石油王()に転生したので全力でメディア様に媚びる   作:Una

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第24話 終結

 それから1時間の間のことは、メディア様やホムンクルスたちから聞いた話である。

 

 というのも、『全て遠き理想郷』で身体が再生したとはいえ瞬間的に脳の許容範囲を超えた激痛に襲われたため気絶してしまったためだ。

 

 ともかく私が気絶している間に事態は進行していた。

 

 私の尊い犠牲によって黒アイリちゃんとアンリ・マユの繋がりが断たれ、アイリスフィールさんの身体が解放されて黒アイリではなくなった。

 

 黒アイリという存在が消滅したことによって、円蔵山を浮かせていた魔術もまた同時に消滅した。上空で土台から崩壊しようとしていた神殿は、メディア様が術式を引き継ぐことでかろうじて落下を耐えた。

 

 とはいえいきなりのことであり、術式の理解も足りていない状況ではいつバランスを崩して落っことしてしまうかわかったものではない。そのため、メディア様に命令された統括個体は私を担いで再びアサシン梯子を伝って地面に戻った。

 

 その後数十分の時間をかけて、メディア様は音もなく円蔵山を元の山頂に着陸させたらしい。さすメディ。

 

 着陸させたのち、メディア様はアサシンたちを総動員させて神殿の中を確認してくれた。

 

 まず『全て遠き理想郷』で神殿の中に残っていた呪いの泥を全て払って回った。

 

 次に倉庫の確認である。

 

 静かに着陸させたことで、黒アイリちゃんやライダーの戦車でぼろぼろにされていた神殿はなんとか崩壊せずに済み、中に残していたアインツベルン陣営の三人は特に外傷なく回収できていた。彼らは願望器が周りを取り込むときに巻き込まれていたらしく、魔力生成の糧として魔術回路を生きたまま利用されていたらしい。そのせいで全員魔術回路がズタズタに焼き切れていたが、メディア様の『修補すべき全ての疵』で修復させたとか。

 

 とはいえ仮死状態から無理やり魔力を絞り出された雁夜おじさんは完全に死んじゃったってさ。『仮死』のハサンさんがしょんぼりしていた。

 

 エルメロイ夫妻は元から死んでいたけれども、メディア様が保存魔術をかけていたおかげで鮮度は維持されたままだった。

 

 同じく倉庫に保管していたはずの鉱石類や呪体は、やはりと言うか、全て黒アイリちゃんが振り回していた杖に使われており、そのままの形で祭壇に突き刺さっていた。これは元から神秘を含有していたことに加え、神代の願望器とアンリ・マユが魔法少女の術式を起動させるのに使用しまくったおかげでとんでもない神秘を内包するに至った。これは解体するのはもったいないとのことで、メディア様は杖を剣に改造し、統括個体の武器にする予定だとのこと。

 

 そこまで話が進んだところで私は目を覚ました。

 

 呪いやら戦車の雷やらによる損傷が『修補すべき全ての疵』によってすっかり修復された神殿にある仮眠室だった。

 

「お目覚めですか、主」

 

 ベッドサイドから私を看ていたのは、三つ編みを下げている三番個体だった。

 

 そこでネットワークも介して情報を共有したのだが。

 

 あとなんだろう、なにかを忘れている気がする。

 

 ウェイバー君? 彼はどうにでもなるでしょ。ライダーの戦車もあるし、神殿に死体も見つからないし。ウェイバー君の死体がないということからライダーが未だ現界しているのは確かだろう。しかしアーチャーとの戦闘でただでさえ枯渇気味だった魔力が、戦車を乗り回したことでさらに削られ、もはや現界させることも厳しいだろう。

 

 その状態であればアサシンでも倒せる。あるいはウェイバー君をメディア様に洗脳させて令呪で自害させてもいい。

 

 つまりほぼ勝ち確。

 

 さてどこにいるのだろう、アサシンに捜索をお願いしようと思っていると、懐の携帯電話が鳴った。

 

 このタイミングで電話かけてくる相手とか心当たりはウェイバー君しかいない。

 

「もしもしウェ」

『おう! キャスターのマスターか!』

 

 どでかい胴間声に鼓膜を貫かれた。泥を払ってひとまず役目を終えた『全て遠き理想郷』が枕元に置かれていたのでそれにタッチする。無事に破れた鼓膜が修復された。

 

 つうかライダーかよ。

 

「なんでライダーから電話が? ウェイバー君になにかあった?」

 

 それにしては声が上機嫌だけどこのゴリラ。

 

『いや? ウェイバーなら隣におるぞ』

 

 

 第6番:隣に!? 

 わたし:何に興奮してんだ

 

 

 バカなのか。いやイスカンダルは史料では同性ともいける口だったらしいけど。……ウェイバー君の貞操が危ない! 

 

『いやなに、お主には一言断りを入れておきたくてな。このまま何も告げなければコソ泥と変わらぬゆえ』

 

 何の話だ? 

 

『先ほどまで暴れていた黒装束の女が言っていた神代の願望器であるがな』

 

 嫌な予感がした。そう言えばどこにあるんだ? メディア様から聞いた話には言及がなかったなそう言えば。

 

 

 medeia:あ、あら、そういえばどこに置いたかしら

 第0番:弊も知りません

 妖 美:私も存じません

 

 

『お主がぶつかった衝撃で願望器らしきものが白髪の女から弾かれてな。ぽーんと飛んで、余の戦車の御者台に飛び込んできたのだ』

 

 ふざけんな。

 

『これも余のラックの賜物だな! 神殿が墜落しそうという時に戦車から降ろすのも面倒だったゆえ載せたまま神殿から脱出したわけだが』

「いや返せよ」

『この征服王に対して返せとは異なことを。まあいいじゃんか。聖杯戦争の賞品である聖杯はお主に譲るゆえな。それに願望器としてはお主の体当たりのせいで壊れておるぞ。ウェイバーによればバラバラになってしまって機能を失っているとのことだ。残念だったな』

 

 バラバラ? ああ、『破戒すべき全ての符』の効果でメディア様が一つに繋ぎなおしたのもリセットされたのか。

 

「ん? じゃあ受肉してないのアンタ」

『うむ。惜しいことにな』

 

 やったぜ。あとはアサシンでちくちく嫌がらせを続ければ魔力が削れて持久勝ちだぜざまぁ。

 

 こいつ生かしておいたら世界征服とか言い出して絶対ろくなことにならないしな。いや別にそれでイスカンダル対魔術協会とかになっても中東住みの私には関係ないんだけど、下手すると同じゴーストライナー保持者ということで私に討伐依頼が来る可能性があるからな。あーよかったよかった。金色の粒粒になってお空に溶けて消えてくださーいアデュー。

 

『魔力炉としては動いているようであるから余の現界のための魔力を供させておるが』

 

 くそがよぉ。

 

 がはははは、とスピーカーから響く呑気な笑い声も癪に障る。

 

 しかしその笑い声が一瞬で顰められた。

 

『それとも取り返しに来るか? 言っておくが、今の余は魔力を全快させておるゆえ、お主らをまとめて蹂躙してやることも訳ないのだが』

 

 言葉に詰まる。

 

『こうして電話とやらでお主に伝えておるのはあくまで余のマスターの厚意によるものだ。本来ならその神殿ごと征服してやることもやぶさかではないのだが、まあお主とウェイバーは仲が良いらしいしな』

 

 

 第6番:仲が良い(意味深)

 わたし:いい加減にしとけよ6番

 

 

 仕込んでる爆薬で頭爆散させるぞ。

 

『そのうちまた酒を飲みに行くからな。楽しみにしているぞとキャスターに伝えておいてくれ』

 

 ではな、と一方的に電話を切られた。

 

 プー、プー、という無機質な電子音を聞きながら思う。

 

 あのヒゲいつかむしる。

 

 

 

 ¥¥$$€€ ¥¥$$€€ ¥¥$$€€

 

 

 

 そんな感じで聖杯戦争は終わった。

 

 アーチャー・ランサー・バーサーカーの分の魔力が溜まった小聖杯を使ってメディア様とアサシンたちは無事に受肉を果たし、あとは事後処理を残すのみである。

 

 独身魔法少女巨大アイリちゃんの暴れる姿は、深夜であったとはいえやはり冬木の多くの住人に目撃されていた。というかカメラで録画していた住人がいたようで、その動画がテレビ局に売られてしまった。

 

 独身魔法少女アイリちゃん、アニメに先んじてまさかの全国デビューである。

 

 早朝から特番を組まれて放送されてしまったため、日本のマスメディアの一部を牛耳っているガリアスタカンパニーでも検閲が間に合わなかった。

 

 ここまで広がってしまってはもはや魔法でも使わない限り目撃者全員の記憶を操作するなんて不可能である。

 

 仕方がないので、本当に仕方ないので、私は今回の動画が婚活魔法少女メディアちゃん! のアニメのプロモーションということにする。

 

 隠すのではなく、むしろ撮られてしまった動画は大々的に情報番組やワイドショーに使わせてもらうことにした。

 

 中東の石油王がどでかい光源を使ったど派手なプロジェクションマッピングでお気に入りのジャパンアニメの広告を打ったという筋書きだ。

 

 ただ広告が深夜に行われたそれだけだと行動に矛盾が生じてしまうので、メディア様とアイリスフィールさんにお願いして婚活魔法少女メディアちゃん! のCMを撮影させてもらった。

 

 二人とも絶対にNO! の構えをとっていたが、「神秘の秘匿のため! 秘匿のためだから!」でごり押しした。

 

 顔を真っ赤にして魔法のステッキを振り回すアイリさんは非常に愛らしかったし、死んだ魚の目をして棒読みで魔法少女の名乗りを上げるメディアさんは正直マージで面白かった。総監督として私も撮影に参加していたけれど、羞恥や絶望感を演技に滲ませているうちは無限にリテイクさせたので、最終的には非常に満足のいく仕上がりのCMとなった。

 

 二人とも若干やけくそ気味ではあったけれどまあ良しとしよう。

 

 他に教会が爆発したりしていたけど、そちらは順当にガス会社のせいにしておいた。許せねえよ冬木ガス株式会社……! 

 

 

 

 そんなこんなで聖杯戦争の事後処理も終了し、私は今回一番お世話になったムジーク家へと戦果報告に向かった。

 

 日本からムジーク家の本拠地がある北欧まで飛行機を乗り継ぎ、たどり着いてすぐ案内された本邸の応接室。明るい照明と飾られている調度品や絵画はどれも品があり、高価ではあるがそれをひけらかすような下品な派手さはない。ムジーク家は魔術師としては目立った功績のない家と思われているが、表社会ではむしろ成功している側の家と認識されており、かつ歴史も古い。そんな貴族然としたありかたを示すような屋敷だった。

 

 応接室に案内されてからほんの5分ほどで、若干息を切らしたムジーク卿がたっぷりしたお腹を揺らして駆け込んできた。

 

「お久しぶりです、ムジーク卿」

「おお! 久しぶりだなガリアスタ殿!」

 

 ソファから立ち上がり、ムジークと両手で握手を交わす。

 

「ムジーク卿のご支援のおかげで無事聖杯戦争を勝ち抜くことができました」

「いやいや謙遜されるな。聞いているぞ、他陣営撃破数は最多だったとか」

 

 言峰、間桐、アインツベルンの三たてだからね。ちなみに次点はホテルと教会を吹っ飛ばした切嗣君の2得点。

 

「ホムンクルスは役に立ったかな?」

「それはもう。彼女たちがいなければ間違いなく私は死んでいましたね」

「ほうほうほう! それはそれは」

 

 嬉しそうにムジーク卿は何度も頷く。まあそれだけホムンクルスの件で私に恩を売れているってことだしね。

 

「そ、それで、対価というか、あれだ。わかるだろう?」

「もちろんです。契約を結びましたからね。その履行のために本日は参りました。焦らしたりはしませんよ」

「おお! で、ではどこかね? その、約束の、アインツベルンの」

「こちらです」

 

 私は連れてきていた、横に立っていた切嗣君をムジーク卿の前に押し出した。

 

「……?」

「?」

「え?」

「はい?」

 

 ムジーク卿は切嗣君を見てきょとんとした顔をした。しばらくその視線を私と切嗣君の間で行ったり来たりさせて、

 

「あー、ガリアスタ殿? これはどういう冗談かな? というかどちら様かね、この死んだ魚の目をした草臥れた中年は」

「ですから、彼がムジーク卿にホムンクルスを作成していただいた対価です。どうぞ遠慮なく」

 

 ムジーク卿は露骨に眉をしかめた。

 

「アインツベルンのホムンクルスを譲っていただけるという話では?」

「私はアインツベルンのマスターを引き渡すとお話しました」

「だから! アインツベルンのマスターは女型のホムンクルスだろう⁉ 監視からもそう聞いているぞ! セイバーとともに港で戦っていたと!」

「それは偽装ですね。アインツベルンのマスターはこちら、魔術師殺しの衛宮切嗣君です」

 

 ムジーク卿が目を見開いて切嗣君を見つめる。錬金術を中心としたムジーク家の人間でも、悪辣な手段で魔術師を屠るフリーランスの殺し屋の名前は聞き及んでいたのだろう。

 

 加えて切嗣君が見せつけた手の甲に残る令呪の跡を見て、私の言葉の意味を理解したようだ。

 

「せ、聖杯戦争では前回もホムンクルスはマスターとして参加していたのだろう? 調べた限りではそのような情報があった」

「前回はそうでした。今回は違いました。それだけです。そしてこれで契約は成立しました」

「ふざっ……!」

 

 事態をようやく飲み込んだムジーク卿は顔を真っ赤にしてこちらに怒鳴りつけようとした。が、切嗣君が右手に握っていたごっつい拳銃をちらつかされて言葉を飲み込んだ。ビビってて草。

 

「さて。ムジーク卿との契約は済みましたし、行きますか切嗣君」

「ああ」

「待て! 貴様らどこに行く! このゴルド・ムジークをこんなペテンにかけおって、ただで帰すと思っているのか!」

 

 背を向けて部屋から退出しようとする私たちに向かってムジーク卿の怒声がぶつけられる。

 

 ペテンと言われてもな。初めから私はアインツベルンのマスターを生きたまま連れてくるとしか言ってないしな。勝手に勘違いしただけじゃんね。

 

「どこへ行くのかと聞かれれば、私たちは今からアインツベルンの家に殴り込みに行きます」

「……なに?」

 

 あらためて振り向いて、ムジーク卿に語り掛ける。

 

「聖杯戦争なんて何度も起こされたらたまらないでしょう。せっかく手に入れた戦力と同格のものを何人も召喚されたら価値が下がってしまいますし、勃発するたびに世界滅亡の危機が迫ることになるのですから冗談ではありません」

 

 本来の聖杯は無色の魔力の塊であるが、それは聖杯に願いをかける人間の思想を願望成就の過程に反映してしまうということだ。アンリ・マユが宿っていなくとも、殺し屋の衛宮切嗣が世界から争いをなくしてくれと願えば、その方法は結局人類滅亡になってしまうのである。

 

「そういう訳で、後腐れなく主催者を潰しちゃおうかなって。ほら、デスゲームものとかバトルロワイヤル系の作品って大体参加者が協力して主催者を倒す流れになるでしょ」

「ばと、なんだって? いや、そんなことはいい。潰すだと? アインツベルンを? 1000年以上の歴史をもつ家系だぞ? それに歴代の聖杯戦争での戦闘経験もある。いくら魔術師殺しが味方だろうと分が悪いだろう?」

「キャスター」

 

 私が指をはじくと、一瞬で私の隣にメディア様が転移で現れた。それを見てあんぐりと口を開けるムジーク卿。気持ちはわかる。魔術師の屋敷の中に転移してしまう技量もさることながら、彼女がもつ神秘や魔力の量は傍目から見ても規格外だ。

 

「きゃ、キャスター? 聖杯戦争が終わったあとにも、サーヴァントを使役し続けているだと⁉」

「たかが1000年がなんだというのですか」

 

 私の肩に腰かけるように浮かぶメディア様を見上げる。

 

「我々には勝利の女神がいるのですから」

 

 あ。

 

「じゃあムジーク卿も一緒に来ます? アインツベルンを潰すついでに、あそこがため込んだ錬金術の秘奥やホムンクルス生成のノウハウも失敬しようかなと思ってるんですよ。ホムンクルスの技術について、キャスターと共同研究といきませんか? いえ、無理強いはしませんが」

 

 そんな思い付きの誘いに、ムジーク卿は一も二もなくブンブンと首を頷かせた。

 

 




プロジェクションマッピングは1969年のアメリカディズニーランドのホーンテッドマンションが世界初だそうです。
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