石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる 作:Una
メディア「イリヤスフィールだったかしら。彼女のステッキ……愉快型魔術礼装を解析して、その能力を組み込もうとしたのよ。ただ作ったのはいいのだけど『そもそも何に使うのか?』という視点が抜けていたわ」
アルクェイド「膨大な力を持つ道具を開発する人ほどそうなのよね。『できるから作ってみた』ってヤツ」
メディア「……ぐうの音も出ないー」
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『基底』のザイードがアーチャーに殺害されてから丸三日、メディア様が婚活魔法少女などというとんちきな霊基で召喚されてから7日が経過している。
ところで、その七日の間にメディア様は何をしていたのか。
当たり前の話だが、今現在冬木市は聖杯戦争の真っ最中である。つまりは殺し合いの真っ只中にあって、メディア様がまさか遊んでばかりいるのではなどという無礼な勘違いをしている者はいないだろうか。
彼女はサーヴァントであり、神代ギリシャにおいて最高の魔術師の名で恐れられており、なおかつ受肉して理想の旦那様と出会い恋愛結婚して幸福な夫婦生活を送るという壮大な野望を抱いているのである。確かに現代の魔法少女もののアニメを視聴しまくってたり、アルトリア顔のホムンクルスを着飾って撮影会を開いていたり、アサシンたちとプラモデル雑誌を見ながら盛り上がったりとちょっと脇道に逸れすぎな感は否めないが、己の野望のために、やるべきことはもちろんしっかりやっている。
じゃあ何をしたんだよあの合法ロリはと問われれば、冬木教会強襲やアイリスフィールの偽装を除けば大まかに三つ挙げられる。
メディア様がやったこと一つ目。冬木全体の監視。拠点を把握できていた陣営にはアサシンを付けて、街全体には『虫飼』のハサンの使い魔を中心に構築した監視網を冬木の各所に敷いていた。
それでもなんらかの隠蔽効果のある宝具を使用していたアーチャーはライダー戦の終盤まで見つけることは叶わなかったのだが。
その結果、急行したアサシンたちが教会裏の墓地に到着したときには、アーチャーを倒した後のライダーたちが既に『神威の車輪』でどこかに飛び去ってしまった後だった。あそこまで弱った状態ならアサシンたちだけでもライダーを倒すことができたはずなのに。
二つ目は大聖杯の調整だ。具体的にはアンリ・マユを取り込んだ聖杯を願望器として正常に運用する手段の考案である。
自分の野望を叶えるためにはもちろん聖杯が必要であり、大聖杯の汚染をどうにかしなければならないのだが、地下大空洞の大聖杯を直接目にした時メディア様は、どの方法が最も手っ取り早いだろうかと考えた。
どうとでもなるが、じゃあ実際どうしようか。
アンリ・マユという異物を全て浄化して無色の魔力に変換するか? 否。この世全ての悪という大質量の負の感情をまとめて浄化するというのは、やろうと思えばもちろんできるが面倒くさい。とても面倒くさい。できるとできないの間には、できるけど疲れることがたくさんあるのだ。
では聖杯から取り除く? その後どこに置くのだ。置いておけば蒸発するわけでなし、こんな大量の汚物の置き場なんて普通にない。倉庫にも収まらないしトイレに流せば多分詰まる。
というわけで、いろいろと考えた結果。メディア様はアンリ・マユを大聖杯の中で寄せ集めて隔離する方法を取ることにした。臭いものに蓋とも言う。
これだって十分以上に神業である。大聖杯の中で混ざり合った魔力とアンリ・マユを分離するなんて所業は、例えるならプール一杯のカフェオレを牛乳とコーヒーに分離するに等しい。
泥が外に漏れないように閉じ込めておけば、小聖杯にサーヴァントの魂が溜まっても汚染されることはない。もし仮に小聖杯に汚染が及ぼうとしても、メディア様はホムンクルスから取り出して以来小聖杯を肌身離さず持ち歩いているし、それとリンクしている大聖杯の異常だってすぐ感知できるようにしていた。
完璧である。
何も問題はない。
そう考えていたメディア様も、私も、ホムンクルスもアサシンたちも、はっきり言って油断していた。
などと脅かしつつ、メディア様がやったことの三つ目である。
それは、聖杯戦争二日目にホテル跡地からパクってきたエルメロイの至上礼装、三位一体の魔力炉を一つに繋ぎなおしたことである。
なんでそんなことを? と聞いても彼女のことだ、大した返事は返ってこないだろう。
絶妙なバランスで成り立っていたその礼装をべた褒めしていたメディア様だ。しばらくその魔力炉を熱心にいじくりまわし、その大本が一つの特大の神秘であること、そして礼装の製作者がこれらを一つにすることで自我を持つ生命と化してしまうことを倦厭していたことを、すぐにメディア様は見抜いた。
礼装としてはこの状態こそが最上であることももちろん気づいていた。
しかしそれはそれとして。
この礼装の元になった神秘は一体なんなのだろう? そうメディア様は思った。思ってしまったのだった。
メディア様の疑問の正解を先に言ってしまうと、それは神代に世界の器から零れ落ちた雫のような何かであり、自然から沸いた簡易的な願望器のような魔力の塊だった。
その何かに『命であれ』と何者かが願ったことで、それは人に近しい形を取り、それから長い時を経て、紆余曲折の末に六つに分割された状態でエルメロイの手に渡り三位一体の魔力炉として加工されたのだった。
一般の魔術師であればその魔力炉をひと繋ぎに戻すのに十年はかかっただろうが、メディア様はほんの一時間弱でそれを元の形に生まれ直させた。余計なところで有能である。
繰り返すが、メディア様がそれを生まれさせたことに大した理由はない。好奇心と、加えて言うなら「できそうだから」だ。
そうして生まれ直った神秘の塊は、メディア様が言うには金髪エルフ耳の幼女だったそうである。
生まれ変わった直後であるなら、彼女は本来胎児として誕生するはずであった。しかし可愛い少女が好きな凄腕魔術師がその生誕を手掛けたためか、彼女は初めからその形で生まれた。
『あれ』には願望を増幅する機能がある、とメディア様は言った。
「所有者は『あれ』に願わずにはいられなくなる。欲望の増幅と衝動の増大と言えば良いのかしら。なおかつ無限に沸く魔力によって、ささやかな願いなら何度でも叶えられる。冬木の願望器も歪んでいるけれど、『あれ』も大概ね。『あれ』の傍に身を置き続けていると精神が歪み破滅するわ」
それはそうだ。無限に増える貯金残高を目にして金を使わずにいられるか。不可能だ。金はあるだけ使いたくなるのと同じように、無限に補充され続ける魔力を前にすれば魔術師はそれを使わずにはいられないように。
「ランサーのマスターやその祖先たちが『あれ』を生み直さなかった理由がわかるわ。自我を持ちかねず、かつ周囲の精神に干渉するだなんて迷惑以外の何ものでもないもの」
「で、それを今までどうしていたんです?」
メディア様は幼い顔貌を無駄にきりっとさせる。隣に立つ桜嬢も真似してキリっとしていた。
「眠らせた状態で倉庫の奥にしっかり保管しておいたわ。願望器としてはわかってるだけでも副作用が危険極まりない代物だったから、使うとしても時間をかけてもっと調べてからにしようと思って。その時点では事前に立ててた作戦でアーチャーを倒すための材料を増やすことが最優先事項だったし、魔力炉としても地脈とホムンクルスたちからの供給で十分だったし、魔力供給源としてわざわざまた三つに分割する必要もないわけで、それにその状態のままでも魔力炉としての機能は残るわけだし」
「もしかして忘れてました?」
メディア様の言葉を遮る。口調がずいぶんと言い訳がましいんですが。
「そうとも言うわね」
メディア様は恥ずかしげもなく頷いた。
「でね?」
とメディア様は私を見上げながらきゅるんと首を傾けた。顎には人差し指を添えている。なんてあざとさだ。桜嬢も真似して同じポーズで見上げてくるせいで破壊力が二乗である。可愛さで最悪人が死ぬ。
「でね、ほら、ここの地下には大聖杯があるじゃない? もっと言えば、アンリ・マユが」
「そうですね。もちろん存じ上げていますよ。私が教えたような気もしますし」
つまり、だ。
「隔離してたはずのアンリ・マユの願いを、組み立てたあと倉庫の奥にしまって忘れていた簡易願望器が聞き届けてしまった、ということですか」
「一言でいえばそういうことね……あ、やめて、アヴァロン押し付けるのやめて」
私はあざとい上目遣いで媚びてくるメディア様に、さっきまで私に括りつけられていた『全て遠き理想郷』をぐいぐい押し付けた。
「違うのよ。ちゃんとアンリ・マユは分離して封印していたのよ。大聖杯と一体になっているから後々大聖杯と一緒に解体する必要があったのだけれど、願望器として運用する分には問題ないようにしていたの」
メディア様は必死に言葉を並べながら『全て遠き理想郷』を桜嬢と一緒に押し返してくる。
「で、そのちょうど真上に他者の願望を叶えることを望む存在がいたものだから、ね? そこにギルガメッシュなんて特大の魂が小聖杯に加えられて、それが欲しいのに手に入らない状況に嫉妬したアンリ・マユの生まれたい願望が最高潮に高まって、それを感知した『あれ』がいい感じに結びついて」
ホムンクルスからも魔力を供給させて全力で身体強化をかけながら『全て遠き理想郷』を押し付ける。
「戦犯はアヴァロン担いでぼこぼこにされるのがうちのシマのケジメの付け方ですので。さっきそう決まりましたんで」
「いや、いやよ、アヴァロンを結び付けて終わらない拷問にかける気なんでしょう? さっきまでのあなたみたいに。やめ、やめなさいってば」
お遊びはここまでにして。
「で、こうなってるわけですね」
「ええ、ああなっちゃってるわけよ」
私たちは空を見上げる。ホムンクルスたちやアサシンたちも一緒に、円蔵山の麓に広がる森林から、木々の合間を縫うように夜空を見た。
そこには如何なる原理によるものか、夜空を背景にして、円蔵山がまるまる浮かんでいた。
「まさかこんなことになるなんて思ってなかったわ」
「戦犯のくせになにを呑気に……ところで全員そろってる?」
「はい。ホムンクルス8体およびアサシン、桜嬢、全員の避難を確認しています」
『妖美』が即座に返事を返す。桜嬢は見えにくかったのか、アサシンの中で一際身体がデカい『怪腕』に肩車してもらって山を見上げている。目をキラキラさせながら「ラ◯ュタだ!」と興奮して『怪腕』の頭をペシペシしている。
突然の揺れと浮遊感、耳を貫く轟音の連なり。それらがいきなり襲ってきたものだから、私たちは取るものもとりあえず山から避難したのだった。大聖杯の真上であり、ギルガメッシュが敗退した直後である。すわ聖杯が暴走でも起こしたかと焦り、泥でもあふれ出すより早くみんなで山を脱出したわけである。
しかしてその揺れの正体は、まあこうして山自体が空を飛ぶというわけのわからない状況が原因だったわけだが。
「山の上にある神殿は古来から神々の住まいとして崇拝される対象だったわ。その内部は一般には解放せず、神秘性を高めて一種の異界──単純に言えば天界とも捉えられていたわけね。あのお寺の参道や急な石段もそういった排他性に一役買っていたでしょうね。加えて私たちが本物の神殿を山上に作って、アンリ・マユという曲がりなりにも神と崇拝された存在を『あれ』が把握したものだから、そういった見立てを並べた結果、天界の再現として神のおわす領域を天に浮かせることに成功しているわけね。アンリ・マユの誕生を誰にも邪魔させないように」
つまりなぜ山が空を飛んでいるのかといえば、簡易願望器である『あれ』ちゃんが、アンリ・マユの『誕生』と『殺戮』の願いを叶えるために最適の場所を選んだためである、と。
幸いにもまだあの山から聖杯の泥がまき散らされるような事態にはなっていない。『あれ』ちゃんとつながりができたとは言え、アンリ・マユはメディア様の封印によって大聖杯や小聖杯とは完全につながりを絶たれているのだ。つまりアンリ・マユの誕生に必要な魔力は『あれ』ちゃんが一から貯め直している状態である。
時間的猶予はある。が、のんびりともしていられない。
魔力が充填されればいずれ泥があの神殿から溢れ、最終的には世界を泥で覆うことになるだろう。
だがそれよりもなによりも重要なのはだ。
魔力が満ちて泥があふれ出すとすれば、それは倉庫にあるという『あれ』ちゃんからだ。
ということは、あふれる泥によって最初に犠牲になるのは、私たちが時間と労力と金をかけて作り上げた神殿であり。そして倉庫にしまってある、この聖杯戦争で巻き上げまくった戦利品の数々なのである。
エルメロイの魔力炉が人型になって云々はFate/strange Fakeで付け加えられた設定です。Fake作中で周囲の人間の精神に働きかける特性を用いて無自覚に3キルしてます。