へと移る。

 

 ウェイバーは思う。

 

 魔力を回復する宝具をギルガメッシュに使わせない。そんなことが本当にできているのか。自信ありげに言っているが正直五分五分だ。

 

 でも、と思う。バーサーカーとの戦いではタイムラグなく間断なく、その蔵にある宝具を湯水のごとくばら撒いていた。しかし一方でライダーと神殿で開かれた酒宴では、その場にふさわしい酒器を取り出すのに数秒であるが時間を要していた。

 

 あの空間の中にあるものを手あたり次第にばら撒くのと違い、選んで取り出すにはギルガメッシュが選択し排出するという時間が必要なのだ。多分。

 

「そして何よりあの対界宝具の溜めの時間だ」

 

 溜めとクールダウンの時間があの宝具には必要なのだ。当然だ。世界を破壊する威力を連射なんてできてたまるか。多分。

 

 魔力を回復させる宝具を取り出す数秒があれば、その間にライダーの『神威の車輪』がアーチャーを轢き潰す。多分! 

 

「全部推論だ。正直五分五分だ。でも50%だ。命を賭けるには十分な確率だろ、違うかライダー!」

「ガハハハッ、違いないわ! ゆくぞ者ども!」

 

 ──AALaLaLaLaLaLaLaie。

 

 何度も鉄砲玉のように突撃させられて、ちょっと『王の軍勢』のテンションが下がってきた。

 

「……ちっ」

 

 ギルガメッシュが舌打ちした。砂漠の熱風に紛れてそれがウェイバーに聞こえることはなかったが。

 

 魔力を回復させる宝具は、ある。ギルガメッシュがすぐ思いつけるものでは、現代ではエリクサーと呼ばれる秘薬、その原典が。とはいえそれは当然飲まなければ効果がなく、蔵を探し、取り出し、ふたを開けて飲み込むまで、どれだけ短く見積もっても5秒。効果を発揮するまで何秒かかるかまではギルガメッシュ本人も把握していない。

 

 しかし、ギルガメッシュが舌打ちしたのはそんなことではない。

 

 彼をいらだたせたのは、あの凡百な雑種風情が、この王に対して、魔力を回復する時間を与えないなどと小賢しく考えて立ちまわっているその様が。この王の中の王たるギルガメッシュが、雑種相手にそんな小道具に頼らねばならないと雑種に思われているという事実そのものが。

 

「気に入らんのだ雑種がぁ!」

 

 ギルガメッシュの怒りと共にエアが解き放たれる。イスカンダルが操る戦車『神威の車輪』を牽く、ゼウスから賜った雷の牛の蹄がギルガメッシュの鎧に届く直前、世界が割れ、またも墓地へと巻き戻る。

 

「もう一回!」

 

 最後の令呪が切られ、四度目の『王の軍勢』の総攻撃が始まる。

 

 ──LaLaLaLaie。

 

 だいぶテンションが下がってるが、その歩みの速度は先までの進撃とまったく変わらない。

 

 違いがあるとすれば、その先陣を切るライダーとウェイバーに疲労の色が濃く出てきているということか。

 

 当然である。『王の軍勢』がこの規模の宝具としては燃費の良いものであるとしても、この短時間で既に四度。令呪の魔力を発動の補助に回していたところで、もはやウェイバーにもライダーにも魔力はほとんど残っていない。

 

 そして、それはギルガメッシュだって同じこと。いくらアーチャーとしてのクラススキル『単独行動』があるとはいえ、乖離剣・エアの全力解放をすでに三回繰り返しているのだから。

 

 そして、これで四回目。

 

 大地が断裂し、奈落を開き。その亀裂は空にまで続いて世界を虚無の果てへと吹き飛ばす。

 

 イスカンダルの近衛兵たちはこれで四度目の転落であり、墓地に舞い戻るのも四度目。

 

 それと同時に、顔を真っ青にしたウェイバーが叫ぶ。

 

「真名解放して突っ込め!」

「『遥かなる蹂躙制覇』‼」

 

 ライダーがウェイバーの号令に即座に反応する。そこには令呪なんてものは介在していない。そこにあるのは、ただただ自身のサーヴァントへの信頼と、自身のマスターの判断に全てを賭ける信頼のみがあった。嘶きが響く。雷霆が奔る。轟く雷霆一つ一つが、サーヴァントの渾身の一撃に匹敵する威力を誇る。そんなものを蹄から撒き散らす真名解放状態のゼウスの神牛は、静止状態から一瞬で100メートルを走破する。

 

 もちろん普段乗り回しているときよりも段違いに魔力消費が激しい。

 

 ウェイバーは血を吐いた。

 

 視界が赤く染まる。目じりから流れる液体は涙ではなく鼻腔から逆流した鼻血だった。

 

 だからなんだ。

 

 死ぬよりましだ。否、もっと追い込め。

 

 強力なサーヴァントにおんぶに抱っこじゃない。

 

 これは僕の戦いなのだから。

 

 僕は、今、戦っている──! 

 

 ギルガメッシュとの距離はほんの50メートル。

 

 それはまさしく一瞬であった。

 

 エアを四回も全力で解放したアーチャーは、王の財宝を展開し、豪雨のように宝具を降らせる。

 

 しかしそこに彼の選択の意思は働いていない。蔵にあるそれらをやたらめったら射出するのみ。それを神牛の蹄が放つ雷撃が迎え撃った。

 

 如何なゼウス由来の雷霆であれ、真名が解放された宝具の一撃の前には容易く切り裂かれるだろう。しかしアーチャーの主力として用いている攻撃手段は、ただ蔵にある宝具の原典を高速で、大量に射出するというもの。脅威ではあるが、それがゼウスの仔たる神牛の突進を止めうるかといえばそれは否であった。

 

 瞬く間に迫るチャリオットの突撃。

 

 思考する時間は限られている。

 

 ギルガメッシュの蔵には古今東西あらゆる宝の原典が収められている。当然その中には、雷霆神トールが振るうミョルニルの原典をはじめとして、雷を無効化あるいは雷によって威力を増加させる宝具がいくらでもある。

 

 しかし、思考時間が限られて、しかも迫ってくる対象が最高位の神気を滾らせた神牛であるのだ。ギルガメッシュが選択するとすれば、それは彼が最も頼りとし、かつて天の牡牛を捕縛したこの対神宝具以外にありえない。

 

「天の鎖よ!」

 

 空間から射出された黄金の鎖が、瞬く間に神牛を拘束する。全てを蹂躙するはずの神牛の走破は完全に縫い留められる。ゼウスから賜った高い神性を有するが故に、彼ら神牛はその鎖を引きちぎることはできず、その場に崩れ落ちることになった。

 

「ぬっ!」

 

 頭上に影。

 

 ギルガメッシュが視線を上げれば、街灯を背後にしたライダーの姿があった。

 

 戦車と神牛が拘束される寸前に、ライダーはその持ち前の戦術的直感によって御者台から飛び上がったのだ。そのマントにはウェイバーがしがみついているが、そんなもの筋力Bを持つライダーからすれば誤差である。

 

 天の鎖によって急停止したチャリオットからほとんど投げ出されるような形で空中に躍り上がったその巨体は、その全体重を右手に握ったキュプリオトの剣に乗せて振り降ろそうとしていた。

 

 アーチャーが咄嗟にエアを振り上げる。

 

 凄まじい衝撃が墓地に響いた。轟音と豪風で墓地の石畳はめくれ、墓石がまとめてなぎ倒される。その中心にいるギルガメッシュの足元は大きく陥没し、しかし彼の黄金の肢体は微動だにしない。

 

「天に仰ぎ見るべきこの我を地に埋めようとはなぁ!」

 

 もはや魔力も尽きかけているが、ライダーの攻撃がギルガメッシュの逆鱗に触れた。

 

 自分より上に立ち、かつ攻撃してくるとは。地に立たせるだけでも烏滸がましいのにまさか穴に沈めるとは。

 

 ライダーの一撃をエアで受け、鍔迫り合いに持ち込まれる。吐息もぶつかりそうな彼我の距離で、互いの愛剣を挟んで睨み合う。

 

 近すぎるが故に『王の財宝』による射出攻撃はできない。

 

 この状態で使えるのはエアのみ。残存魔力量から全力解放はもはや叶わないが、その権能を部分的に使用することはまだ可能だ。

 

 乖離剣を起動させ、空間を捻じ曲げ、周囲を切り裂く暴風を生じさせる。乖離剣を前に突き出した状態で行えば標的に向かって暴風を叩きつけることができるが、刀身に肉薄しているこの状態では当然自分もその効果範囲に入っている。

 

 知ったことか。

 

 そんなことよりこやつらを誅伐しなければ気が済まない。

 

「まさか貴様ごとき雑種の策略でここまで追い詰められるとはな」

 

 ギルガメッシュはライダーのマントを握ってへたり込んでいるウェイバーを睨みつける。情けない姿。何一つ特記すべき特徴もない、凡百を絵に描いたような男だ。それなのに。

 

 乖離剣が唸りを上げる。ライダーの剣とこすれ合って不快な金属音が響く。ライダーが目を見開くのを愉快気にギルガメッシュは眺めていた。

 

 風が解放される。

 

 それによってまたギルガメッシュに残る魔力が減るが、構わない。距離が空けば『王の財宝』で攻撃できる。その程度の魔力はまだ残っている。

 

 風に弾かれ、ギルガメッシュ自身にもダメージが入り、地べたを転がる。その勢いのままに衝突し、整然と並ぶ墓石を一つ二つと砕き、三つ目の墓石に背中を打ってギルガメッシュは止まった。

 

 ゆっくりと体を起こす。

 

 四つん這いという屈辱的な体勢で、怒りと苛立ちに歯噛みしながらギルガメッシュは思う。

 

 此度の聖杯戦争で、敵となりうるのはライダーだと思っていた。確かに強敵である。だが違った。真に敵とみなすべきはあの雑種だった。

 

 我慢比べに持ち込まれ、エアの全力解放の連発を強要された。

 

 地面を殴りつけ、その紅い瞳孔で前を睨みつける。

 

 加減していたとはいえあの至近距離でエアの風を受けたのだ。いかなライダーとてただではすむまい。

 

 しかし、そんな期待で向けた視線の先には。すなわち本来ライダーのいるべき場所には、仰向けに寝転がっているウェイバーと、ギルガメッシュが初めて見る一人の女が立っていた。

 

 美しい妙齢の女である。もっとも印象的なのは金銀妖眼のヘテロクロミア。右の目に宿る夜の暗闇と、左目が抱く空の青。文献に残るイスカンダルの伝承にあるものを彷彿とさせるようなその瞳の色と鋭い眼差しは、彼女の纏う武人の鋭さと絶妙に調和していた。

 

 黒く波打つ髪をかき上げながら彼女は足元のウェイバーに語り掛ける。

 

「あの愚か者どもが四度も立て続けに呼び出されて、四度とも無様に穴に落ちて散っていったわけだが」

「恨むのか? 仲間を鉄砲玉に使われて」

「まさか」

 

 首を振る。

 

「むしろ胸がすくような気分だ」

 

 女はその豊かな胸に右手を当てて、皮肉気に笑った。

 

 その腕にも、胸にも、血が滴っている。全身が裂傷と血で覆われていた。どう見ても重傷である。しかし女はそんな深い傷など知らぬとばかりに腰に右手を当てて微動だにせず、同じく血まみれで這いつくばっているウェイバーを見下ろしている。

 

「あの愚か者どもと並んで呼び出されるなど王の命であっても御免だが、私だけが王のそばに召喚されるのであればそれは願ってもないことだ。しかもこうして、王の身代わりとなって死ねるのならなおのことな」

 

 金銀妖眼の女は、その神秘的な瞳で王の背中を見ている。

 

 エアがほぼゼロ距離から直撃したはずの征服王は、無傷だった。ただ魔力不足の倦怠感からふらつきながらも、倒れたまま立ち上がれない黄金の王に向かって、その愛用の剣を振り上げている。その後ろでは天の鎖に縛られた神牛が、その拘束が解かれる瞬間を今か今かと待っている。

 

 その姿を見つめながら女は口を開いた。

 

「私を王の軍勢から呼んだのはその魔導書の術式だな」

 

 倒れるウェイバーのすぐ隣には、エアの暴風で半壊したリュックサックが肩に紐を引っかけた状態で中身をぶちまけていた。

 

 女が指すその魔導書とは、ウェイバーが肌身離さず持ち歩いていた、一冊の古びた本。

 

 聖杯戦争に向けてロンドンから飛び出す直前の夜、バーで唯一の親友から受け取ったある魔導書。

 

 その名を『エドワード手稿』。かつて大天使ウリエルの降霊に成功したと言われる二人組の魔術師の片割れ、エドワード・ケリーが残したエノク魔術の基礎理論書。一般的には『ヴォイニッチ手稿』と呼ばれている、それの原本である。

 

 エドワード・ケリーが遺し、のちにヴォイニッチによって購入・発表されたその魔導書に記載されている術式は、正確には天使を召喚するものではない。その術式は、天使と見まがう霊的存在を見繕いその場に固定する、生活費に困ったエドワード・ケリーが金銭目当ての詐欺に使うために作った『偽物をそれらしく召喚するための術式』である。

 

 偽物を召喚するための書であり、さらに偽物ではないかという言説が流されている魔導書を仲介して、イスカンダルの偽物である名も無き影武者が『王の軍勢』から呼ばれてきたのだった。

 

 そんな偽物たる彼女の能力は、剣にせよ魔術にせよ、『自身が王と称える相手が受けるあらゆるダメージを吸い寄せる』というもの。これはサーヴァントとしてのスキルではない、生まれたときから『そうあれかし』と育てられた彼女が生前から習得していた、影武者としての魔術的技能だった。

 

 名も無き彼女が血を吐いた。イスカンダルが受けるはずだった乖離剣の暴風を肩代わりしたのだ。霊核すら砕け、四肢が先端から大気へと溶けつつある状態でいながら、そんなことはまるで些事だとばかりに彼女はイスカンダルの背中を見つめている。

 

 その横顔をウェイバーは仰向けのまま見つめていた。

 

 彼女の誇らしげな表情が、あまりにもまぶしかった。

 

 二人が見つめる先で、征服王が英雄王の首を刎ねた。

 

 キュプリオトの剣を掲げ、征服王が一人勝鬨を上げる。

 

 それを聞きながら、影武者の女は満足げな笑みのまま消滅し。ウェイバーは魔力切れと出血で気絶した。

 

 

 

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 一方その頃。

 

 アーチャーとライダーの激突の顛末をメディアから聞かされたキャスター陣営の面々は、お前のせいじゃねーかと総勢でマスターをぼこぼこにしていた。

 

 もちろん後に引かないように、『全て遠き理想郷』を背中に括りつけた状態でである。優しい。

 

 




ロード・エルメロイII世の事件簿はマジで面白いのでみんな読んでください
最後に出てきた名前のない女は事件簿で出てくる超重要人物です作者はこのキャラのビジュアルがめっちゃ癖です
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