石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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20話後半と21話の描写を一部修正しました。
具体的にはラスボスの魔法少女の設定を大きく変更しました。展開は変更ありません。


第20話 混在(修正済)

 六十年ほど前。

 

『ソレ』にとっては瞬きほどの昔。深き地の底で微睡の中にあったはずの『ソレ』は気が付けば生ぬるい母胎のような場所にいた。

 

 胎児が臍帯から吸い上げるように、『ソレ』は霊脈から流れ込む魔力をすすり、肥え太り、生まれ堕ちるその時を待ち続けていた。

 

 その最中、『ソレ』はある言葉を聞き、歓喜に胎動した。

 

『世界を救うためなら、僕は全ての悪を担うことになっても構わない』

 

 呼ばれている。自分という存在が招かれている。この声の主の願いに、応えてやれる。かつて託された数多の祈りも、全ての罪と悪を請け負わせた人々の願いも、今ならば叶えることができる。

 

 器は満たされつつあり、直に満ちるだろう。満ちてしまえば、あとは形を得るための“祈り”があればいい。どんな願いを託されようと、それに相応しい姿と形を得ることで、『ソレ』は初めて外に出ていくことができる。

 

 それなのに。

 

 自身の担い手となるだろうともっとも期待していた男がまず一番最初に死んだ。願いなんてなにも持ち合わせていなさそうな男に殺されたのだ。

 

『ソレ』に言語を解する知能があればきっとこう言っていただろう。何してくれてんだてめえ。

 

 次に目を付けていた男もサーヴァントを失い敗退した。先のと同じ男の仕業である。

 

『ソレ』に口があればきっとこう叫んだはずだ。だから何してくれてんだよてめえ。

 

 しかもあろうことか、自身が聖杯の中で隔離され、大きな魂が一つ二つと聖杯の中に満ちていく様を、薄壁一枚挟んだところから見せつけられているのである。

 

 その上さらに特大の魂も捧げられた。これだけあれば器は十分に満たせることができただろうに。

 

 これだけあれば生まれることができるのに。

 

 恨めしい。

 

 憎らしい。

 

 妬ましい。

 

 脈動が激しくなる。『この世に生まれ出たい』という意志が、誕生を望む感情がさらに強くなる。

 

 しかしその願いを聞き届け、形を与えてくれる存在はすでにいない。自身はこのまま産まれることもできないまま朽ち果てるのだろう。

 

 そのはずだった。

 

『ソレ』が、突如頭上に現れた【それ】から、手を差し伸べられるまでは。

 

 

 

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【それ】は、本来自我など備わっていなかった。

 

 ただの魔力の塊としてこの世界に零れ落ち、自我が生まれた瞬間の記憶もなかった。

 

 ないが、なぜ自我を持つに至ったのかは理解できている。

 

 生まれることを、すなわち生命の形をとることを他者に望まれたからだ。

 

 そうして生まれた後、何度も【それ】は奪い合いに巻き込まれ、殺され、その度に魔力の塊に戻り、生まれ変わり。何度も何度も。

 

 ある時から【それ】は生まれ変わることを閉じられた。三つに分解されたまま固定され、無色の魔力を生成するだけの礼装として自我を持たずに過ごしてきた。

 

 そこに、転機が訪れる。

 

 紫を基調とした少女が、その礼装を繋ぎ直し、【それ】を幼女として生き返らせたのだ。

 

 それによって、【それ】は礼装であったころには削られていた、願望器としての性質を取り戻していた。三つの『石』として分割されていたころに産出していた、魔法に近しい大魔術も行使しうる莫大な魔力量を体内で完全にとどめたまま循環させることで、ささやかな願いなら繰り返し叶えることができる存在となっていた。

 

 とはいえ【それ】を生き返らせた紫の少女からすれば大した魔力量ではない。

 

 神代の世界から産み落とされた神秘であるというその希少性は認めるも、それだけ。叶えられる願いのスケールは冬木の聖杯には遠く及ばないし、サーヴァントの受肉に必要な魔力量と比べても誤差といえる程度の魔力でしかない。

 

 紫の少女は、生き返らせた【それ】の正体がわかるとあっさりと興味を失った。あとは他の呪体と同様に戦争が終わってから整理しようと考えていた。

 

 そうして今まで他の陣営から集めた呪体と一緒に倉庫に仕舞われた【それ】は、生き返った直後であり。その内にある自我はそれ相応のものでしかない。

 

 言い換えれば、人格が定まっていない。意志もなく、ただ倉庫の奥で微睡の中に眠るだけ。

 

 だから【それ】はただ自身が持つ性質のままに、自分の足元から響いてきた、強く、純粋な願望を聞き取り、そちらに向けて無意識に手を差し伸べた。

 

 

 

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『ソレ』のもつ『生まれ落ちたい』という意志を読み取った幼女の形をした【それ】は、しかし自身だけでは到底『ソレ』の願望を叶えるには足りないことに気づく。

 

 まず魔力だ。『ソレ』の器を満たすのに必要な莫大な魔力は、自身の生成する魔力だけではどれだけの時間で達成されるかわからない。満たすには英霊の魂が最低でも5体は必要なのである。英霊一騎が人間の魂数万から数十万人分にあたるわけだ。

 

 次いで必要なのは、『ソレ』に姿と形を与えるための“祈り”という名の殻だ。生まれ落ちるために必要な形は、“祈り”に乗せられる願いによって定義される。そうして現世での姿を得ることができなければ『ソレ』は外に出ることができない。

 

 これらのものを求めて、【それ】は自分のいる空間、倉庫と呼ばれたそこを這いずり回って調べた。

 

 魔力を産むことができる人間が六個あった。それらを生きたまま取り込んだ。体から光の糸のようなものを伸ばし、【それ】自身と魔術師たちの身体を包み込んでいく。ついでにその周囲に置かれていた鉱石や宝石、五十数体の悪霊、その他呪体等々も同時に巻き込んでいく。

 

 それは巨大な光の繭であった。

 

 それらを繭の中で魔力を産むための部品として取り込みながら、【それ】は神殿にあるあらゆるものを取り込んでいく。

 

 その中に、【それ】にとって幸運な巡り逢いがあった。

 

 取り込む範囲を広げていく過程で、【それ】は“祈り”としてふさわしいものを見つけたのだ。

 

 これで、『ソレ』の願いを叶えることができる。【それ】はそう判断した。

 

『ソレ』は、自分が生まれ出ることができることに歓喜した。

 

 光の繭に包まれながら、薄い自我の中で【それ】は身体を震わせた。【それ】は己が誰かのために役に立ったことに本能的に歓喜したのだ。

 

『ソレ』の器に必要な魔力はまだ満たされていない。しかし『ソレ』に形を与えることができる“祈り”を知ることができた。

 

 であるならば、器が満ちることを待つまでもない。

 

【それ】は考える。【それ】と『ソレ』が一つになればいいと。

 

 いまだ空虚な『ソレ』の器と、魔力を産み続ける【それ】が融合し、取り込んだ“祈り”を体現する形で一旦生まれればいい。

 

 自分たちが形を得て生まれた後に、周囲の生物を取り込んで器を魔力で満たせばいい。『ソレ』の願望である“殺戮”を兼ねることにもなる。

 

 幼い自我で考えた【それ】の構想に、『ソレ』は賛成した。

 

 生まれ落ちることができるならなんでもいいと。

 

 “殺戮”という目的を果たすことができるならそれでいいと。

 

 斯く在れと祈られた姿そのままに、斯くの如く為せと望まれた所業を果たせるのならそれは願ってもないことだと。

 

 こうして、聖杯の泥と世界の雫は、最悪の形で結びついた。

 

 アトラム・ガリアスタが予想していたよりも遥かに早いタイミングで、その最悪はこの世に生まれ落ちる。

 

 

 

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「幸い、アンリ・マユが生まれるまでにはまだ時間的猶予がある。というわけで第七回メディア陣営作戦会議~」

 

 わたし、メディア様、桜嬢、ホムンクルスたちとアサシンたち。森の中、空飛ぶ円蔵山を仰ぎながら全員が胡坐になって輪を作っていた。神殿にある会議室は使えないのだからしかたないけど、この季節の日本ってやっぱり寒い。

 

「作戦として今すぐ思いつくものはいくつかあるけど」

 

 ざっと挙げるとこんな感じだ。

 

 ① メディア様が円蔵山の地下に潜り込んで大聖杯のアンリ・マユを浄化する。

 ② メディア様が神殿に乗り込んで魔力炉ちゃんを破壊または元の形に分解する。

 ③ メディア様が神殿に忍び込んで倉庫の中身全部回収してから山ごと吹っ飛ばす。

 

「待ちなさい、全部私頼みじゃないの」

「しょうがないじゃないですか、私たちの中で空飛べるのも聖杯をどうにかできるのもメディア様しかいないわけですし」

「もう少し他の案も考えましょうよ」

 

 他の案と言っても、あとはアンリ・マユの生まれたい願望よりも強くアンリ・マユが生まれないようにしてくださいって魔力炉に願うか、今持ってる小聖杯でアンリ・マユの抹消を願うとか、そのくらいしかないんだけど。

 

「前者は無理、後者は論外よ。聖杯をこんなことで使用して受肉できなくなるくらいなら滅べばいいじゃない」

「英霊としてまあまあ最低なこと言いましたねあなた」

「元よりこの身は反英霊よどうせ」

 

 メディア様がその矮躯に似合わないヤサグレ具合を見せている。戦犯扱いしすぎていじけちゃった。

 

「セイバーの宝具を使えれば③の吹っ飛ばすのが一番早いと思うんですけど……統括個体、セイバーさんは心臓でなんか言ってる?」

「ブリトン人とブルトン人以外は滅びればいいとか言ってます」

 

 こいつらそれでも英霊か? ブリテン過激派かよ、さすが故郷のために歴史改編を試みるだけあるわ。

 

 仕方ないのでネットワーク越しに直接セイバーともう一度交渉してみる。

 

 

 わたし:そんな冷たいこと言わないでくださいよ。もしかしなくても人類の危機なんですから。協力していただけたなら次の聖杯戦争で協力しますから。

 騎士王:自業自得なのだから自分の尻くらい自分で拭くべきでしょう。そもそも、我が友まで操って私と敵対させたあなたたちと会話も交渉もする気はありません。

 

 

 操る……? あ、さてはこの騎士王勘違いしてやがる。

 

 

 わたし:いえ、我々はあくまであなたとマスターを分断させるように令呪で命令しただけであの憎悪はバーサーカー本人の感情かと。

 騎士王:令呪ですか。やはりそういうことですね。あなたの策略で狂化されて私に襲い掛かってきましたが、やはり我が友が私を憎んでいるはずはありませんでしたね。

 

 

 こ、この合法ロリ女騎士が。

 

 

 わたし:言っておきますけど、あなた円卓から嫌われていましたからね。

 騎士王:は⁉ な、なにも知らない現代人が、き、誰が嫌われている証拠ですか。適当なこと言わないでください。

 わたし:嫌われてるから! ランスロットめっちゃキレてたから! 円卓の半分がランスロットに付いて豪族はモードレッド側で革命に参加とかそれどう見ても治世に失敗してるから! 

 medeia:あなた、交渉するのではないの? なんで喧嘩してるのよ。

 

 

 あ、しまった。説き伏せてエクスカリバー借りるつもりが、謂れもない罪を着せられてついムキになってしまった。

 

 というか、なんだろう。さっきから感情の抑制が効かない気がする。

 

 

 わたし:あの、すみません。知ったようなことを言ってしまって。当時の事情もいろいろあったのでしょうし

 騎士王:……情けは無用です。くっ、見ていなさい。いつかこのホムンクルスの身体を乗っ取ってあなたを叩き切ってやりますから。

 第0番:主! 主! 清廉な騎士王とやらが他人の身体乗っ取るとか怖いことを言っているのですが! 

 わたし:やってみろよどこに需要があるのかよくわからん貧乳くっころ女騎士! その時には脳に仕込んだ反乱防止用の自爆装置でそのお綺麗な顔吹っ飛ばしてやるからな! 

 第0番:主⁉

 

 

 おかしい。言うつもりのないことをまたネットワークに乗せてしまった。現代まで辛うじて残った断片的な情報や資料で英霊にものを言うなんてばかばかしいと、以前から思っていたのに。

 

 それに、ホムンクルスの自爆装置は秘中の秘だ。ホムンクルスの前で暴露するなんてありえない。

 

 なんだこれは。なんらかの精神干渉? 

 

 私が頭に手を当てていると、森の外が急に明るくなった。

 

 視線を向ければ、やはりというか、空に浮いている神殿がビカビカと野外コンサート会場のように色とりどりの光を放っていた。

 

 なんだあれ、光の筋というか、舞台照明みたいな光が何本も空に向かって伸びている。

 

 ただでさえ魔術の秘匿に抵触しているのに、あんまり目立たせるのはやめてほしいんだけどな。まあ最終的には関係者全員死んだ間桐家のせいにして私は実家に逃げるから別にいいんだけどさ。魔術協会の監視は適当に金を握らせておけばいいし。

 

「やはりいざというときに役立つのは洗脳や暗示の魔術より金の魔力よ」

「どうしたのマスター、あなたさっきから変よ?」

 

 神殿から空に向かって四方に伸びている光の筋が、朝顔が閉じるように一点に集まった。

 

 その光を一身に浴びながら、黒と赤のドレスを身に纏った巨大な女が、円臓山を足場にするようにして現れた。

 

「メタリク・メタリカ・キルエムオール! 独身魔法少女アイリちゃん、参上! 人類のみんなー! 命乞いの準備はいーい?」

 

 色とりどりの舞台照明に照らされて、ビシっと片足を上げて、ウインクした左目に横ピースを当てている。

 

「まずいわね」

 

 メディア様が半ば茫然と、魔法少女を名乗る巨大な女を見上げている。

 

「あの存在から放たれる魔力の波長は、人の精神に干渉して本音を引き出す作用があるわね。魔力炉から生まれた幼女のそれに近しいものがあるわ。さっきからあなたの言動がおかしいのもあの魔法少女のせいかしら。あの魔力炉のものにしてはずいぶん悪意が感じられるけれど」

 

 関係ないけどなんであんたこんな頭おかしい光景を前にしてそんな真面目な話できるの?

 

 髪の隙間から尖った耳が突き出ている。これはメディア様から聞いた魔力炉の特徴と一致する。

 

 しかし、それ以外の特徴は聞いていたものとはまるで違っていた。

 

 まず体型である。ボンキュッボンである。頭身も高く、間違っても幼女とは言えない、成人女性といって差し支えない体格である。

 

 肌は雪の様に白く、その腰まで伸びる髪も同様に白い。瞳は赤く、その上には王冠のような黒い髪飾りを載せている。

 

 加えてその女が纏っている服は、黒を基調とし赤いラインが随所に入っている。ドレスの色合いは、前世で見知った聖杯と同化した桜嬢のそれに非常に酷似している。

 

 しかしそのデザインは桜嬢のそれとは異なり非常に煽情的だ。臍から乳房の谷間までがら空きであり、その豊かな胸部を隠しているのは首から暖簾状に垂れたパーツのみである。スカート部分は非常に短く、かつ両腿にスリットが入っている。

 

 等々言葉を並べて説明したが、実際この一言でイメージを共有するには十分だろう。

 

 黒アイリじゃんあれ。

 

 前世でプレイしたとあるゲームで登場した黒アイリと呼ばれた存在が、キャピキャピした魔法少女らしい名乗りを、魔法少女らしいポーズで叫んでいた。

 

 30秒ほどの時間が経って、ようやく彼女は魔法少女ポーズを解除した。自分の身体を確認して、手に握っているファンシーな杖を見つめてぼそりと、

 

「……なんだ、これは」

 

 キャピキャピなウインクピース決めたときとは打って変わった、元のアイリスフィールであれば決して出さない、煉獄の様に燃える怒りを込めてそうつぶやいた。

 

 なぜ魔法少女なのか、とホムンクルスへと視線を向ければ、やつらは一斉に視線を逸らしやがった。

 

 倉庫に仕舞っておいた、ホムンクルスどもが集めていた婚活魔法少女シリーズのビデオテープやらなんやらが、アンリ・マユや魔力炉、さらには仮死状態にしていたアイリスフィールとなんかいい感じに混ざったっぽい。

 




キルエムオール(Kill 'Em All)
1983年にリリースされた、アメリカのヘヴィメタバンド『メタリカ』のデビューアルバム。日本語で『皆殺しにしろ』の意味。
キルゼムオールではない。

黒アイリはFGOにて行われた 『Fate/Zero』とのコラボイベント『Fate/Accel Zero Order』でのシナリオボス。アイリスフィール曰く「この世すべての悪に汚染された聖杯のなれの果て」。
天の衣を着ているがアインツベルンが何を考えてこんなデザインにしたのかは不明。
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